【付録】 美香と百海の「リアル交換日記」
9月1日 美香
私と百海ちゃんは、この前のラジオ対談の後、百海ちゃん⾏きつけのカフェ「マーレ・ブルー(Mare Blu)」に向かった。カフェでは、ラジオ対談では話しきれなかったことを、夜遅くまで語り合った。そして、最後に、百海ちゃんからの提案で、私たち2⼈で「リアル交換⽇記」をやろうということになったのである。
なぜ「リアル」なのか。私たちは、「センチMENTALクラブ」のメンバー同⼠では、「《電⼦》交換⽇記」というのをやっているのである。「《電⼦》交換⽇記」というのは、スマートフォンのアプリを⽤いて、オンラインでやり取りする交換⽇記なのだが、それに対して、今回、私たち2⼈がやるのは、普通のノートに書いて交換し合う⽇記、つまり「リアルの」交換⽇記なのだ。
さて、初⽇の今⽇は、私の番であるが、最初なので、以上のような、この交換⽇記の「成り⽴ち」の説明で、今⽇の⽇記に代えさせていただく。次回からは、その時に旬な話題を書いていきたい。
9月7日 百海
(著者注: 百海の⽇記には、イラストや絵⽂字などが、ふんだんに盛り込まれていて、⼤変かわいらしいのであるが、ここではその描写は、省略させていただく。以降の⽇記も同様。)
美⾹ちゃん、こんばんは! 今、あたしは、いつものように、⼤好きな⾳楽を聴きながら、⼀杯やってます。仕事の後の⼀杯は最⾼でーす。
さて、今⽇は、定期通院の⽇でした。だから、午前中は、お店の⽅は主⼈に任せて、病院に⾏ってきました。
そうそう、あたし、今では⼀⼈で通院できるようになったのよ。林先⽣や桝井さんが、あたしの病状を随時(ずいじ)、イタリア語に翻訳して送ってくださるから、それをドクターに⾒せるだけでいいのよね。だから、あたしのつたないイタリア語でも、⼗分、診察が成り⽴つから⼤助かりなの。お2⼈にはホント、感謝ね。
今⽇の診察の結果は、特に変わらず、異常はないとのことでした。よかったぁ。あたし⾃⾝としても、最近は安定している感じがします。
そういえば、イタリアに来てから、あまりひどい症状に悩まされることはなくなったわね。ひょっとしたら、イタリアの空気があたしには合っているのかもしれない。だとしたら、こっちに来てよかったわ。⾔葉の壁は⼤変だけど。
さあ、明⽇も仕事なので、ある程度したら寝ることにします。居酒屋の時と違って、朝が早いので、夜更かしはできないからね。おやすみなさい、美⾹ちゃん。
9月12日 美香
私は、クラシック⾳楽の⼤ファン。機会を⾒つけては、しばしばコンサートに出かける。しかし、仕事をしているし、結婚もしているし、お⾦にも限りがあるので、そうしょっちゅうは出かけることはできない。
そこで、普段は⾃宅で、⾳楽鑑賞をしているわけだが、その私のオーディオ環境についてお話ししたい。
まず、⾳楽再⽣機器として使っているものは、パソコン。パソコンにCDから⾳楽を取り込んで、パソコンに接続してあるスピーカーから、⾳を鳴らすのだ。
⾳楽の取り込みに関しては、パソコンのストレー ジを圧迫しない範囲で、「最⾼の⾳質」で取り込むようにしている。したがって、そんなに多くの⾳楽を保存しておくことはできないので、随時、⾳楽データの⼊れ替えをしている。
スピーカーに関しては、近所迷惑にならない程度ではあるが、なるべくいいものが欲しかったので、マルボーズ社の、そこそこの値段がするものを購⼊した。おかげで、私の部屋は、コンパクト・コンサートホールと化している。家にいながら、コンサー ト気分に近いものが味わえるのだ。
最近買ったCDは、トシヤン指揮、ガブリンフィル演奏の、ゲテモノスキーの「交響曲第4番・第5番」が⼊ったCDだ。お気に⼊りの指揮者・オーケストラによる演奏なので、⼤いに期待していたのだが、残念ながら今作は、私的(わたしてき)にはハズレかな。⾳の広がりや重厚感に⽋けるというか。
ごめん、百海ちゃん。こんなマニアックな話をしても、ちんぷんかんぷんよね。適当に流してくれていいから。
おやすみなさい。
9月19日 百海
今⽇は、前回の美⾹ちゃんの⽇記に対抗して、あたしも⾳楽の話、しまーす!
あたしが今、はまっているのは、「弦楽器バンド」っていうバンド。20代男⼦7⼈組で、ヴァイオリンが2⼈と、ヴィオラ、チェロが1⼈ずつ、それからエレキベースとドラム、そして、ボーカル。楽器担当のメンバーは、コーラスも担当。
⾳楽性としては、クラシック⾳楽をサンプリングした、ロック調の⾳楽が多いらしいんだけど、クラシック⾳楽のことは、あたしにはよくわからないな。ロックはもちろん⼤好きなんだけど。もとになっているクラシック⾳楽のことは、今度、美⾹ちゃんに聴いてもらって、教えてもらおっと。
歌詞は、⼈間の「複雑な⼼理」を、細かく描写したものが多くて、病んでいるあたしにはよく響くのよね。ボーカルの村屋君が、独特の「ハイトーン」でその歌詞を歌うから、思わず酔いしれちゃう。それに、そのバックで流れる、クラシック⾳楽の楽器たちの⾳⾊もまたまた素晴らしいのよね。彼らの⾳楽は、芸術の域に達していると思うわ。
さあ、美⾹ちゃん、どうだ? あたしだって、⾳楽への情熱は負けないわよ。美⾹ちゃんと、ジャンルは違うけどね。
9月24日 美香
今⽇は、私が夫のことをいかに「《かわいがって》いるか」、もとい「愛しているか」を知ってもらおうと思う。
実は、少し前に、夫との会話をこっそり録⾳させてもらったものがある。その中から少し抜粋して、⽂字に起こさせてもらって、この⽇記に載せようと思う。取りようによっては、のろけになってしまうけどごめんね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【美香】音生さんって、かなりの倹約家ですよね。でも、せっかく節約したお金を、すぐにタクシー代に放出してしまうのですが……。
【音生】そんな。できるだけ電車とバスを使ってますよ。スケジュールの都合上、どうしても、タクシーを使わざるを得ないことがあるだけなんですから。
【美香】はいはい。わかってますよ。
それはともかく、音生さんは「基本的には」節約を心がけておられますよね。
【音生】はい、「基本的には」。
【美香】そもそも音生さんは、なぜ節約しようと思われたのですか?
【音生】そうですね、それはやはり、一度、極度の貧乏生活を経験したからですね。当時の仕事を辞めてから、次の就職先を探していた時、実はお金がほとんどなかったんです。
【美香】それは当時の音生さんが、「宵(よい)越しの銭は使わない」主義だったからでしょう。
【音生】う。痛いところを突きますねぇ。
まぁ、それは置いといて。
それで、いつお金が無くなるかわからないという、恐怖におびえながら、就職活動をしていたのでした。あのときはもう死んだほうがマシじゃないかって、思ったくらいです。
それで、いつまた、あのような極貧状態に陥らないように、最低限のお金でやっていこうと、心に決めたんです。
【美香】なるほど。「自業自得」ではありますものの、つらい貧乏生活を経験されたおかげで、今、我が家の家計は、それほど圧迫(あっぱく)されずに済んでいるわけですね。
【音生】「自業自得」とまで言わなくてもいいでしょう! ちゃんと反省してるんですから!
【美香】そんなにムキにならなくても。
わかりました、わかりました。ちゃんと節約してくださっているので、私は大助かりですよ。
【音生】わかっていただけたらよろしい!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
どうかしら。ちゃんと夫のことを「愛して」いるでしょう?
え? 「いじめて」いるようにしか聞こえないって? またまたぁ。これが私の「愛情表現」なのよ!
ていうか、私、こんなに不器⽤だったんだなぁって、つくづく思う。恥ずかしくってどうしても素直になれない。
でも、夫は「こころの専門家」だから。いや、それとは関係なしかもしれないけど、私のことを「無条件に」受け⼊れてくれている。だから、私は、⼀⽣この⼈について⾏こうと思う。
あーあ、やっぱりのろけになっちゃったかな。ごめんね、百海ちゃん。次の⽇記では、百海ちゃんものろけてくれていいから。
おやすみなさい。
9月30日 百海
あたし、今、⽇本の実家に帰ってきてるの。夫が、まとまった休暇をくれてね。今、学⽣のアルバイトさんが、たくさんシフトに⼊りたがっているから、あたしがしばらく離れていても、⼤丈夫なんだって。
実家でのんびりしていたら、なんと、桝井さんと牧⼝さんが遊びに来てくださったんだ。お2⼈にはうちに上がっていただいて、⼀杯やりながら語り合うことにしたの。⼤体は、ミーティングで話は聞かせていただいているけど、改めてお2⼈の近況を聞かせていただいたわ。
(著者注: 現在、ミーティングは、林⾳⽣のスケジュールに合わせて、⽇本またはイタリアの会場で⾏われている。その際、その場にいないメンバーは、桝井の技術による「ヴァーチャル出演」または「ビデオ通話」で参加している。)
桝井さんは、ご結婚後、奥さんから会社を引き継がれて、現在で1年が経とうとしていて、ようやく桝井さんによる新体制が、定着してきたところなんだって。そして、おめでたいことに、奥さんのお腹の中には、⾚ちゃんがいるんだって。無事に⽣まれてきますように。
牧⼝さんは、まだ独⾝みたいよ。でも、お仕事の⽅は、かなりご順調みたい。なんでも、作家としての⽅のお仕事のほうが、ご⾃分には合っていて、「啓発活動」も、「⼩説家」として、「⼩説」という形でやっていくことにされたんだって。
牧⼝さんのご本は、⼀般の筋では売られていないらしくて、ちゃんと「ご縁のある⼈」だけに届くようになってるのだとか。でも、それで、⾷べていけるのかしら。と、思ったので、訊(き)いてみたら、「講演活動」でさんざん稼いでこられたから、当分の間は⼤丈夫なんだって。
桝井さんと牧⼝さんには、イタリアのお⼟産のお菓⼦、2⼈分はなかったから、2つに分けてお渡ししたわ。桝井さんは、イタリアのことはよくご存じだから、ごく普通の反応だったけど、牧⼝さんはほんと、物珍しそうに、眺(なが)めておられたわ。
お2⼈をお見送りした私は、いつものように、⼤好きな⾳楽をかけて、もう⼀杯いただくことにしました! ああ、以前は、この部屋で、毎⽇⼀杯やって、翌⽇はまた、初代⼤将や夫と⼀緒に働いていたんだなぁ。もう、遠い昔のようだわ。
復刻版10「こころのダイアローグ 特別編《新・居酒屋万歳》!」~障がい者雇用で働くこと~ 林音生(はやしねお) @Neoyan0624
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます