【ケ】 主に担当していた業務

【美香】 百海ちゃんは、業務としては主にどんなことを担当していたの? 調理は担当してなかったって言ってたわよね。


【百海】 そうね。あたしの障がいのことを考えて、大将があたしの業務を限定的にしてくださっていたのよね。

 で、主な担当は、「洗い場」だったわね。うちの洗い場は食洗器を使った単純な作業だったし、シフトで一番担当が多かったのが洗い場だったの。


【美香】 へぇ。でも食洗器だって単純とはいえ、いろいろ工夫が必要だったんじゃない?


【百海】 確かにそうね。食器を食洗器内にどういう並べ方をすれば、一度によりたくさん洗えるかとか、どういう順番で配置していけばよりスピーディーに配置できるか、とか。少なくともあたしは、そういうことを常に考えながら、毎回の洗浄作業をやってたわ。


【美香】 そうかぁ。でもそれだけ洗い場担当が多くて、なおかつそんな風に毎回工夫を凝らしながらやっていたら、1年も経ったら、かなりの経験が積めるんじゃないかしら?


【百海】 そうね。1年でもあたしは、とても作業が楽にスピーディーにやれるようになっていたけど、2年目になると、周りから見ても、その経験値の違いがはっきりしていたみたいね。なんか、あるときから「洗い場の神」なんて言われるようになっちゃって。ちょっと当惑したわね。


【美香】 「洗い場の神」かぁ。それだけそのころの百海ちゃんは、ものすごいスピードで効率よく作業をこなせているように、周りからは見えていたってことよね。


【百海】 そうみたいね。あたしはあんまりその自覚はなかったんだけど。

 でも、一度だけうっかりして、手をケガしちゃったことがあってね。

 食洗器はたまに故障してしまうんだけど、そういう時は手洗いをしないといけないの。そうしたら、劣化してしまってたグラスが簡単に割れてしまって。スピード出すもんだから、力加減もよくなかったんだと思うわ。


【美香】 そうだったのね。手は大丈夫だったの?


【百海】 痛みは知れていたけど、傷口がちょっと大きくて。大きな絆創膏を貼って、なんとかその場はしのいだわ。でも傷は大したことなかったみたいで、数日のうちにはすっかり治ったわ。


【美香】 そっか。それはよかったわ。

 洗い場の仕事のことで、ほかに何かある? 完全に洗い場に専念していればよかったのかしら?


【百海】 うーん。基本的にはそうだけど、お客さんが飲み物などをこぼされたときに、駆けつけて掃除をするのも、洗い場担当の人がほとんどやっていたわね。

 あとは、お客さんが少なくて、手が空いているときに、客席の簡単な掃除をするのも、洗い場担当の人の仕事だったわね。


【美香】 そうなのね。お客さんがこぼされたものの清掃って大変じゃなかった?


【百海】ううん。むしろ、

「お仕事作ってくださってありがとう!」

 って気持ちだったわね。しかも、ぱっと駆けつけて掃除して差し上げると、

「あなたはいつもすぐ駆けつけてくれるわね。一番頼りになるわ。」

 なんて喜んでいただけるからうれしくて。だから、こぼされたって聞いて、いやだなl、って思う前にわくわくしてたわね。


【美香】 それはまた百海ちゃんらしいというか、すごいわね! そんな心構えで仕事してたら、何があっても楽しんじゃない?


【百海】 うん。さっきの電車が止まった時もそうだけど、この仕事は、ハプニングの連続だし、毎日何があるかわからないから。それを楽しまないとやっていけないわよ。


【美香】 確かにそうかもね。百海ちゃんは臨機応変に対応する能力があるのね。


【百海】 そうみたいね。というよりそういうことを要求される仕事のほうが向いてるみたい。単調な仕事は楽だけど、長続きしたことはないわ。


【美香】 そっかぁ。その調子で、これからもハプニングを楽しんでね!


【百海】 うん!




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