【コ】 大将の退職とその後
【美香】 さて、仕事は順調だったのかしら?
【百海】 そうね。特に⼤きなトラブルもなく、順調に働いていたわ。でも、あたしが勤務を開始して、1年が経ったころに、⼤将、お辞めになったのよね。
だいぶ前から、バーの新規⽴ち上げを進めておられて、この度、準備が整ったとのことで、そちらに移られることになったのね。
で、お店は、息⼦である夫が継いだというわけ。
【美香】 そっか。でも、⼤将が交代だなんて、すごく不安じゃなかった?
【百海】 もちろん、不安だったわよ。今度の⼈が、障がい者に理解のない⼈だったらどうしようかと思ったわ。当時は夫にはまだ、会ったことがなかったのね。
【美香】 でも、旦那さんはいい⼈だった……。
【百海】 うん。それに、初代⼤将は、ちゃんと夫にあたしのことを、詳しく伝えていてくださっていたみたいで。おかげで、あたしは、前と変わらず、楽しく仕事を続けていくことができたわ。
【美香】 そして、その後、旦那さんは、ここイタリアでレストランを開業され、百海ちゃんを連れてご結婚。
【百海】 そうね。まさか、そんなことになるとは、全く思ってもみなかったけどね。あたし、「仕事⼀筋」だったから、⼀⽣独⾝かもって思ってたし。
【美香】 そっか。でもほんとよかったわね。おかげで、居酒屋さんでの経験が、ほんとに最⾼の思い出に、なったんじゃない?
【百海】 そうね。特に初代⼤将は、腐っていたあたしを、鍛え直してくださった恩⼈だわ。「働くための全て」という、あたしの「⼈⽣最⼤の宝」を授けてくださった⼈だわ。
【美香】 そっかぁ。その宝があるからこそ、今も、働き続けることができてるんだもんね。しかも、お店の副店主という責任のある立場で。
【百海】 そうね。だから、この宝を取り戻してくださった初代⼤将には、いくら感謝しても、し⾜りないくらいだし、⼀⽣かけても、100%の恩返しはできないと思うわ。働ける限り働き続けることが、せめてもの恩返しになるのかな、と思って、毎⽇頑張ってるの。
【美香】 そっか。なんかうらやましいなぁ。私も、そういう仕事における「メンター」的な⼈と出会いたいなぁ。
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