第7話 犯罪者ギルド
スレイヴィニア帝国、ルーデンバルト
外洋に続く内海に面する港湾、内陸部へ伸びる複数の運河、都市から放射状に広がる陸運の街道。
その地理からもわかる通り、国境を接する他国からの荷のほとんどが経由する交通の
さらに、数多くの高級
わかりやすくいえば「大都会」。
そんな大都会の一角、都市内に存在する中でもひと
やはり高級な
黒い
「
腰を深々と折り、ドスの利いた
「皆さん出迎えありがとうございます。
ただいま戻りました」
そんな様子を馬車の中からうかがいながら、ヴォイドはもう何度目かもわからないほど繰り返した嘆きを胸中でまた繰り返す。
(……はわわ…………はわわわわわわわわ~~~…………っ!!
元はといえばあの時つい、ほだされてしまったのがまずかった。
〈血の誓約〉。
あの時ルリファーが口にしたのは、破ることを許されない極めて強力な契約術式……いや、呪いの名前だ。
必要なのは洗脳や魅了に
誓いを破れば全身を絶え間ない苦痛が襲い、自死による逃避も許されない……他者に殺害を依頼しても、身体が勝手に動いてそれを防ごうと抵抗。なんとか死亡できても、魂が未来永劫苦痛から解放されないという徹底ぶりである。
ペナルティが大きすぎて、国家間や商人同士の契約等では逆に利用しづらいとされているもの。
それを、「第Ⅱ階位の魔眼を提供する」なんて無理難題に対して
あまつさえ、足りなければ己の「身体」をヴォイドのような中年の好きにさせるとも。
まだ恋に焦がれるような年頃の少女がだ。
そうまでして母から受け継いだギルドを守りたい。
その
つまるところが歳のせい。
年若い少女の健気な覚悟を前につい、しょーもない己の過去の云々を気にしているのがアホらしくなって、少しくらいは力を貸してもいいかと、思ってしまった。
まさか自分が力を貸すギルドが……
犯罪者ギルド。
ギルドと名乗ってはいるがもちろん、公的にこれを制度上のギルドとして認める国家はない。
要するに犯罪を生業としている者たちの組織。
職業犯罪者たちが商人や職人、冒険者等の
他にもマフィア、カモッラ、カルテル、ギャング、ヤクザ等々、各種言語で犯罪組織を意味する言葉で呼ばれているが……どう呼ばれていようと、本質は似たようなものだろう。
厳しい上下関係こそあれ、身内同士の結束は強く仁義にも厚いが、一方で裏切り者やギルド外の部外者への態度は極めて冷酷。そして残忍。
無法者でありながら、彼らは下手な法よりよほど苛烈な、独自の「
伝え聞くイメージ程度ではあっても、世間知らずのヴォイドにすら彼らの危険性はそれなりに理解できるほどだ。
だから。
だから、例えば。
……一度は口にした「力を貸す」という約束を
もちろん事前に相手が
ただ、そんな言い訳を
もっとも、ヴォイドとてそれなりに腕に覚えはある。
だが
彼らの怖さの本質は、舐めた真似をした相手を徹底的に追い回し、どれだけの犠牲を払おうと必ず成し遂げる「
俗に「メンツが潰れる」なんて表現で彼らのプライドは強調されるが、あれは何も、感情的な怒りだけが原因ではない。
ある相手に組織の評判や名誉を汚され、それに対し何の
そんな弱みを見せれば、弱肉強食の裏社会、他の組織は喜んでその弱みに喰らいつき、むさぼり尽くすことだろう。
時に、小さな損害への報復を怠けたことが、組織の根幹を崩すほどの損害へと拡大することさえあるという。
損害を与えれば必ず報復してくる。
そう理解している周囲は逆に、軽率に彼らに手を出そうとはしなくなる。
国家や法という「自分に損害を与えた相手に代わりに報復してくれる」存在の庇護を拒否している彼らにとって、
だからこそ、ひとたび報復行動に出た彼らは執念深く、手段も
彼らと事を構えるのなら最低限、どちらかが滅びるまでやり合う覚悟が必要だった。
よしんばヴォイドが組織の誰より強くても、組織を丸ごと相手にして返り討ちにできるほど圧倒的とは限らない。
たとえヴォイド自身はなんとかなったとして、そうすれば今度はヴォイドの身内や知人を探し出し、そちらに
端的に言って
だからこそ怖い。
関わりたくない。
関わりたくないが、もう手遅れだ。
口約束だろうと
「それで、
「ええ。ご紹介します。彼こそが母の望んだ理想の強者――ヴォイド様です」
紹介を受け
車内(喫煙可)で気を落ち着けるために吸っていた
ヴォイドの姿を見るや、その場にいる面々の間からどよめきが漏れる。
向けられる視線の多くに含まれている感情は、驚きと困惑、不審や――
「ではヴォイド様。中へどうぞ。シャティさん、ご案内を」
「……はい。承りました。どうぞこちらへ」
彼らの反応は想定内だったのか、ルリファーはさして気にした風でもなく、出迎えの一団の中にいた黒髪の、ポニーテールの少女に声をかけた。
シャティと呼ばれた黒服の少女は、困惑する他の面子を尻目に、少なくとも表面上は冷静に、ヴォイドを先導する。
(あ゛~~~~~……どうしてこうなった……せめて期待通りの強さが私にあると良いんだが……)
向けられる視線に前途の多難を予感しながら、ヴォイドはせめて、物置小屋の奥深くに眠っていた
意識して背筋を伸ばさないと、
(……ああ……みんな顔が怖い……名実ともにカタギじゃない……山に帰りたいよぅ……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます