突撃、隣のヒロイン


 とまぁ、酷い目に遭った俺だが、何か普通に生きてた。

 曲がりなりにも神様から授かったスキルの力は偉大というべきか、体には火傷一つないどころか、服まで無事だったくらいだ。どうやら《イージス(笑)》の効果範囲には、俺が身に着けているものまで及んでいるらしい。

 まぁ当然、気絶も出来ないくらいに痛かったんだけど、それだけって言うか……人間が感じられる痛みっていうのにも、限度があるんだなって思った。それでも死ぬんじゃないかってくらい痛かったけどな。


「やべぇ……まだ全身痛い気がする……」

「そうですね……今日はお互い酷い目に遭いました……」


 ちなみに、直接ギャンブルスキルの罰ゲームを受けなかったシオンだけど、余波を受けて吹っ飛ばされてたし、周囲一帯のヘタレチキンは殆ど跡形もなく消滅してたけど、無事なヘタレチキンの死体も幾つかあったので、俺とシオンの二人はボロボロのドロドロになりながらも、何とかヘタレチキンの死体を荷車に乗せてツェストの街まで戻ってくることができた。

 ……まぁ、問題はここからなんだが。


「とりあえず、お前はギャンブルスキル以外を何とか習得しろよ……いくら魔力があったって、そんなネタみたいなスキルで冒険者するとかバカだろ」

「わ、私だって好きでこのようなスキルを習得したわけではありませんっ。そもそも、習得できるスキルは個々人で選べるものではないのですから!」

「……ちょい待て、それどういうこと?」


 聞き捨てならない情報が耳に入ってきて、俺は思わず、隣で一緒に荷車を引っ張っているシオンの方に顔を向ける。


「スキルカードを持ってダンジョンを攻略することでスキルを習得することができるのは有名なので知っているとは思いますが、習得できるスキルの種類は個々人の素質次第なのです。例えば《ファイアーボール》のようなポピュラーなスキルを習得したくても、《ファイアーボール》を習得するための素質が無ければ、いくらダンジョンを攻略しても習得できません」

「……うん、それで?」

「私の場合だと、その……ギャンブルスキルに関する適性が高すぎると言いますか……何度ダンジョンを攻略しても、ギャンブルスキルばかり習得するんです。それ以外だとせいぜい、小さな火を熾したり、飲み水を出したり、そういう旅に少し便利なスキルが大半でして……」

「お、お前……!」

「そ、そんな目で見ないでください! 私だって本当はもっとまともなスキルを習得したかったですよ! なのに……くっ! 試練の神、ヤーマモート様は、私を見放したのでしょうか……!?」


 この時の俺は、言い難そうにしながらも告白するシオンに向かって、信じられないものを見るよう目を向けてたと思う。

 そんな俺の視線に顔を真っ赤にするシオンをよそに、俺の思考は打算と保身に向かって動き出していた。

 

(ヤバい……特に難しく考えずにパーティメンバーに加えたけど、俺はとんでもないお荷物を仲間に引き込んだんじゃなかろうか?)


 現状ギャンブルスキルしかなくても、ダンジョンを攻略することでまともなスキルを習得してもらえるんじゃないかと期待していた。

 しかし、それも素質の問題で難しいとなると、俺がコイツとパーティを組み続けるメリットってある? 安定性も欠片もない、下手しなくても自爆する可能性が高いギャンブルスキルばっかり習得するコイツを?

 確かに誰でもいいから手伝ってくれって感じで仲間を募集したけど……それでもない。こいつだけはない。いくら美少女でも許されないことはあるのだ。


「そっかぁ! それは大変だなぁ! まぁ挫けずにこれからも頑張れよ! シオンの今後の活躍を祈ってるからさ! とりあえず今日のヘタレチキン代は山分けってことにしよう、そうしよう!」

「ちょっ!? どうして不採用通知をする面接官みたいなことを言うのですか!?」


 何としてもシオンをパーティから追放しなくては……!

 そう判断してそれとなくパーティを空中分解させようとした俺だったが、この女ときたら俺の服を掴んで抵抗してきやがった!


「お願いです見捨てないでください! 私こんなスキルしか習得できないせいで、まともにお金が稼げていないのです! 食事も満足に摂れてないし、宿で休むお金もないのです!」

「えぇい止めろ! はっなっせっ! 服が伸びちゃうだろ!? 別に俺じゃなくてもいいだろ!? 俺だって人のこと言えないくらいにはクソ雑魚なんだし、他のパーティに入れてもらった方がいいって!」

「こんな安定性のない物騒なスキルしか使えない人間を、仲間に入れてくれる冒険者などいるわけないでしょう!?」

「だろうなっ‼」


 俺ですらシオンをパーティに入れたくないと思ってるんだ。まともな冒険者たちなら、自分たちの足を引っ張ることが目に見えているシオンを仲間にしようなんて酔狂な選択肢を取らないだろう。

 だからこそシオンは藁にも縋る気持ちで、同じく仲間集めに苦労している俺の募集に応じたんだろうが、いくら何でもシオンを仲間にするとか無理! 


「とにかく無理! 無理なもんは無理! お前を仲間にしたってタイパ解決しない上に報酬金が減るだけじゃん! そんな奴を仲間に引き込めるほど、俺に余裕はありません! 諦めて一人でヘタレチキンとギャンブルしてなさい!」

「何という暴言を……! そんなことを言ってもいいと思っているのですか……?」

「あぁっ!? 思ってるよ! それが何だってんだ!?」

「求人募集の条項を満たしているにも関わらず、不当な理由で不採用にするのは王国法違反……雇用法違反に該当するのですが」


 冷静な口調で言ってのけるシオンの言葉に、俺は全身が固まったかのような錯覚に陥った。


「貴方はメンバー募集の紙には習得スキルなどの特定の条件を記さず、来る者拒まずといった文言を記していましたね? 我が国の法律では、今回のような一件は雇用機会の不当な剥奪として扱われ法律違反。過去の判例によれば詐欺罪も成立したこともあります。しかも貴方は一度私をパーティに入れた……それなのに無理矢理解雇しようとすれば不当解雇にもなりえますね。これだけの条件が揃えば、私が訴えれば普通に裁判で勝てると思うのです。ギルドの職員も証言してくれるでしょうし」

「お、おおおおおおおおまっ、お前っ!? 脅す気か!?」

「脅すだなんて人聞きの悪いことを言わないでください! 私はただ、私に与えられた正当な権利を行使できると言っているだけです!」


 なんてこったぁっ! 俺の求人募集が、こんな特大の爆弾に変身するだなんて!

 出来るなら単なる脅しや冗談と決めつけたいところだが……この目はマジだ……! この女、俺が無理矢理パーティから追放したら迷いなく裁判所に駆け込む……まるで飢えた狼みたいな目をしていやがる……!

 どうする!? どうする俺!? このままじゃ下手しなくても前科ついて監獄行きになったりする!? すでに街をパンツ一丁で歩いた罪で二回も捕まってるから可能性高い!?


「色々と面倒をかけることは重々承知していますがお願いします! 私にできることなら何でもやって見せますから! だからどうか私と一緒に冒険者をしてくださいぃぃいいいっ!」

「だぁああああああああもうっ! 分かった! 分かったから放せ! さっきから何かヒソヒソされてんだよ!」


 言い争いの声が大きくなりすぎたのか何時の間にか野次馬が遠巻きから俺たちを見てヒソヒソと何かを呟いている。

 耳を澄ましてみると、「あれってここ最近街に住み着いた変態じゃない?」とか、「憲兵に連絡した方が……」とか呟いているのが聞こえた。このままだとマジで通報されかねない。


「考え方を変えてみれば、仲間がいなくて困るのは俺も同じだしな……実際、今日だってヘタレチキンを沢山倒せて財布が潤ってるし」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ、本当だよ。一応、スキルの相性が良いしな」


 正直使いたくない手段だけど、《イージス(笑)》と《ディザスターギャンブル》は相性が良いのは認めざるを得ない。使用回数さえ残っていれば、賭けに負けた時のデメリットを帳消しにできるし、いざって時は道連れ戦法に切り替えることもできる。


「だからって、死ぬほど痛いのは変わらない! 正直何度も使いたい戦法じゃねーんだ! 何でもするってんなら、俺の方針に従ってもらうからな!」

「は、はいっ。よろしくお願いしますっ」


   =====


 とりあえず、あの後はギルドにヘタレチキンを納品して報酬金を山分けした後、明日の待ち合わせ場所と時間を決めてからシオンと別れることになった。

 過程は散々だったけど、連日纏まった金が入ったのは結果オーライ。今日も食事量は多めにし、銭湯で汚れを落としてから段ボールハウスに戻ることにした。

 なんだかんだ言っても、貯蓄は心許ないからな。削れるところは削っておきたいし……何よりも、明日は金稼ぎをしないから。


「あー……久々に、ちょっとは良く寝れたな」


 そんなこんなで翌日。床材代わりの段ボールを増量して、いくらか寝心地が良くなった段ボールハウスで朝を迎えた俺は外に出て、朝の新鮮な空気を吸い込む。

 今日は昨日と比べて、肩や腰の痛みがいくらかマシだ。どうやら床材を補強した甲斐はあったらしい。


(それにしても……ようやく出会えた仲間がアレかぁ)


 俺はシオンの姿を思い浮かべながら溜息を吐く。

 俺も大概人のこと言える立場じゃないけど、もうちょい真面な仲間が欲しかったというのが本音だ。

 見た目は良いんだよ、最高に。それだけである程度のマイナスに目を瞑れる程度には。でもそれはあくまである程度ってだけで全部じゃないし、能力面だけの話じゃなくてこう……性格面でもそこはかとないポンコツ臭がするのは気のせいか?

 少なくとも、初対面のイメージは昨日一日で木っ端微塵になった。スマートにモンスターと戦うみたいなイメージを描くことはできない。


(……ま、約束しちまったもんは仕方ないか)


 終わったことをグチグチ言ってても仕方ない。人手が増えて助かることの方が多いのは事実だし、ここは気持ちを切り替えて前向きに考えよう……そう俺が思い直していると、段ボールハウスの方から物音が聞こえてきた。

 俺の段ボールハウスからじゃない。一昨日の夜から俺の段ボールハウスの隣に設置された、どこかの誰かの段ボールハウスからだ。

 もしかしてお隣さんも起きたところなんだろうか? 挨拶でもした方がいいかも……そんなことを考えていると、扉代わりの布が動き、中から思いもしなかった人が現れた。


「……え?」

「……あ」


 段ボールハウスから出てきたのは、まさかのシオンだった。

 シオンは俺を見るや否や、顔を青くして冷や汗をダラダラ流し始め、それから少しの時間をおいてから咳払いをして、何事も無かったかのようなすまし顔で優雅に髪をかき上げる。


「このようなところで奇遇ですね、ルシア。貴方も早朝の散歩ですか?」

「誤魔化せてねーよ。何やってんだお前」





 ――――――――――



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