全裸で迎える運命の出会い


 異世界転生のロマンと言えば色々あると思うけど、その中でも代表的なものが三つあると俺は思っている。

 すなわち、チート展開・現代知識無双・美少女とのロマンスである。

 ぶっちゃけ、俺自身はチート展開と現代知識無双に関しては最初っから諦めていた。チート能力で俺TUEEEE! なんてできるとは思えないし、現代知識をフル活用して金とか尊敬を集めようにも、魔道具文明が発達したエルシオンでは、便利な魔道具が揃っていて、俺の半端な知識が活躍する余地がないからな。


 しかし、そんな俺でも美少女とのロマンスだけは期待してもいいんじゃないかなーって、ちょっと思ってたりしてた。

 何しろ俺は公爵家子息……金持ちだ。金の力で女たちが何もしなくても寄ってくると思ってたし、奴隷として囚われている美少女を見つけて買い取り、優しく接して『ご主人様大好き♡』って言ってもらえる展開とか、美少女メイドにご奉仕してもらうとか、そういうのを滅茶苦茶期待してた。

 まぁそんな金の力に物を言わせた未来への展望も、家を追い出された時点で立ち消えになっていたんだが……それでも心のどこかで期待していた。もしかしたらここから美少女との出会いがあるんじゃないかって。


 そして今日、俺はこの異世界に生まれて初めて、極上の美少女と出会った。


 雪みたいに綺麗な白銀の髪と、宝石をそのまま嵌め込んだみたいな紫色の瞳。まるでライトノベルのキャラがそのまま飛び出してきたみたいな、前世じゃまずテレビでもお目に架かれなかったくらいの現実離れした美少女だ。

 正直、こんな美少女がマジで実在してるんだって思った。そしてそんな美少女と接点を持てたってだけで、普段の俺なら勝ち組になったような錯覚を覚えたと思う……でもさ。


全裸のこんな時に出会う相手じゃなくない!?


 どーすんだよこれ!? 俺今素っ裸だよ!? お相手さん俺の姿を見て完全に硬直してるよ! 完全に変態だって思われてるよ!

 出来ることなら今すぐ言い訳をしたい……! この格好には事情があるのだと! でも相手が何のリアクションもしてこないから下手な言動が取れない……!

 一体どうすればいいのか……俺と美少女との間に変な沈黙が流れる中、先に口を開いたのは向こう側からだった。


「……貴方がメンバー募集の張り紙をしていたルシアという方で間違いありませんか? ギルドの受付から、いつもヘタレチキンの討伐をしていると聞いていて、もしかしてと思ったのですが」


 俺の後ろにある、ヘタレチキンの死骸が載せられている荷車を見て、そう話しかけてくる美少女。

 ス、スルーしてきたぁぁああああっ! 俺の全裸を完全にスルーしてきたああああああっ! 何これ!? どう反応するのが正解なの!?


「た、確かに俺がメンバー募集してるルシアで間違いないけど……えっと……?」

「名乗り遅れて失礼しました。私の名前はシオン、先日ギルドに登録したばかりの新人冒険者です。故あって共に戦ってくれるメンバーを募集していたのですが、そんな時に貴方の存在を知りまして」

「それってつまり……!? 俺のパーティメンバーになりに来たってこと!?」


 そんな馬鹿な!? 自分で言うのもなんだが、俺はとんでもねークソ雑魚ナメクジだぞ!? そんなどう見ても足を引っ張ることが目に見えている奴の仲間になろうなんて、この子は正気か!?


「いや、それは嬉しいけど、え!? 俺のこと詳しく知ってる!? ヘタレチキンもまともに倒せないんだけど!?」

「えぇ、存じています。その上で貴方のパーティメンバーになりに来ました」


 嘘だろ……そんなことあり得る……? まともな冒険者なら、俺なんかを仲間にしようなんて考えない。俺だって逆の立場ならご免被るもん。

 何か裏があるんじゃないか……そう勘繰る俺に、美少女もとい、シオンは続けてこう言ってきた。


「これでも冒険者になる前はダンジョンを幾度か攻略し、攻撃スキルを会得しています。役立つ場面もあると思うのですが、如何でしょう」

「攻撃スキルを!? う、う~ん……!」


 これは悩ましくなってきた。攻撃スキルって言ったら、火球を飛ばしたり雷落としたりする、ファンタジーによくありがちな攻撃魔法と同義だ。

 それが使える人間が仲間になってくれるなら、それに越したことはない。少なくとも、ヘタレチキンを倒すのにわざわざ手間暇かける必要はなくなるからな。

 しかし何か裏があるのではないかという疑問も残る。俺はしばらく考えて――――。


「それじゃあ、とりあえず明日からヘタレチキンの討伐に付き合ってもらえる……?」


 結局、俺はシオンをパーティメンバーに迎え入れることにした。

 攻撃スキルの魅力に負けたっていうのもあるけど、何よりも俺を騙したところで得られるメリットっていうのが一切見えてこないからだ。一応、公爵家の息子ではあるけど、社交にはほとんど出なかったから知名度なんて皆無だし。

 もしかしたら一時的な場凌ぎ程度に考えているのかもしれないけど、それでも俺にメリットのある話であることに違いはない。


「……っ! ありがとうございます。それでは、明日は私のスキルの説明も兼ねて活躍して見せます。それで、依頼金の分配や集合時刻などは?」

「あぁ、そうだな……」


 それから、俺とシオンは諸々の取り決めをしてから、この日は別れることにした。

 結局俺の全裸は華麗にスルーし、長い髪をなびかせながら颯爽と立ち去っていくシオン。その後姿を見て、俺はある確信を抱いていた。


(もしかして、シオンって貴族の出なんじゃないか……?)


 放蕩息子とはいえ、これでも高位貴族の生まれだ。言動の端々から滲み出る気品さや、何気ない所作の優雅さとか、そういうのは見ていれば何となく分かる。とにかく、生まれと育ちが良さそうってオーラを感じるのだ。凄い仕事が出来る女って感じがする。

 まぁそれ自体は問題ない。貴族の跡取りじゃない子供が冒険者になるのも、別に珍しい話じゃないらしいし。問題はやっぱりシオンがわざわざ俺のパーティメンバーになった理由なんだが……それを踏まえた上で、俺は若干テンション上がってきていた。


 ――――単純に顔が良いのは勿論だけど……オッパイまでデカい!


 服の上からでも分かるくらいのナイスなオッパイだった。正直、あれを見てテンションが上がらない男が居たら連れて来いって感じだ。

 男って単純な生き物だ。騙されているとしても、あんなデカ乳美少女がパーティメンバーになってくれるならいいかなって……今はそう思ってる。

 もしかしたら、このまま上手くいけば良い感じの関係になれちゃったりして――――。


「……いや、ないな」


 初対面を全裸で迎えてそんな展開になるなんて普通にあり得ねぇ。せっかく美少女と知り合えたのに、こんなのってねぇよ……!

 無常すぎる現実に冷静になった俺は、涙が零れないように上を向くのであった。


   =====


 その美貌に見とれる周囲の人間からの視線を受け流しながら、 活気溢れるツェストの街中を颯爽と歩く少女がいた。

 先程、ルシアと別れたばかりのシオンである。シオンはしばらくの間真っすぐに道を進んでいくと、やがて人気のない路地裏に入り込み……誰も見られない奥の方まで進んだ瞬間、パタリと倒れてそのまま真っ赤な顔を両手で隠しながらゴロゴロ転がった。


「う……う、ぁぁぁぁああああああ……!」


 先ほどのルシアとの出会いの場面を思い出して悶絶するシオン。その姿は先ほどまで保っていた毅然としたものではなく、年頃の乙女そのものである。


「み、見てしまった……見てしまいました……! 父上のも見たことが無いのに……と、殿方のアレをぉおお……!」


 ルシアも話にだけは聞いたことがある。実物を見たのは初めてで、凡そ聞いていた通りの見た目だったのだが、実際にこの目で見た時のインパクトは想像を絶するものがあった。


「け、毛むくじゃらで、大きなブラブラが一つにコロコロが二つ……っ!」


 昔、北部から来た商人から聞いた話をシオンはふと思い出す。雪深い北の地では雄々しく、巨大で、毛むくじゃらで、鼻が長く、大きな耳を持つ巨大なモンスターが生息していて、北の民はその生物を何よりのご馳走にしていると。

 そんな生物の名は――――


「……グ、グレイトマンモシュ……! ~~~~~~っ!」


 口にすると余計に恥ずかしくなったシオンは更にゴロゴロと床を転がり……そのまま壁に額から激突し、「へぶっ!?」という情けない悲鳴を上げる。


「というか、どうしてあの人は全裸だったのですか……!? 絶対におかしいでしょう……!?」


 頭を抱えて悶絶しながら、ルシアは本人を前にしては直接言えなかった愚痴を吐き出す。

 普通の精神の人間は全裸で屋外にいられない。もしかしたら自分はとんでもない人間のパーティメンバーになってしまったのではないかと猛烈に後悔し始めた。というか、野外で全裸で過ごしているような人間とパーティを組むなんて普通に嫌だ。


「ですが……私にはもう後がない……! もう覚悟を決めるしか……!」



 ――――――――――



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