人生を舐めた末路
「それじゃあ、もうパンツ一丁で街中を出歩いたらダメだよ」
「はい、すみません。ご迷惑おかけしました」
看守に見送られて、俺は留置所を後にする。
幸いというべきか、決して美味くはないけど食事は出してくれたし、薄っぺらくて灰色のボロボロな古着を貰った。使い回されすぎて廃棄予定の囚人服らしい。それを着て留置所を後にしたんだが――――
「見て、あの服。浮浪者よ、浮浪者」
「やだぁ、怖いわぁ。この街はいつの間にこんな治安が悪くなったのかしら」
「ママー、あのお兄ちゃん汚い服着てるー」
「しっ! 見ちゃいけません」
くぅ……周りの視線がすっごく痛い……! これでも公爵家子息なのに、どうしてこんな目に……!
「……とりあえず、武器屋に行こう」
周りの視線に耐えながら街を進んで、昨日ぶりに武器屋にやってきた俺がベル付きのドアを開けると、店主がギョッとした表情をした。
「どうした兄ちゃん、たった1日で随分と貧乏……じゃなくて、様変わりして」
「あんまり深く突っ込まないで貰えますかね? そんな事より、何とか金は用意できたんで、登録用の武器を買いたいんですけど」
「お、おう。ちょっと待ってな、今持ってきてやる」
……何か、凄く可哀想なものを見るような目で見られたんだけど……。今の俺ってそんなに哀れに見えるんだろうか?
「ほれ、これ全部昨日話した、一律2万500ゴルの武器だ」
「おぉ!」
店主が持ってきたのは安物かもしれないが、剣とか槍とか斧とか、男心をくすぐるラインナップ。これどれを選んでも良いのかぁ……どれにしよっかなぁ。
「お勧めはこの金属バットだ」
「いきなり現実感に引き戻すの止めてもらえる?」
これからファンタジー世界を生きるための相棒を選ぼうって時に差し出されたのは、地球でも見かけた金属バット。外見はほとんど野球道具だ。こんなん装備したら冒険者っていうより、完全に街のチンピラみたいになるじゃん。
「そうは言っても兄ちゃん、剣術は槍術に自信はあるのかい? 剣だの槍だのは、ちゃんと刃筋を立てる技術がねぇと扱いきれねぇぞ」
「うぐっ」
それを言われると弱い。俺はその手の稽古もサボりまくってたからな……ちゃんと扱えるかって言われたら自信がない。
「その点この金属バットはいいぞ。適当に振り回して殴るだけで、どんな奴でも扱えるしな」
「確かに……だったら、それ買います」
本当は剣とかに未練はあったけど、金に余裕もないし、ここは実利を取るとしよう。
そう判断した俺は金属バットを購入し、再び冒険者ギルドへとやってきた。そのまま扉を開けて中に入り、真っすぐに受付の方に向かうと、受付嬢は一瞬だけギョッとした顔をしたけど、すぐに営業スマイルに戻った。
多分、俺みたいな恰好をした奴を相手するの慣れてるんだろうなぁ。服役後の前科持ちが生活費稼ぐためにギルドにくるって話は聞いたことあるし。
「すみません、ちょっと昨日は訳あって来れなかったんですけど、武器持ってきたんで登録したいんですけど」
「承りました。武器を見せていただいてよろしいですか?」
そう言われて金属バットを見せると、受付嬢は「少々お待ちください」と言って奥へ引っ込んでいった。
言われた通り、そのまま少し待っていると、受付嬢は数枚の用紙とドッグタグみたいなのを持って戻ってくる。
「お待たせしました。こちらは申込用紙と、冒険者の身分証明に使うタグになります」
俺は申込用紙に必要事項を書いて提出し、ドッグタグを受け取る。
冒険者はこのドッグタグを提示することで依頼の受注と完了報告、報酬の受け取りができるらしい。地球で言うところの社員証みたいな物と言えばちょっと違うかもだけど、無理矢理例えるならそんな感じだ。
「ルシアさん、ですね。登録完了しました。これからはそちらのクエストボードから好きな依頼を選んでいただき、こちらの受付で受注できますので、今後の活躍をお祈りしております。……ところで、ルシアさんはスキルカードをお持ちでしょうか?」
「あぁ、持ってます」
少し説明するんだが、この世界の人間は魔力が宿っていて、魔法文明が発展しているんだけど、自力で魔法を使うことはできない。
じゃあ何で魔法文明なんてもんが発展しているのかって話なんだけど、全ては魔法を発動させるための道具……魔道具の開発がそれを実現させているのだ。
この世界の人間は魔道具に魔力を注ぎ込むことで魔法を発動することができる。それによって高度な文明を築ているわけだが、そんな俺たち人間がモンスターとかと戦う時に携帯する魔道具が、このスキルカードだ。
「そうでしたか。それでしたら、ギルドにはダンジョンの位置情報が載っている情報誌がありますので、そちらもご自由にご覧になってください。きっとこれからの冒険者活動に有益になると思いますので」
ダンジョンと聞くと、異世界物のラノベでは定番だが、実はこの世界におけるダンジョンとスキルカードはセットという扱いになっている。
スキルカードはその名前の通り、色んな方法でスキルと呼ばれる魔法を登録し、魔力を注ぎながら念じることで登録されたスキルを発動できるという代物だが、新スキルをカードに登録するための代表的な方法が、ダンジョンを踏破するというものなのだ。
伝承では、人の進化を司る試練の神、ヤーマモート様……もとい、山本さんがモンスターが蔓延る危険な世界で、人間が生き抜くために与えた魔道具がスキルカードとその量産方法であり、それと対になるように用意した試練の場がダンジョンらしい。
実際、あの神様に転生させられてスキルも与えられた身としては、その伝承には信憑性があると思う……が、正直一つだけ納得できないところもある。
人を進化させる試練を与える神様として、山本さんはこの世界ではかなり幅広く信仰されているメジャーな神様ということだ。
あの白ブリーフにネクタイだけ装備して男に迫ってくる
(まぁそれは一旦置いといて……早速依頼受けて金稼がないと)
武術の稽古とかサボりにサボりまくって戦闘経験皆無な俺だが、昨日も言った通り手頃な依頼の目星は付けている。
俺はクエストボードの前まで歩み寄り、その依頼がまだ張り出されているのを確認した。
「ヘタレチキンの討伐と持ち帰り……俺が受けるのはこれしかない……!」
ヘタレチキン。名前の通り、臆病な性質をした鶏型のモンスターだ。
大きさこそ人間並みと、地球の鶏に比べたらかなりの体格で、年中繁殖しまくってすぐに増えまくるから、放っておいたら畑とか荒らされる害獣として冒険者ギルドでは常に依頼が張り出されている。
しかし俺がこのヘタレチキンに目を付けた理由は、害獣駆除を目的としたボランティア精神なんかじゃない。
ヘタレチキンは一般人……つまり俺でも勝てるくらいに弱いのだ。
弱い魔物の代名詞であるゴブリンやスライムよりも更に弱いことで有名で、未だ絶滅していないのは繁殖力ありきらしい。
そんな弱くて数が多く、農地を荒らす生態に加え、肉の味は地球の鶏と同様なもんだから、この異世界エルシオンでは非常にポピュラーな食肉としてヘタレチキンの牧場なんてものまであるくらいだ。
しかも野生のヘタレチキンは養殖物と比べると味が良く、その肉はギルドが結構良い値段で買い取ってくれる。ギルドの酒場で提供されているのも、主に野生のヘタレチキンの肉らしいし。
「こんなの、ヘタレチキン狩りをしない理由がねぇよなぁ……!」
俺でも弱っちいモンスターを狩るだけでそこそこ儲かる、そんなギルド公認の美味しい話に飛びつかない理由はない。
残念だった親父! どうやら俺に少しは苦労して人生の厳しさを学んでほしいみたいな感じだったけど、どうやら俺のイージーモードな人生はまだ終わってないみたいだぞ!
と、そんな風にギルドを飛び出し、ツェストから出てすぐの平原でヘタレチキン狩りを始めた俺だったんだけど――――。
「「「コケコケコケェエエエエエッ!」」」
「うわあああああああああああっ! すみませんでしたぁあああああ! 調子乗ってすんませんでしたぁああああああ! ああああああああああああああっ!」
なぜか俺は、ヘタレチキン
――――――――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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