ニートに厳しいお父さん
結局、《イージス(笑)》を授かって転生することになった。
もう出だしから躓きまくってる感はあるけど、いざ転生してみればあとはこっちのもの。そう思っていたんだが、運は俺を完全には見捨てなかったのか、異世界では見事に親ガチャの当たりを引き当てた。
何を隠そう、俺は貴族……それも裕福な公爵家の一員として生まれたのだ!
正直な話、どうやって襲い掛かってくる転生者たちをやり過ごそうと思ってたんだけど、これは勝ったなって思った。
だって考えてみろよ。これだけ金のある家に生まれたら、あとは一生お家に引きこもってニート生活できるじゃん。わざわざどこに転生者がいるかも分からない危険な外に出る必要もない。一生引き籠って転生者たちをやり過ごしてやればいいのだ。神の代理戦争なんて知ったことか。山本さんも興味ないって言ってたしな。
結局世の中は金の力が全てを解決する……これも前世での最後が最悪すぎた埋め合わせだと思って、毎日を謳歌していた。
「今日も素晴らしい天気だ……。こんな日には外に出て活動したいと思わないか? ルシア」
そんなある日のこと。異世界エルシオンに存在する巨大大陸の中央に位置するディミア王国。その国の公爵として領地を経営している今世での俺の父、クルト・ナイトレイアーは窓から差し込む陽光を眩しそうに浴びながら俺、ルシア・ナイトレイアーにそんなことを言ってくる。
なるほど、大抵の人なら外に出たくなるような快晴だ。小高い場所に位置している屋敷の窓の向こう側を見てみると、元気な姿の領民たちの姿が見えそうなくらいに活気づいている街を一望できる。まるで皆がこの天気を喜んでいるかのように見えるが――――
「え? まったく思わないけど? それより眩しいんでカーテン閉めてくれない? あと新しい小説欲しいんでお小遣いくれ」
そう言い返した俺に、親父は全く目が笑っていない笑顔を浮かべながら、俺の首根っこを掴み上げて引き摺っていき……そのまま玄関先に放り投げた。
「いったぁ!? ちょ、何すんだいきなり!?」
「黙れニート息子! お前ときたら十六歳にもなって働くことも学ぶこともせずに毎日毎日パジャマから着替えもせずに屋敷の中に籠ってダラダラと! 我が家は穀潰しを飼う趣味はない!」
「穀潰しだなんて、そんな酷い! 俺は将来の為に本を読んで教養を深めているのに!」
「何が教養だ! お前が読んでいるのは娯楽小説だけだろう!? 言い返したければ歴史書の一つや二つ読んでから言え!」
「しょ、小説だって立派な本で、読むだけで教養になるんですぅー!」
何時にない剣幕の親父に何とか言い返す俺だけれど、親父は俺の主張など知ったこっちゃないとばかりに指をビシィッと突き付けてくる。
「そんなふざけたことを言ってる暇があるなら技術なり知識なりを身に付けて将来に備えろ! そんなんで将来どうやって暮らしていくつもりだ!?」
「そこはほら、公爵位は兄貴が継ぐとして……親父はこの領地以外にも伯爵位と領地あるじゃん。それを継いで楽々税金生活をしようと」
「バカに継がせる爵位などあるかぁー! そもそも税金は領民の暮らしのために使うものであって、お前の遊ぶ金では断じてない!」
ぐ……。それを言われると何も言い返せない……。
その言葉は貴族生まれのボンボンニートに効く。なんて正論で殴ってきやがるんだ。
「これまでは未成年だからってことで見逃してきたが、お前もとうとう十六歳。成人したのなら容赦しない! ルシア、お前は今日限りで家を出て独り立ちしてもらう!」
「そ、そんなぁー!?」
なんて鬼畜なことを言うんだ!? これが人間のすることかよ!?
「この鬼! 悪魔! 豚野郎! 可愛い息子にこんなことをして心は痛まないのか!?」
「思い上がるな、ルシア。お前ほど可愛げのない子供はそうはいない」
なんて事を言いやがるんだ。
しかし、ここまでするってことは親父もとうとう本気ってことだろう。……背に腹は代えられないか。
「分かったよ、親父。そこまで言うなら、俺も今日まで隠していた本当のこと……なんで俺が家に引きこもっているのか、その理由を明かそう」
「何だ? 下らん言い訳なら聞かんぞ」
取り付く島もないって感じの親父だけど、これを聞けば俺を屋敷で保護してくれるはずだ。何しろ息子の命がかかっている重大案件だしな。
「実は俺は、試練の神ヤーマモート様から神託を授かり、この世界の次なる主神を決める代理戦争への参加枠に選ばれた戦士だったんだよ!」
「…………」
「しかしその戦いはあまりに過酷……! 参戦すれば間違いなく命はない……! だから俺は自らの命を守るために、仕方なく屋敷に引き籠っていたんだ」
俺の真摯な言葉と共に衝撃的な事実を聞かされた親父はしばらく唖然として――――。
「はんっ」
思いっきり、鼻で嗤いやがった。
こ、この親父……! 全部本当のことなのにまるで全然信じてねぇ……!
確かに現実味がない話に聞こえるだろうけど、真摯な息子の言葉をここまで一蹴するなんて……!
「冗談にしては程度が低すぎる。言い訳をするならもっとマシなのを用意するんだな」
「いやだから本当なんだって! 俺はヤーマモート様の神託を受けてだな!」
「あー、はいはい。現実と妄想の区別をつけてから出直せ。とにかく、成人したからには独り立ちしろ! ちゃんと職に就いて自立できるまで、屋敷には一歩も入れんからな!」
「そ、そんな……!」
玄関先で崩れ落ちる可哀そうな俺。こんなのって……こんなのってないだろ……俺はただ――――。
「俺はただ、一生親の脛を齧って働かずに遊んで暮らしていたかっただけなのに……!」
「黙れ。無駄に綺麗な泣き顔でびっくりするくらい屑なセリフを吐くんじゃない。選別に最後の小遣いをやるから、とっとと出ていけ」
俺の切なる声も届かない。なんて冷たい親なんだろう。
そんな俺を無視して親父が両手をパンパンと叩くと、屋敷の使用人たちがズラリと現れた。
「さぁお前たち! このバカ息子をそう簡単には帰ってこれない遠い街に放り投げてこい!」
「承知いたしました。さぁ坊ちゃま、こちらへ」
「あ、コラ! 離せっ! ちくしょー! このまま連れてかれて堪るか! 皆ー、聞いてくれー! 親父ったらねー、毎日母上と赤ちゃんプレイに励んでますよー! 自分用のオムツやおしゃぶり持ってますよー!」
「ち、ちちちちちちちちちちち違う! で、でででででで出鱈目を言うなぁあああ! 私は赤ちゃんプレイなどしていない! ただ童心に帰って政務の疲れを癒してるだけだぁああ!」
語るに落ちたとばかりに動揺しまくる親父。それを見ていた使用人たちは一様に、白い目で親父を見ていた。これで当主としての威厳が下がり、部下たちの忠誠心も低下するだろう。
だがそんな俺の細やかな抵抗も空しく馬車まで引き摺られていってしまう。このまま俺の幸せな実家引き籠り生活は終わっちまうのか……!?
「ちくしょー! この恨みは忘れないからなぁー! 親父なんて、親父なんて……この、ウンコォオオオオオオオオオ!」
――――――――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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