このスキルでガチバトルは無理だよ……。
異世界転生者たちと戦え……?
一体全体どういうことだ? 俺以外にも転生者がいる? そしてそいつらと戦わなきゃいけない理由はなんだ?
「順を追って説明しよう。まずは君の転生先である異世界……エルシオンと呼ばれる地球によく似た環境の惑星には、日本でいうところの八百万の神のように多種多様の神々が居てね。僕もその内の一柱で、普段はエルシオンの人々が健やかに暮らすために様々な恩恵を与える仕事に従事している」
「え?」
俺は思わず、素で疑問の声を口から漏らした。
人々が健やかに暮らせるように仕事してる? このブリーフネクタイ姿で男に迫ってくる変態が?
そんな俺の声を無視して、山本さんは何事もなかったかのように続ける。
「そんなエルシオンの神々の間では、五百年に一度、神々の代表……分かりやすく言えば、主神を決めるイベントが開催される。そのイベントで優勝した神が、今後五百年間、主神の地位に就けるというわけさ」
「……話の展開的に、俺……というか、俺たちはその神様の選挙活動的なイベントの手伝いをするために異世界転生させられる……つまりそういうこと?」
「その通り。しかし神によって得意不得意が人間の比じゃないくらい分かれていてね。勝負内容に関する内容の取り決めが毎度難航するのだが、そこで地球の神々から提案を受けた……彼ら曰く、異世界転生をしたがる日本人が増えてきたから、本当に転生させるのはどうかと」
おかしい。急に意味が分からなくなった。そこで何で日本人が巻き込まれるんだ?
「つまり、神々同士が直接競うのではなく、神々の代理として異世界転生を望む日本人たちに代理で戦ってもらおうということになったのさ。これなら神同士て直接競い合うよりもフェアな条件で開催できるし、強い未練を残した魂が悪霊になって地球を彷徨わずに済むし、君たち人間は新しい人生を享受できる。WINWINになるじゃないか、と」
「なるほど……確かにそれなら全員が得するか。ていうか、未練残して死んだら悪霊になるの?」
「ケースバイケースだが、そうなる確率が高いね。それが若者である場合は特に。ではここで、話を引き受けてくれた場合における君たちへのメリットとデメリットを教えよう」
そう言って山本さんは人差し指を立てる。
「まずメリットだが、これは引き受けてくれた場合は無条件で異世界転生ができるというものだ。本来転生には膨大な手続きが必要で、しかも必ずしも人間に生まれ変われるわけではないから、引き受けるだけで人間に転生できるのは大きなメリットだと言えるだろう」
それは確かに言えてる……俺も断った場合そのまま死ぬか、虫けらにでも転生させられるのかと恐々としてたし。
「第二のメリット……これが神々の代理戦争に参加してくれた場合の最大の目玉だが、見事優勝を果たせばエルシオンの神々が優勝者の願いを可能な範囲で大抵のことは叶えるというものさ」
「可能な範囲で大体のことを!? それって具体的には!?」
「そうだね……三大禁則事項である洗脳、時間操作、不老不死、この三つに当て嵌まらなければ、問題ないと思うよ。それこそ、一生豪遊しても使い切れない大金だったり、優勝者だけハーレムが許されたり。とは言っても、参加者はすでに百人を超えているから優勝は容易ではないが」
「マ、マジかよ!」
なんて素晴らしい提案なんだ。もちろん百人以上の転生者から俺が勝ち抜けるなんて思い上がっちゃいないが、もしそうなったらと思うと夢が広がる。
「次にデメリットだが、エルシオンは地球と比べると幾分か文明レベルが下がるし、モンスターも跋扈しているから命の危険は常に付きまとう。そのことはよく念頭においてほしい」
「むむむむ……っ」
確かにそれは懸念に感じる……しかしそれでも人間に生まれ変われるっていうメリットと比べると……。
「決めた……俺も異世界転生する」
ぶっちゃけ、神様の代理戦争に関する関心はそこまで高くない。優勝する確率も低そうだしな。
だが、三輪車に轢かれて気絶して失禁して転落死して世界中の笑い者になる……そんな最悪な人生を別の世界でやり直せるなら、それに越したことはない。
「承知した。それでは君に神からの恩恵……スキルを与えようではないか」
「スキルっていうと、異世界で言う魔法みたいな?」
何かこう、魔力を消費して超常現象を引き起こす、みたいな。WEB小説でよくある感じの奴だ。
「大体君のイメージ通りで合ってるよ。エルシオンの人々は条件を満たすことで試練の神たる僕からスキルを授かり、それを活用してモンスターに対抗したり、生活の糧にしたりして暮らしている。そして代理戦争に参加する転生者には、もれなく担当している神からスキルを授かるのさ」
「おおっ!」
これってアレだよな。異世界転生物で定番の『生まれた時からチートスキルが宿ってる』って奴だよな? そのチートスキルがあれば異世界人生も楽に乗り越えられるんじゃないか?
そんな期待を抱いている俺に、山本さんは一枚の用紙を差し出した。
「さぁ、これが僕が君に与えられるスキルの一覧だ。よく吟味して、その中から一つ選ぶといい」
「わーいっ!」
俺は嬉々として用紙を手に取り、その内容を確かめると……自分の上がっていたテンションが見る見るうちに下がっていくのが分かった。
「あの、山本さん。ちょっと聞いていい?」
「何かな? 何でも聞くといい」
「じゃあ遠慮なく言うけどさ…………何でこんなふざけたスキルしかないんだよ!?
山本さんから渡されたスキル一覧表には、とても使い道があるとは思えないスキルばかりが載っていた。
やれ『眉毛が光るスキル』だの、『鼻毛が超伸びるスキル』だの、『一瞬でハゲになれるスキル』だの、なぜか毛に関するスキルばっかり! こんなんでどうやって異世界を生き抜けってんだ!?
「あ、もしかして代理戦争なんて物騒な物言いだけど、実はお笑い大会とか? より多くの人を笑わせた奴が勝ち、みたいな」
「いいや、普通にガチバトルだ。勝敗は死亡、気絶、降参によってのみ決定されるよ」
「ふざけんなバカ野郎っ!」
悪態をつきながらスキル一覧表を隅から隅まで読んでみたが、やっぱり碌なスキルがない。
毛に関するスキル以外だと、『尻が光るスキル』とか、『背中から後光が出るスキル』とか、『体液が虹色に光るスキル』とか、なぜか俺が光る系のスキルばっかり。どんだけ俺を輝かせたいんだ!?
「これ絶対他の転生者も頭抱えてるだろ……! ぶっちゃけどれもいらない……!」
「確かに他の神が担当している転生者たちも悩んでいるが、おそらく君とは別の意味で頭を抱えていたと思うよ?」
「え? どういうこと?」
「他の転生者には、スキルを無限に発動できるスキルとか、空間干渉や重力操作、単純に強力な炎なり雷なりを出せるスキルとか、そういう分かりやすく強いスキルが与えられてると思うしね」
「お、おまっ! おまっ! ふ、ふざけっ! ふざけんなバッキャローっ!!」
馬鹿なんじゃないかこの変態!? そんなやべーチートスキル持ちの転生者を前に、鼻毛を伸ばしたり尻を光らせてどうしろってんだ!?
「あんた勝ち抜く気とかあんのか!? こんなんでどうやって危険な異世界を生き抜けってんだ!?」
「どうやら不満のようだが、すまない……僕は試練の神。頑張って困難を乗り越えた者に恩恵を与える神格だ。何の努力もしないでチートやハーレムを望む怠惰な者には大したスキルを与えることができないし、手軽なチーレム展開を見ていると反吐が出てしまうんだ。ついでに言えば、僕は主神の地位にはそこまで興味がないから、別に君が勝ち抜けなくてもいいかなって。今回も全員参加の義務で参戦しただけだしね」
なんてことだ……もしかしたら俺は、とんでもねーハズレの神様を担当に引き当てたんじゃなかろうか?
こうなったら、本格的に代理戦争での優勝は諦めて、他の転生者に会ったら即座に降参するしか……。
「あ、そうそう。大事なことを言い忘れていたが、他の転生者を戦闘で倒すことで新たなスキルを授けられるから、降参は殆ど無意味な可能性が高いから気を付けておくれ」
「なんでそんな物騒な話を後出しで出してくるんだよ!?」
それって俺が命乞いをしても聞き入れない奴がいるよな!? 大抵の願いが叶うなんて餌ぶら下げられたら、絶対そういう奴出てくるよ! 何だったら、俺が逆の立場なら絶対にそうしてるし!
このまま転生すれば俺はボコボコにされ、最悪死ぬ。でも転生しないって選択肢もない……! 人生が三輪車に轢かれて漏らして死んで終わるなんて、絶対に嫌だ!
「このまま無抵抗にボコられてたまるか! 何か、何か使い道がありそうなスキルはないのか……!? ウンコが金色になるとか、小便が毎回三リットル出るとか、そういうのじゃなくて、もっと実用的なの!」
「ふむ、それだったら裏面を見てごらん。そこには大きなデメリット付きだが、それなりに使えそうなスキルが記載されているよ」
「本当に!?」
この際デメリットありでも何でもいい! 戦闘に使えそうなスキルがあればそれで……そんな思いで用紙を裏返してみると、そこには三つのスキルが記載されていた。
「一つ目は《ヘルフレイム(ブレイクダンス)》……発動の直前に『ピッコロピッポロ今日のご飯は月のメダカの数の子喘息風の子元気なこの餅を詰まらせ救急搬送鼻糞ほじってM字開脚前転大爆笑ホホイホイホホイ』という詠唱を叫びながらブレイクダンスを踊ることで自分を中心に半径五メートル以内から火柱を発生させるスキルなんだが」
「それ敵の前で頭のおかしいこと叫びながらブレイクダンスしろってことだよな!? いらんわそんなもんっ!」
「では《サンダーボルト(自分)》はどうかな? アヘ顔ダブルピースで『んほぉおおおおおおおおおっ!』と叫ぶことで自分に向かって雷を落とすスキル……まぁ上空に雷雲が無ければ発動できないし、雷が直撃すれば普通に感電するんだが――――」
「発動した途端に頭おかしい奴って思われながら即死するわ! いらんいらんっ!」
「まったく、君は我がままだなぁ」
なぜか「やれやれ、仕方ないなぁ」と言わんばかりの生暖かい眼差しを向けて肩をすくめる山本さん。
おかしい。俺の主張は至って正当なもののはずなのに、なぜ俺が我儘な子供みたいに扱われなきゃいけないんだ……!?
「では最後の三つ目のスキルはどうかな? その名も、《イージス(笑)》。あらゆる攻撃を受けても、肉体への損傷をゼロに抑えることができる防御スキルさ。しかも任意で発動できる他にも、強い害意が込められた攻撃を受ければ自動発動するという優れもの」
「おおっ!?」
ゴミみたいなスキルしか書いてないと思ったらそんな有用なスキルが!?
問題はデメリットだが、それほどのスキルなら多少の者なら目を瞑れるかもしれない。
「デメリットとしては、一日五回までしか発動できない。つまり一回の攻撃に対して一度だね。使い道には気を付けないといけないよ」
「全然いい! 全然いいよそれで!」
他のスキルと比べれば断然マシ。何なら優秀なくらいだ。もはや俺の目には《イージス(笑)》 のスキルしか映っていない――――。
「そしてもう一つのデメリットとして、発動時に自分が受ける攻撃の威力が超絶跳ね上がる」
「…………」
せっかく上がっていた俺のテンションが、山本さんに水を差されて下がった。
「すんません、ちょっと意味が分かんないんだけど、どういうこと? 発動すれば俺へのダメージはないんだよな?」
「そうだね。君への肉体への損傷は一切ないよ。ただ《イージス(笑)》を発動すれば、相手の攻撃にブーストがかかり、とんでもない威力の攻撃になる……より簡単に言うと、スキルを発動した状態で攻撃を受ければ、死ぬほど痛いってことかな。例えは息を吹きかけるような攻撃を受けても、大型トラックと正面衝突した時と同じくらいの衝撃と痛みが君を襲う」
「ふざけんな!」
痛みはカットしてくれないどころか激増するって、それ防御としてどうなの!?
やけに優秀なスキルだと思ってたら、こんな落とし穴があるなんて!
普通なら、こんなスキルには手を出さない。ていうか、出したくない。
しかし、これらの悪条件を含めても《イージス((笑)》が一番マシなスキルに違いはなかった。
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