異世界転生者のサバイバル~転生者たちによる生き残りをかけたサバイバルゲームに巻き込まれた俺、使えないスキルと駄目な仲間と一緒に、なぜかチート転生者たちをなぎ倒してしまう~

大小判

史上初、三輪車に轢かれて死んだ男、爆誕



「最近、異世界転生物多すぎじゃね?」


 とある日の通学前、家でスマホを使ってWEB小説を読んでいた俺はそんなことを呟いた。

 俺の趣味はWEB小説を読むことなんだが、これには普通のラノベとかと違って、投稿者たちが流行に全力で乗っかって作品を執筆するという特徴がある。で、今のWEB小説界隈は異世界転生物で溢れかえってるってわけだ。

 それ自体は別にいい。これはこれで面白いから。でもこんなに沢山の異世界転生物の作品があるなら――――。

 

「たまには一味違った異世界転生物が読みたいなぁ」


 単なる悪役転生系とか、現代知識でチート系じゃない、これまでにない展開……具体的なものは思いつかないけど、とにかくこれまでの異世界物とは一風変わった作品を読んでみたい。

 そんなことを考えながら、俺はカバンを持って家を出る。そのまま電車に乗るために道を歩き、その途中にある長い石階段を駆け上がって登り終えようとした……その時。


「いでっ!?」


 段差に足先が引っかかって、階段の上で転んでしまった。

 最悪だ。毎日上ってるけど、ここの階段縦にデカいんだよなぁ……その内絶対に事故起こるってマジで。

 とりあえず大きな怪我はないらしい。そのことに安堵しながら、両手を使って状態を持ち上げると、プァーン! って甲高い音が近づいてきているのが分かった。

 反射的に顔を上げ、音がしている方を向くと、そこには視界を覆いつくすタイヤが鼻先まで迫ってきていた。


 あ、これバイクだ。


 ぶつかる、逃げられない……全身から血の気が引くのと同時にそう思った瞬間、顔面に衝撃を受け、俺の視界は暗転した。


 =====


「……はっ!?」


 次に気が付くと、俺は何時の間にか綺麗な川の前に立っていた。

 その川の岸には赤い花が咲き乱れていて、あちこちで小石を積んでできた小さい柱……? みたいなのが設置されている。


「ちょっと待って……ここってまさか……」

「お察しの通り、三途の川さ」

「うおっ!?」


 突然隣から聞こえてきた声に驚いて振り向くと、そこにはいつの間にか一人の男が立っていた。

 外見の年齢は二十~三十代くらいだろうか。彫りの深い爽やかなイケメンって感じの美男だ。

 

「な、何だこの変態は!?」


 その美男は今、真っ白なブリーフ一丁の姿にネクタイだけ付けているという、一歩家の外に出れば通報は免れない格好をして、爽やかな笑顔を浮かべながら仁王立ちをしていた。

 正直、状況が全くの見込めない……! 俺はどうしてこの場所にいて、この変態の隣に立っているんだ!?


「初めまして。僕は試練の神、ヤーマモート。日本人の君でも呼びやすいように山本と気軽に呼んでくれ」

「試練の神!? 山本!?」

「突然だが君は死んだ。そんな強い未練を残して君に異世界転生のビッグチャンスを上げようと思ってね。こうして君に会いに来たってわけさ。さぁ、安心して僕に身を委ねて……」

「異世界転生!? って、ちょ!? 腕を広げながら近づいてくるのを止めろぉ! 何する気だぁ!?」


 今にも俺を抱きしめようとしているかのように腕を広げながらにじり寄ってくる試練の神こと、山本さんから遠ざかると、なぜか当の本人はキョトンとしたような表情を浮かべ、何かに納得したかのように微笑んだ。


「ふふっ。君は照れ屋さんだな」

「普通に嫌がってんだよ!」


 いきなり出てきて、何なんだこのポジティブな変態は。


「いや、今はそれよりも……!」


 混乱する頭の中を何とか整理する。

 今この変態、異世界転生って言ってたけど、そんなのマジであったの? それが俺の身に実際に起こるとか、それなんてラノベ? 

 ……ていうか。


「お、俺死んだの……!?」


 恐る恐る確認すると、山本さんはとても悲しそうな表情を浮かべた。


「残念だが、その通りだ。だからこそ、僕が君を異世界転生に誘いに来た。……本当に、本当に痛ましい事件だったよ……」

「そんな……」


 嘘やろ……俺まだ学生だったんだよ? 生きてやりたいこと一杯あったんだけど。

 ていうか、あんなジャストなタイミングで俺の頭にバイクが突っ込んでくるなんてある?

 

「まさかこの年でバイクで撥ねられて死ぬなんて……!」

「いや、それは違う。君はバイクに撥ねられて死んだんじゃない」

「……? どういうこと? 俺はあの時確かに顔の前にタイヤが来てたの見たし、その前にはバイクの音だって聞こえたんだけど」

「君の顔にぶつかったのバイクではなく、三輪車さ」

「三輪車!?」


 三輪車ってアレだよな? 子供がよく乗ってる玩具のバイクみたいな奴だよな!? それが俺がぶつかったものの正体ってこと!?


「いやいや、おかしいだろ! そんなんが当たった程度で何で死ぬんだよ!?」

「ふむ、では状況を整理してみよう。あの時君は石階段を登り切ろうとした時に、足を引っかけて転んだよね?」


 人差し指を立てて確認を取る山本さんに、俺はあの時の状況を思い出しながら頷く。


「その時に丁度石階段の上を三輪車に乗って余所見運転をして階段に向かって進んでいた子供が、丁度君の顔にぶつかってね。図にすると、こんな感じ」


 そう言って山本さんは、どこからともなく現れた黒板に白いチョークで簡単な図を描く。

 階段で転んで斜めに向いている人間が、肘を地面につけて起き上がろうとしているところに、その頭に三輪車がぶつかる図だ。


「しかしこれをバイクだと思い込んでいた君は驚きのあまり失禁しながら気絶。そのまま階段からずり落ちて転がるように転落。そして頭を強打して死亡した、というわけさ」

「嘘だろ俺そんな間抜けな死に方したの!?」

「当然このことはニュースに取り上げられ、君は史上初、三輪車に撥ねられて死んだ人間として世界中で話題となって歴史に名を刻み、地球の人々から未来永劫笑い者に……うぅっ」

「いやあああああああああっ! 知りたくなかった! 知りたくなかったぁああああああああ!」

「ちなみに君が聞いたエンジン音を出していたバイクは、君の数メートル前を華麗に横切って行ったよ」


 俺は山本さんの言葉を受け入れることができなかった。

 だって考えてみろ。三輪車に撥ねられて気絶した挙句、小便を漏らしながら階段から転がり落ちて死んで、そんなことで歴史に名を刻んで世界中の人間から未来永劫笑い者にされるなんて、死んでも死にきれねぇよ!

 あまりにも非情な現実に両膝を地面につけて頭を抱えていると、そんな俺の首に後ろから逞しく、しなやかな両腕が回された。


「辛かっただろう……? 僕の胸で、好きなだけ泣いていいんだよ……!」

「今すぐ俺を離せ変態!」


 熱い涙を流しながら俺を後ろから抱きしめてくる山本さんを全力で突き飛ばして距離を取る。

 さっきから思っていたんだが、この男からはたびたび危険なオーラを感じる。主に俺の貞操というか、性的な危険が迫ってきているというか……。


「あと補足だが、実はあの時に君が三輪車を顔面ブロックしなければ、余所見運転をしていた幼い子供が階段から落ちて死んでいたから、ある意味ファインプレーだったと地球の神々は褒めていたよ」

「ぐ……! それは良かったと思うけど、素直に喜べない……!」


 子供が助かったのは素直に嬉しいけど、それって別に俺が死ななくても防げたよな? 何だよ、三輪車に撥ねられて漏らしながら気絶して転落死って。


「まぁ神々の間でも、君の死に様には爆笑の渦が巻き起こっていたが」

「上げるなら最後まで上げてくんない!?」


 そりゃあこんな死に方、俺だって他人事なら指差して笑ってたさ。でも当事者になったら洒落になんねぇ! 我がことながら、こんな不本意な死に方をするなんて……! しかもそれを世界中で後世まで笑い者にされるなんて……!


「しかし、結果的にとはいえ、子供を助けて死んだ君が後世まで笑い者にされるのはあまりに不憫。そこで君には異世界で人生をやり直すチャンスをプレゼントしようと思ってね」

「はぁ……そうなの?」

「信じられないかい?」

「そりゃあ、まぁ。ただでさえ異世界転生なんて眉唾物過ぎて頭混乱してるし、山本さんが俺にそこまでしてくれる理由があるのかっていうか……」


 現状的には当たり前だけど、正直な話、何もかも信じ難い。

 死んだと思ったらいきなり神様を名乗る変態が出てきて異世界転生させてあげるって言われて、それを素直に信じて喜べるほど俺は楽観的じゃないし。


「まぁ確かに、僕も完全な善意で君に異世界転生の話を持ち掛けたわけじゃない。それなりの見返りを求めての提案だ」

「見返り……それならある程度は信じられるかも……」


 要はギブ&テイクだ。未練残しまくって死んだ俺にとって、異世界だろうがどこだろうが、人生をやり直せるのは美味しい話。簡単に妄言や夢と切り捨てるには魅力的すぎる提案だ。

 これが完全な善意で無償なんて言われたら逆に怪しいと思うけど、見返りを求めてくれるなら話は分かりやすい。


「それで、俺に何やらせようとしてんの? 異世界の魔王でも倒せばいいの?」

「いいや、君が倒すのは魔王ではない」


 適当に異世界転生小説のテンプレ展開を口にしたけど、どうやら違うらしい。

 しかし山本さんの口ぶり的には、俺は誰かを倒さなきゃいけないっぽいんだが……。


「君が倒すべき相手……それは君と同じように、地球の日本という国で未練を持って死んで異世界で生まれ変わった、異世界転生者たちさ」



 ――――――――――



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