くりかえすクオンの記憶「絆と夢の世界」

斎宮 クオン

年末に見た、意味深で虚ろなる世界の夢

ふと気付いた時、昔の家にいた。生まれ育った昭和の家。

遠い遠い記憶の中にしかない畳の部屋の昔の家。

その部屋は物置になっていた4畳半の部屋で、乱雑に積まれたものでいっぱいだった。

私はその部屋に、古びた黒い大きいミュージックコンポがあるのを見つけた。

カセットデッキが2つあり、レコードも使える。大きなスピーカーが二つセットのこのコンポを使える状態にしてやりたくて、その物置になっていた部屋を片付け始めた。

ふすまを取り払った押し入れにも、昭和40年代の雑誌や昔のグラビア雑誌などが散らばっていた。着れなくなった父の服や、いつのものかわからないほど古い写真のアルバムなんかが散らばっていた。私はそれらを整理して、片付けスペースとコンポの置き場所を作った。

コンセントにケーブルを繋ぎ、電源を入れるとまだ普通に使える様だった。

入っていたカセットテープを再生する。陽気な音楽と歌声が響く。

私は更に部屋の片づけをすることにした。

足場にも困るほどうずたかく積まれた要らなくなった書類や着れなくなった服を綺麗に畳んで片づけていた。


ゴロゴロゴロと、勢いよくあけられた部屋の戸。

父が部屋に入ってきて、不機嫌そうに不躾に部屋を眺めまわす。

“部屋を片付けていたのか”とつぶやく父に、私は“うん”と答える。


しばしの沈黙の後に、父は言う。

“明日からお前は一人で生きていけ。この家を出ていけ。ここにお前の場所はもうない”

と言う。


突然の無茶な要求に混乱する私は、父に反論するも平手打ちされる。

理不尽すぎる要求に私も黙ってはいられずキレる。

“あんたはいつもそう!突然無理無茶な要求ばかり突き付けてきて、こっちの気持ちなんて知ったことではないかのようにふるまう!まともなヒトの心は無いのかと”私は怒りに任せて柱を殴りつける。柱にヒビが入って私は少しひるんだ。

父はあざ笑うように言う“そんなことはもうどうでもいい!ただ明日からはお前は一人で生きていくのだ!”と叫びながら“お前がそんなありさまだから苦労が絶えないんだ”と、父は叫びながら突然狂ったように家の土壁を殴りだす。

そしておもむろに南側の窓を開けて部屋から勢いよく出ていく。

ここは二階だぞ!?

私は急いで窓の外を見るもベランダに父の姿は無い。

そのままベランダから下を見ると、一面が濁った水や木材に沈んでいた。

一階部分は完全に水没している。

父は少し離れた所の水面に浮かぶ家の屋根の上に居た。声はもう届かない。

先ほど父が殴った土壁がら濁った水が溢れ出す。

家の裏の山を見上げると、上の方で水が勢いよく噴き出し始めていた。

やがて渦巻く泥流が山に残った木々を巻き込みながら、家に押し寄せてこようとしていた。


私は父の後を追うように水面に浮かぶ木材や屋根を伝って逃げることにした。

その直後、家は山から噴き出した膨大な水と土砂と木によって押し流されていった。

母と妹がどうなったのかはもうわからない。たぶんもう・・・。


あたりを見回すと、父の姿はもうない。

緩やかに流れ続ける建物の残骸の上を伝って、西の方を目指すことにした。避難所指定になっている学校があったはずだった。見た感じでは絶望的なようだけど、立ち止まっていても事態は悪化するだけだし、ひとまず安全確保の為にも、そちらへ向かう事にした。移動しながら少し考えていた。

一体この水はどこから来たのか、何があってこうなったのかわからない。

ただ周囲にあった住宅地や都市部の大半は水没し、崩壊した家屋の残骸が大量に浮かんでいて、緩やかに流れている。空は重い雲と、隙間から除く青空が不穏なコントラストを見せている。幸い雨は降りそうにないようだった。


避難所は無かった。というか学校も流されて崩壊していた。

明治の立派な木造二階建て校舎だったけど、木造は木造という事だったのかもしれない。

校庭も水没している。普通の津波では大阪北部のこの地域がこんなに水没する事は考えられないと思っていた。でも、今見える光景はその想像を凌駕している。

山から水が噴き出して山そのものが崩れてなくなるという事は、相当量の雨が降った後に地震も起きたのだろう。

見渡す限りの水面の中に、どうにか原型を保っている山が見える。今考えられる唯一の陸地だった。

今はそこを目指す。遠くの方に見える人影も、同じようにそこを目指しているようだった。

どれくらいの時間がたったかわからないけど、不思議と空腹や喉の渇きを感じる事は無かった。

やがて目指していた山にたどり着く。

小さな谷があり、割と激しい勢いの川が流れていた。谷間には山間の古い木造家屋が軒を連ねているようで、本来は山越えの道にある、ありふれた村だったのだろう。


そうしてひと時の休息を得て安堵していたのもつかの間

川の水位が上昇し始め、上流の方から人々が叫びながら必死に逃げてくる。

“あんたらも逃げな!山津波が来るぞ!”と

ようやく得られたかのように見えた安全は、わずかな時を残して新たな激流に押し流されてゆく。膨大な質量を伴った土砂を含んだ濁流が、勢いよく谷間を押し流すように流れ下ってきた。もはや高所への避難もおぼつかない中、おのおの天に運を任せるかのように、近場の家の屋根に上る。

木にしがみついて濁流にのまれた者。どうにか谷の際から高所に避難できた者。濁流にのまれて消える家と人、濁流に乗って流れてきた屋根に飛び移って命を繋ぐ者。

私は運よく崩壊を逃れた家の屋根に飛び移ってやり過ごせていたけど、最終的には濁流の流れが収まってきた頃に家は崩壊し、屋根だけが水に浮かんで、濁流と共に再び山から投げ出され水没した一面の水の上を漂流していた。


どれぐらいの時を水の上で過ごしたのかわからないけど。不思議と空腹や渇きは襲ってこない。

水がひいたからなのかどうかはわからないけど、陸地に流れ着いた。元は都市部だったのだろうか。それとも水難を逃れた場所なのだろうか。古びた街並みが残っていた。

住んでいたであろう人たちの姿が見えない。上陸してきた人々は、一様に西を目指す。

私も一緒に西の方向を目指して歩く。情報が無さすぎて何も考えられない。誰も何もわからないという。

ただ導かれるように西を目指し歩き続ける人々。

やがて街を出て、日本では見かけない乾燥した砂漠のような土地を、ひたすら歩く。

やがて見えてきたのは異国情緒あふれるオリエンタルな雰囲気のある古びた街並みだった。

住民の人たちの言葉は解らない。お腹もすかない、喉も乾かない、疲れて動けなくなることもない、この身体の異変は気になるけども、今はとにかく助かる。


どれだけ歩き続けたかわからない。何日も何日も西を目指して歩き続けたある日。

東の方から必死に逃げてくる人々がいた。

いつかみた光景のように、口々に知らない言葉を叫んでいた。


やがてこの高低差の無い土地に、濁った水が流れてくるのが遠くに見えた。

一体何がどうなっているのかわからない。

ただ、そこには危険が迫っているというのだけは解った。

生気のないように歩いていた他の人たちもそれに気づいて走り始めた。


やがて辿り着いた街は、石造りの家や、トタンで建てられた掘立小屋のような家が入り乱れる混沌とした街並みで市をなしている街だった。

津波がどうか正体のわからない濁流と共に私たちはその街に逃げ込んだ。

はじめは市の中を走り抜けていた。見覚えのあるおいしそうな日本製のお菓子やパンやジュースが並べられたお店も見えたけど、今はそれどころではない。

ただ手の届くところにあった、きのこの山を1つとラムネソーダを1本だけ拝借した。


街の人たちは落ち着いた状態のまま逃げようとしていなかった。

水はそこまで来ているというのに。


やがて街は濁流に呑まれて行き、私たちも屋根に上り逃げ続けた。

いつの間にかそこにあった山。

その山の入り口のような谷の下に

古びた石畳で舗装された路面電車の始発駅のような場所にたどり着いた。

駅のアナウンスが響き渡っているけど、なんといっているのか言葉は解らなかった。

やがて、見たことのある列車が入ってくる。

オレンジのラインと緑の塗装の国鉄の車両や

あずき色のおしゃれな阪急の車両や

綺麗な銀色の車両に二色のラインの入った列車や

深い青に塗装された特徴的な形状をした列車や

先頭車両に運転席でもないのに大きな窓を備えた車両や

蒸気機関車や茶色いディーゼル車にけん引された古い国鉄の車両など

様々な列車が入ってくる。


ただ、異質だったのは。

その列車のドアは、開いても30秒と開いている時間もなく、あっという間に閉じて列車は出発してしまうという事だった。

島型のホームを備えているわけでもないこの駅で、列車に乗り込もうとすると、よじ登らねばならない。ドアの位置がたまたま近ければ乗車することも叶うかもしれない。

離れたところにドアがあれば、試すことすら叶わない。

多くの人が乗車を試みて取り残され、列車は次々に出発していく。

行先がどこかもわからないけれど出発していく。

水没の危機に甘んじるよりはマシだと、みんな考える。私も同じ気持ちだった。


しかし無情にも私には乗車の機会すら恵まれなかった。

どの列車の乗り口も遠く、近寄るだけでドアは閉まってしまう。

列車は目の前で出発していく。


やがて押し寄せる濁流によって駅は水没してしまう。

取り残された私たちは

列車が向かっていった谷伝いに山を登っていく。


かなりの高さまで水は追いかけてきて、世界のすべてが水に呑まれたのではないかと思われるくらいに、しつこく追い迫ってきた。

やがて山の頂上を越えた峠のような所まで逃げてきた私たちを前に、水の勢いは弱まり。

そして、やがて引いていった。

しかし、何もないこの場所にいつまでも居続けられるわけでもなく。

また再び水が押し寄せてきたら、今度こそ逃げ場が無くなることが分かり切っていたので、人々は峠を越えた先を、引いていく水のあとを追うように下っていく。

いくらか山を下った頃、背後から再び濁流が押し寄せる。

おそらく今度の濁流は、谷が崩れた土石流みたいなものなのだと思われる。

石造りの家の屋根を飛び越えながら谷の端の方まで避難しつつ山を下る。

ある家に飛び移った時に、手近で手ごろな竿があったので拝借したので、屋根を飛び移るのが随分と楽になった。屋根渡りは失敗すると濁流に呑まれてしまうので命がけだし、

次の屋根が、同じ高さにあるとは限らないし、高い所にある家へ飛び移るのに、自分の力だけでは無理なので、これは良いアイテムを手に入れたと自分を褒めたい。


どれだけの時をそうして過ごしたのかもうわからない。

何日、何か月、何年・・・。

ただひたすらに、西へ西へと目指し続けた。


やがて辿り着いたのは、赤茶けた町、乾いた空気、黄色い砂塵。

私は子供の手を引いて街の中心にある広場へと向かう。

そんな街に、いつかどこかで見たことがある世界のリーダーたち、ぼろぼろになった姿で立っていた。人々は、あらゆる方角からこの地にたどりほぼ同時に着いたようだった。


そしてかつてのリーダーたちは言う。

“人々を繋ぐネットワークはもうない。

テクノロジーもない。

国も政府ももうない。

我々の世界のリーダーを標榜していたあの国ももうない。

この世界には、もう何もないのだ!“

と悲痛な叫びが届けられた。

この世界にはもう、救いは無いかのように。


第二幕


私が幼いときの記憶

物心ついた時には、私はお父さんと一緒に歩き続けていた。

お父さんは、私の血のつながりがあるかどうかはわからないけど

私にとっては唯一のお父さんだった。

私を見て時折寂しそうに笑いかける笑顔が忘れられない。

砂塵に煙る果てない道をひたすらに歩き続ける旅路。

その旅が終わったのは、とある町にたどり着いた時だった。


何年かその街で過ごしていた時の事だった。

私たちと同じように逃げ延びてきた人たちが、力を合わせて生きていた町に

人の力を越えた敵がやってきた。

最初の襲撃は、人々は力を合わせて撃退した。


やがて人々は、アレが何だったのかを考え恐れを抱くようになった。

残っている兵器は、いつまでも弾があるわけではないからだ。


そして次に襲ってきたのは小型の生き物だった。

街影に潜み、人を襲い食べる獣。

その姿は異形に変形し、人を食べて成長する獣。


人々はこれらに対抗するために武器を手に取る。

近代兵器は残り少ない為に温存されることになったため、原始的な武器を手に取った。

剣・槍・棒・槌・鎧・盾など使い潰しても鋳直して再利用可能な武器を。


お父さんも、私を近所のおばさんに預けて戦いに出ていた。

でも、ある日を境にお父さんは帰ってこなかった。

おばさんは、遠くに戦いに出ているからって言ってた。


それから何年かして、私も武器を手にするようになった。

一通り扱えるようにはなったけど、得意なのは剣だ。

お父さんと同じでそこは嬉しい。


私たち年少組は、近所の幼馴染たちと一緒にチームを組んで出撃することになった。

一応ちゃんと訓練を受けた正規兵だよ!

ただ、初出撃での生還率は1割にも満たないって言われているから、もしかしたらここで死んじゃうかもしれない。


今回の敵は、ヒト型ではあるけど、意思の疎通は出来ない。明らかに人類とは別の存在。

遠慮なく叩き潰せという指令だった。

新人3人一組のチームが3組と、ベテランのチームがサポートに回る。

訓練通りにやれれば何事もなく撃退出来るハズだそうだ。


最近は色んなタイプの敵がやってきていて、敵が使う超常の力についての研究も進んでいる。

私たちも一通りそうした力の使い方の訓練は受けているけれど、まだ同期の中で使える様になった者はいない。

一応人類にも扱う素質のようなものはあるらしいとは聞いているけど。


――

まもなく会敵時間だ。


今回の敵は単体で、ゆっくりとした速度で街へ侵攻してきている。

元々動きも速度も遅いタイプであるため、新兵である私たちの訓練目標に使われることになった。


新兵のチーム3方向から敵を包囲し、

不測の事態が起きた時にはカバーに入れるよう、ベテランチームは、新兵チームの後方に配置して展開。


正面は私の舞台が受け持つことになった。

砂塵の向こうにうっすらと見えるヒト型。

それと知らずに近づくと襲われて喰われる。

今回は、近隣との交易をしていた隊商が発見し、通報されたという流れだそうだ。


朧げだった敵の姿が目視可能な距離になった。

距離にして300mといったところか。


――状況開始します


敵の動きは遅く、知能は低いけど、力は強く、油断すると力で押し切られる。

そのため、盾役が敵の注意を引きつけ、側面や後方から破壊力や突撃力の高い武器種の者が攻撃して処理をするのが常道とされている。

私の剣は、片手でも両手でも扱える剣なので、今回は盾役もこなすことになった。

今回の盾は大楯で、地面に打ち込む杭が付いていて、比較的非力な私でも正面攻撃を耐えられる仕様になっているし、剣も中型サイズで幅広な為、受け流しに使う事も出来るというのが、私が盾役に選ばれた理由の一つでもあるらしい。ともあれ与えられた役割はこなして見せる!


“まずは私が剣を構えて突撃して一撃を与えます!

二人は私に続いて攻撃を!

敵の一撃目が来る前に盾を用意するので、一撃目を入れたら下がって横から攻撃を!

他2チームは私たちの動きに合わせて敵後方から攻撃してくれるはず!

あとは臨機応変にまかせたわよ!“


手短に作戦を確認の意味も込めて説明して。

お互いにうなづいて合図をすると共に私は駆け出した!


私の初陣。

お父さんに恥ずかしくないように務めあげて見せる!


剣を突き込むと抜けなくなる場合があるので、今回は上段から叩きつける。

横凪だと吹き飛ばしてしまう人もいる為、基本的に飛び込み時は上段になる。

相手の知能が高いと、いつもそういうわけにはいかないけど。


“うおおおおおお!”

雄たけびを上げて叩きつける事で敵の注意を引きつけ、

私の両脇から追撃を仲間が入れる。

その隙に、右腕に畳まれていた大楯を展開し、重量軽減が解除された大楯は、その重量で自由落下し地面に突き刺さる。同時に杭を展開して地面に固定。盾の裏で肩から支える事で支持補強になり、敵の正面攻撃を受けても後退しない堅牢な盾となる。


接敵は問題なく有利に展開することが出来た。

のろまな敵の初撃は大楯で受ける事が出来、側方展開した二人の攻撃で敵に二撃目も有効打として打ち込むことが出来た。さすが私の優秀な幼馴染たち。頼りになる。


あとは敵後方から突撃してくる別チームが遺憾なく破壊力を発揮してくれれば、大した問題もなくこの戦いは終わるはずだった……。


――

初出撃での生還率が低いと言われているのにはいくつか理由があって

一つはヒト型の対象への攻撃をためらう者がいる事。

この場合、攻撃力が不足して被害が出る事や、ためらった本人がそれで逆撃を受けてやられてしまうということが割と多い事があげられる。


もう一つは、十分な索敵を行ってターゲットの選定がされているにも関わらず、イレギュラーが発生して、当初の予定通りに作戦が運ばなくなった場合である。

例えば、敵が分裂して増えたり、伏兵や増援が現れて、敵戦力が当初の想定を上回ってしまったりする事があるためである。それだけ敵は人知を超えた存在であるという事だ。


今回はその両方に当てはまってしまった。

向かって敵左後方は奇襲に遭って被害を出してしまったため、正面の敵への追撃が行えなくなった。

そちらは後方からの奇襲によって初手で2名戦死者を出してしまい。

1名のみ合流を果たすことになったので、私のチームに入ってもらう事にした。


敵右後方から攻撃するはずだったチームは、1名がヒト型への攻撃をためらったことで負傷。負傷者を庇って残り一名が致命傷を負って戦線離脱となった。

こちらはリーダーが健在であったため、負傷者もまだ戦えたこともあり、私のチームと前後で挟んで敵を撃滅する事にした。


あのチームのリーダーは優秀で、今回はアタッカーとして十分に仕事をこなしてくれたお陰もあって、当初目標の敵は迅速に処理する事ができたのだけど、

問題は奇襲をしかけてきた敵の姿が確認できていない事だった。

ベテランチームが対処してくれているハズなのだけど、こちらも油断は出来ない。

一旦3チーム合流して、負傷者の手当をしながら臨戦態勢で待機する。


正面方向からの攻撃であれば私の大楯で耐えられるので、大楯は展開したままにする。


緊迫した空気の中、時間が過ぎていき。

やがてベテランチームが合流してきて、奇襲してきた敵を撃破した旨を告げられて、ようやく警戒レベルを落として、帰還の途につくことになった。

今回は初陣という事もあり、運も良かったのだろうけど、戦死者の遺体を持ち帰ることが出来たけど、通常は喰われるか、持ち去られるかしてしまい、遺体回収は出来ない事が多い。


街へ帰還した私たちはブリーフィングルームに集まり、今回の課題点の洗い直しをした。

攻撃をためらって負傷した子も、ためらったのは最初だけで、そのあとは役割を十分果たしてくれたので、これからも戦い続けることはできるようだった。自分を庇って死んでしまった仲間への責任も感じているだろうし……、辞めないと思う。


奇襲の方のイレギュラーは、事前察知が困難であったことや、奇襲後にも索敵網に簡単には引っかからなかったことを勘案して、事故として処理された。


つくづく当初の目標がのろまで助かったのだと思う反面、

最初から奇襲が狙いで釣り餌にされた可能性も否めないのが気になるところ。


ともあれ、私の初陣はこんな感じで、私のチームは恵まれたいたのかもしれない。

毎回そうだとありがたいのだけど、そうそう上手くいくとも限らないので慢心は禁物だ。


だって、お父さんは帰ってこなかったのだもの……。


――

私も初陣の時から何年も戦い続けてきた

時には新兵のサポートをすることもある。

私は幸運だったのかもしれない。

超常の力に覚醒する事が出来て、攻守だけでなくサポートもこなせるようになっていた。

特に光属性の攻撃と保護膜(バリア)、そして、近距離集団への攻防強化補助が使える為

隊としての運用で戦果を重ねていた。


そんなわけで、上級の敵とも戦う機会が増え、人類生存圏の奪還でも目立って居たためか

敵からも固体認識され、より強くて厄介な連中にも追われるようになっていた。


今回は天使型の敵で、知能も高く、物理より魔法型とでもいう厄介な特性持っているため、

補助なしではダメージも通らないし、なにより翼が生えていて飛んでいる、ほんとうに嫌な敵だった。


そして今回は、敵の要塞への奇襲作戦という事で、比較的大規模な兵力を展開しての攻撃。

当初作戦は第一段階は野戦が想定されていて、飛びまわる敵を打ち落とす為に、補助魔法付きのバリスタが活躍した。地上戦なら私の補助範囲にいれば個別に付与を掛けなくても攻撃は通るので、人類側の優勢に進める事が出来たのは幸運だったと言える。


第二段階の攻城戦は、物理攻撃が通るので攻城兵器が活躍した。

私たちの役割は、その攻城兵器を守ること。敵は飛べるので、上空の射程外からの投擲武器による攻撃は非常に厄介だった。物理法則に則って自由落下してくる質量エネルギーも加味された嫌らしい攻撃である。


第三段階は

破城槌による城門破壊後、各隊が雪崩れ込んで局地戦を展開し、私をはじめとした隊で敵司令部へ突入を行うというのが本命である。


という事で、友軍の奮闘もあって、私の隊は司令部に乗り込んだわけだけど、上位天使型の敵は一筋縄で行かず、味方が次々と倒されるし、敵の大規模攻撃で司令部の部屋は破壊されて、浮遊した残骸しかない不安定な足場しかない謎空間に拉致されるしで、非常に苦戦というのも負け惜しみなほど、満身創痍な状態に追い込まれていた。


そんな絶望的な状況の中で、閃光と共に剣閃が一閃し、敵を吹き飛ばす。


「随分苦戦しているようだな!」


別の足場に輝く光の筋が明滅する大剣を突き立ててさわやかな笑顔で笑いかけているのは

いつか見たのよりは少し歳を重ねたおっさ…お父さんだった。


「すぐ片づけるから、ちょっと待ってな」


そういうと、大技っぽいものを連撃して敵を細切れにして消し飛ばした。


“どこでなにしてたのよぉ!”


「ははっ悪いな!ちょいと野暮用で帰ってこれないとこに行ってたんだ」


そんなやり取りもつかの間。

さらに上位の敵の存在が出てきて、私たちへの圧力を強めてくる。

そうして新たに表れた上位存在を前に、お父さんと共闘する事になったのだけど

永遠にも続くかに思われる激戦が繰り広げられ、数々の攻撃が敵を打ち滅ぼそうとした時

私は時空に干渉する攻撃を受けて、見知らぬ世界へと飛ばされてしまう。

――

そこは真っ青な空の中、中空に浮く神殿へと螺旋階段が続く不思議な世界だった。

その世界には、いくつもの玉が浮かんでいて、その中では幾度も繰り返され、やり直しをさせられている世界が沢山あった。


それは私の記憶でもあり、世界の記憶でもあった。

最初の世界では、私はひ弱な少年で、日々生きていくだけで精一杯の日々を送る中、やっと見つけた平穏を壊され絶望の果てに世界への怒りと復讐を願って果てた人生の記憶だった。


二つ目の世界では、私は貧しい家庭に生まれ、人を欺くことで富を得て、世界を思うままにしようとして滅ぼされた人生の記憶だった。


三つ目の世界では、恵まれた地位に生まれた為に、豪奢な生活に明け暮れ、ただれた関係をいくつも持った結果、独占欲に駆られた者によって殺される記憶だった。


四つ目の世界では、容姿に恵まれない女性として生まれ、生きている間は常に比較され、人を羨み続け、呪い続ける人生の記憶だった。


五つ目の世界では、平和な世界に生まれ、命の危機はないものの、未来に希望をいだけるほど満ち足りた生活でもなく、なけなしの収入での唯一の楽しみは、食べる事くらいだった。食べる事への欲求を抑えられず乱れた生活の果てに身体を壊して死んでしまう記憶だった。


六つ目の世界では、真新しい進歩も発展も見られない世界で、人々は自らが生み出した人造生命体によって日々の労働を肩代わりさせ、自らは何もせず、何も生み出さず、ただ生きているだけという世界で、なんの意味もなく生まれ、なんの意味も残さず死んでいった記憶だった。


七つ目の記憶では、生まれ持った才能が、自らが選ばれた存在であるかのように万能感を与えてくれる人生で幸福に満ちていた。しかしその選民意識が人々の反感を買い、最後は貶められ、自らも無価値な存在だと思っていた人々と何も変わらない一人の人間だと思い知らされながら死を迎える記憶だった。


八つ目の人生では、何も持たず、何も助けも得られず、平凡な生まれではあったけど、優しい人に育てられ、人を慈しむ心をもって生きた人生だったが、最後には侮られて一人の人間の暴力によって死んだ記憶だった。


九つ目の人生では、望まれて、愛されて生まれてきた人生であった。人々に癒しや救いを与えようと努力し、人々に尽くした人生だったが、最後には利用され欺かれて死んだ記憶だった。


10番目の人生では、地位も財産もある家庭に生まれたけども、人の為に自らの地位も財産も投げうって生きる人生だった。それにもかかわらず地位も財産も逆に増えて、普通に考えればよい人生のハズだったのに、最後はなぜか自分の周りには信じられる人が一人もいないという状況に、失意のまま死んでいく記憶だった。


11番目の人生では、程々の家庭に生まれ、一見平和な家庭に育ち、ごくごく平凡に育った人生だった。しかし人生のライフプランは大人になる時に急変し、転換を余儀なくされた。その後は古い価値観と恵まれない社会によって搾取され続ける人生の後に、要らないもの、居ないものとして扱われながら人生を終える記憶だった。


12番目の人生では、未来に希望をいだけない社会に生まれ、なんとなく生きて、特に夢も無く育った。しかし世界に異変が起きて一つ前の世界に魂が紛れ込んでしまう。そうしてこれまでの人生の記憶を徐々に取り戻していく中で、こんな宿命を背負わせた者たちと戦い続ける男の記憶があった。


そして

13番目の人生、気が付いた時には世界には何も無く、ただ手を引かれて旅を続ける自分の記憶。この世界の真理に触れた魂が持ち越した新しい力と、過去の負の力が生み出す人間の魂が持つもう一つの力を備えた可能性の記憶の欠片を持ちながら力尽きる記憶。

そうして「私」は一番目の世界からやり直して、すべての世界の力を集めなおす。

お父さんを助けるために、すべての力を集める必要がある!

私が集めるのは上位存在を倒すために必要な力なんだよ!と、1度目の12番目の世界にいるお父さんに伝えることが出来た。

力尽きた私の為に、お父さんは時空を渡り、私を蘇生した。

私の1度目の13番目の記憶は、そこから始まっていた。


――

神殿までのぼりつめると

そこには箱の中に格子状に分けられた穴があって

そこに詰められた記憶の欠片が輝く玉となって納められ、それぞれの想いが漏れだしていた。


“そっか…お父さんの野暮用ってそういうこと…”

“じゃあ、決着は私がつけなきゃいけないよねっ”


「そうだな!あとは任せた」


“まかされたっ”

そうして現実世界に帰ってきた私の前には、上位存在が満身創痍で立っていて、

その傍らには力尽きたお父さんが倒れていた。


“私”が受け継いだ記憶と力は

決して正しいものばかリではないけども

正しさを押し付けてくる上位存在に対抗するには

人間が魂に秘めた、人間が人間であるための負の力も必要だった。

両方の力を持てるのが、奴らに対抗しうる人類の強みなのだと過去の記憶は教えてくれた。


上位存在によって幾度も繰り返された世界の破滅と滅亡の記憶。

人類の救いを願う想念。

それらを集めて光と闇の入り混じった力が、上位存在に致命打を打ち付けられた。

そうして塵となって霧散してゆく。あとには何も残らなかった。

きっと何度倒しても完全に滅する事は出来ないのだろうけど

この世界は、やつが再び力を付けるまで、しばらく存続できるだろう。


――

私たちは決して善性だけをもって生まれ落ちたわけではない。

人を傷つけ貶める負の側面も持っている。

けれども、私たちは悪意と絶望だけで生きているわけでもない。

だからこそ、自らの在り方を決めるのは自分自身でなければならない。


私たちの魂は、それらの力を集めるために

人は人生の終わりに、自らの生を振り返り総括するのだと思う。走馬灯と呼ばれるソレによって。

幾度も生まれ変わり、そのたびに思い出し、生まれるたびに忘れて、また思い出す。

その果てに、持ちうる魂の輝きにこそ、人の心の真の救いへの道があるのだろう。



夢の本編はここまで――。

――

あとがき

夢にあとがきってのも変かもしれませんが、自分で見た夢の感想という事で。


今日、本当に見た夢は、もっと長くて、もっと厄介で、もっとセリフが多くて、もっと難解で、もっと神話的エピソードや要素があったけど、書き起こしてる間に記憶がどんどん薄れて忘れてしまいました。


いっそ、なろう系小説みたいに、魔法だとか神だとか表現や用語を置き換えれば、時短できて忘れる量を減らせてかもしれない…。


まぁこれだけ覚えていられただけでも御の字なのかな。

未来予知の類ではないと思いたいけど、年末年始の自然災害などにはみなさん十分気を付けてください。ほんとに……。


追伸

これって悪夢の部類に入るんでしょうか…。



2024-12-31 斎宮クオン

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