つま先の魔女

コラム

***

中世ヨーロッパの小さな村、エルデン。


そこには古くから伝わる恐ろしい伝説があった。


村の外れにある暗い森には、邪悪な魔女が住んでおり、彼女は村人たちの足のつま先を奪うという。


足のつま先を奪われた者は、永遠に苦しみ続けるという呪いにかかるのだ。


村人たちはこの伝説を恐れ、森に近づくことを避けていた。


しかし、ある日、若い農夫のエドガーが森の中で行方不明になる。


彼の妻、リリアンは夫を探すために森に入る決意をした。


リリアンは森の中を進むうちに、奇妙な光景に出くわした。


木々の間には不気味な霧が立ち込め、遠くからは不気味な囁き声が聞こえてくる。


彼女は恐怖に震えながらも、夫を探し続けた。


枯れた木々の間には、動物の骨が散らばっており、彼女は一瞬立ち止まって祈りを捧げた。


やがて、リリアンは古びた小屋を見つけた。


小屋の外壁には黒いツタが絡みつき、不気味な雰囲気を醸し出している。


中に入ると、年老いた老婆――魔女が座っていた。


魔女はリリアンに微笑みかけ、彼女の足のつま先を奪おうとする。


しかし、リリアンは勇敢にも魔女に立ち向かい、夫の行方を問いただす。


魔女はリリアンに、エドガーが足のつま先を奪われ、呪いにかかっていることを告げた。


彼は森の奥深くで苦しみ続けているという。


リリアンは夫を救うために、魔女に取引を持ちかけた。


すると魔女はリリアンに、彼女自身の足のつま先を差し出すことで、エドガーを解放することができると告げる。


リリアンは夫を救うために、自らの足のつま先を差し出す決意をした。


魔女は呪文を唱え、リリアンの足のつま先を奪い取る。


魔女の手がリリアンの足に触れると、冷たい感触が彼女の体を貫いた。


次の瞬間、激しい痛みが走り、リリアンは悲鳴を上げた。


魔女の手が彼女の足の指先にかかり、一つ一つのつま先が引き抜かれる感覚があった。


血が流れ、リリアンは痛みに耐えながらも、夫を救うために耐え抜いた。


魔女の呪文が解かれ、エドガーは解放された。


彼はリリアンの元に駆け寄り、彼女を抱きしめた。


しかし、リリアンの足のつま先は失われたままであり、彼女は永遠にその痛みに苦しむことになる。


エドガーは彼女の背中をさすりながら、共に村に戻ることを決意する。


村に戻ったリリアンとエドガーを、村人たちは歓喜の声で迎えた。


リリアンの勇気を称え、彼女を敬う声が村中に響き渡った。


しかし、リリアンの心には深い悲しみが残る。


彼女の失った足のつま先がもたらす痛みは、決して消えることはなかった。


数ヶ月後、リリアンは村の広場である異変に気づく。


村の子供たちが次々に行方不明になり、その場所には小さな足跡だけが残されていた。


リリアンは再び魔女の仕業だと確信し、森へと向かう。


森の奥深くで、彼女は再び魔女の小屋を見つける。


小屋の中は以前と変わらず、不気味な雰囲気に包まれていた。


魔女はリリアンを見て微笑む。


「ようこそ、リリアン。再び来たのですね」


「子供たちはどこにいるの?」


魔女は笑みを浮かべたまま答える。


「あなたが差し出した足のつま先の代償は、永遠に続くものです。あなたの行為が、村全体に呪いを呼び起こしたのです」


リリアンは愕然とし、後悔と絶望に打ちひしがれた。


彼女の犠牲は、村を救うどころか、更なる悲劇を招いてしまったのだ。


魔女は冷たく語り続ける。


「実は、私が最初に呪いをかけたのは、あなたの祖先だったのです。彼らが私を裏切り、私の大切なものを奪ったことに対する報復です。あなたの祖先が私の足のつま先を奪い、私はその痛みを永遠に感じ続ける呪いを受けたのです。だからこそ、あなたが私に足のつま先を差し出すことで、呪いの力が再び強まったのです」


その瞬間、リリアンの背後から、失われたはずの子供たちの声が聞こえる。


しかし、それは優しい声ではなく、深い憎しみに満ちた囁きだった。


「私たちも、足のつま先を奪われた者なのです、リリアン。あなたの犠牲に対する報いとして、永遠に森をさまようことになったのです」


リリアンはその言葉に愕然とし、森の中で崩れ落ちる。


彼女の涙は雪に染み込み、呪いが解かれることなく、村には永遠の悲劇が刻まれた。


〈了〉

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