第7章 気持ちの内訳 side芹菜

第7章 ①

「梅原~」


 ぴくっと、その言葉に身体が反応する。


 体育祭も終わって、平和な日常が戻ってきた教室内。



 ……なんだか、私の様子がおかしい。



 あの日から、梅原くんの名前を聞くたびに「あっ」となってしまう。

 授業の復習をしていても、次の授業でやる単語の小テストの勉強をしていても。


 こんな現象初めてで、なんてそうなるかがわからない。


 だけどたぶんこれは、絶対おかしいよ。

 そんなの、どっかで読んだことも見たこともなし。

 私の脳が、ある日突然“う”と“す”に反応するようになった?

 うーん、ありえないか。



 簡単に、正体がわかったらいいのに。

 前は、梅原くんの行動の意図が謎すぎて、だから気になってた。


 ……もしかしたら今回もそれで、たまたま“名前に反応”するようになってしまったってこと、なのかな?



 終礼の始まるチャイムが鳴り、みんなが席に着く。



 日常が戻ってきつつも、少しずつ期末テストの雰囲気になりつつあるのも事実。

 まあ実際まだテストまで一ヵ月ほどあるのだけど、夏休みまでにある行事がそれくらいしか残っていないから。


 いや、それは嘘。

 なぜかというと……。


「はい。ではいまから、席替えのくじ引きを始めまーす」


 そう、席替え!

 正直このど真ん中席はそろそろキツイかなあって思っていたから、うれしい。


 でも、また真ん中だったら……う、せめてもう少し端のほうでもいいんじゃないでしょうか。

 こればかりは、私の運の良さにかけるしかない。



 ……そして、結果はというと。


 黒板にかかれた席の数字と、手元のくじの数字を見比べる。

 うーんと……あった。


 私は、窓側から二番目、前から三番目の席。

 端っこではないけど、真ん中ではない……!

 ありがとう!!


 みんなが荷物を移動し始め、私も新しい席に移動する。

 ……そういえば、隣は誰なんだろうか。


 新しい席の右隣には、優しいでおなじみの学級委員さんだった。


「よろしくね~、桜庭さん」


 わっ、話しかけられちゃった。


「よ、よろしくお願いしますっ」


 学級委員さん———持山もちやまさんはにこっと微笑んでくれた。

 よ、よし。この席でも、なんとかやっていけそうだ。


「あ」


 そのとき、隣から聞き覚えのある声がした。

 でも、律くんじゃない。

 これは……。


「隣、芹菜ちゃんじゃん。よろしく~」

「え……」


 梅原くん……!

 隣って……隣の席ってこと!?


 真ん中回避できたのはよかった。それはうれしい!


 だけど……代償が重いよ。

 わっ、私の検証が〜っ!



 今、一番まずい人の隣の席になってしまった————。

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