第6章 ➃

 そしてスタートした、午後の部。

 出場した綱引きでは全力を出したけど、一回戦で負けてしまった。

 だけど三位決定戦で勝ち、結果はもちろん三位。

 午前の部の時点での総合は二位だった。


「青組〜!! 切り替えて次の競技、一位目指すぞー!!」


 次の競技ってなんだろう。

 プログラムを見て見ると、借り物・人競争だった。


 スタートから半周走ったところにお題があって、お題に合う物・人と一緒に残り半周を走る。

 ゴール地点にいる審査員から、そのレーンの人全員オッケーを貰ったら、次のレーンの人たちがスタートできるってルール。


 噂によると、物だと紛失とかいろいろ問題が起こりそうなので人が多めとのこと。

 人に紛失とかないからね〜……。



「それでは借り物・人競争、よーい……」


 パン! ピストルの音が空へ轟く。

 第一走者がスタートした。


 ……ってあれ? 待機しているうちの誰か一人、ハチマキ着けてない?

 まって、あの髪は……!



「慧くん、ハチマキつけてなくない?」

「わざわざ私たちに返してきたのに、自分はつけないのかな~?」


 後ろからそんな会話が聞こえてくる。

 振り向くとそこには、昼休みのとき私にハチマキを渡してきた女の子たちのうち二人がいた。頭には、青いハチマキが巻かれている。


 ハチマキ返したって……え?

 もしかして女の子のハチマキ、梅原くん全部本人たちに返しちゃったの!?

 するって言ってなかったっけ!?


 いや、それは100歩譲って自由だけど、そしたら梅原くんのするハチマキ一個もないよ!

 だって梅原くんの本当のハチマキは今、私のポケットの中に入ってるんだから。


「科学係の人ー!」

「高二の世界史担当してる先生って誰!? 教えて!」


 第一走者の人たちによるお題探しの声がグラウンドを飛び交う。

 なんだか、かなり盛り上がっているみたい。


 こういうのってたしか、『好きな人』とかいうお題があるんだよね。

 たぶん、問題になるとかで入ってはいないかもしれないけど。


 心の中で声援を送りながら、私はそんなことを考える。



「さあ、第一走者が全員ゴール! 続いて、第二走者がスタートします!」

「あ、次慧くんだ~」

「やっぱハチマキしてないね。どうすんだろ」


 いやほんと、どうするの!?

 あれじゃ色わからないよっ。


 梅原くんが何を考えているか、全然見えない。



 という間に、第二走者がスタートした。


「さあ第二走者スタートしました!! ……最初に着いたのは……銀髪の生徒です!!」


 髪色!! 組わからなくて放送委員が戸惑ってる!!

 どうしよう。今からハチマキ渡す?

 いやいや、今競技中なのにそれは絶対無理!


 梅原くんは箱の中から紙を取り出して開いた。

 すると、青組のほうへ向かってくる。


「芹菜ちゃーんっ!!」


 ……と、大声で私の名前を呼んで。

 数時間前に見た景色っ。

 あ、でも私じゃないかも。青組に私と同じ名前の生徒がいたりとか……。


「桜庭芹菜ちゃん! 一緒に来て!!」


 梅原くんは青組の応援席に着くなりそう言って、私に向かって手を差し伸べる。

 え、ええっ、うそ、そのお題私でほんとに合ってる!?

 だけど、早くこの手をとらないと青組は4位になってしまう。


 とまどいながらも意を決して、その手をとった。

 そのまま、信じられないスピードでトラックを半周走り一位でゴール。


 すぐに私たちへ、審査員の人がマイクを向けた。


「名前はなんですか?」

「梅原慧でーす!」

「あ、なんか名前聞いたことあります!!」


 な、なにそれっ。

 梅原くんって校内でそんなに有名な人なの?


「えーっと、そんな梅原くんのお題は……面白い人、でーす!」

「お、面白い人っ!?」


 私がっ!?

 何かの間違いじゃないかな!? 私は面白くないと思うけどっ。


「お前、ネタに桜庭さんを使うな~」

「かわいそうだぞーっ」


 案の定、青組のほうからすぐに野次が飛んできた。


「お題クリア! は、いいんですが梅原くんハチマキしてないから色わからないんですねー、何色ですか?」


 梅原くんはハチマキをしていないから、何色かわからない。


「ちょーだいこれ」

「わっ」


 急に頭に触れられたかと思うと……ハチマキをとられてしまった。

 巻いていたから、もちろん私のだ。


 梅原くんは結び目をほどいて、ハチマキを自分の頭に巻いた。


「おれは、青組でーす!」


 そして、繋いでいた手を上に掲げられる。

 め、目立ってるよー!


「ということで、青組一位です! おっ、続いて赤組がゴール地点へ来ましたー!」


 審査員の人と放送委員の人はすぐに赤組のほうへ行ってしまった。


「さ、戻ろ!」


 いやいや、戻ろじゃないよ~!

 私史上今一番注目されてたよ!? そのあとなのに戻るのは厳しいよ〜っ。

 なんていう私の願いは叶わず、二人で青組の応戦席に戻った。



❀◦✴◦♪◦❆◦❀◦✴◦♪◦❆



 そのあと私が女の子たちから質問攻めにされたのは、言うまでもない。

 でも中学生のときに、律くんの幼なじみだからっていろいろ女の子たちに問い詰められたときに比べれば、全然ましだった。


 たぶんそれは、梅原くんが女の子と交流の多い人だから……。



「さて、続いては高校一年生によるクラス対抗リレーです! 八組までありますので、列はその分八列用意してまーす! 八列目は四分の一のハンデがあります!」


「絶対色別のほうがいい!!」

「色別にしたほうがわかりやすい!」


 って多少ブーイングが聞こえた。

 私はちょうど真ん中21番目。一緒に走る人がとてつもなく早い人じゃないといいけど……。


 ハチマキは梅原くんに取られてしまったから、私は今梅原くんのをしている。

 これじゃ、交換したことになっちゃうよ。


 ……そういえば、李本さんは律くんとハチマキ交換できたんだろうか。

 色が一緒だから、交換したかどうかは目じゃわからない。


 ちなみに一番目の律くんは今、三列目に並んでいる。

 トップバッターとアンカーは、一周走ることになってるんだ。



「では、高校一年生クラス対抗リレースタート!!」

「いちについて、よーい……」






 ————結果。


 3列目の律くんが一瞬で5人抜きし、そのまま一位をキープしたままアンカーの梅原くんに渡り、青は一番最初にゴールテープを切った。


 もう一クラスある青もなんと3位でゴール。



 高一のリレーでは、青組の獲得点数が一番高かった。



❀◦✴◦♪◦❆◦❀◦✴◦♪◦❆



 午後三時。

 体育祭は幕を閉じた。


 総合優勝は赤組。

 だけど、高一の学年優勝はうちのクラスだった。



「桜庭さん」


 係の仕事で片付けをしていると、李本さんに話しかけられた。

 あ……李本さん。

 話すのは朝以来だ。


「桜庭さんには、一応報告しようかと思って」


 李本さんの瞳は、少しだけ悲しそうに伏せられていた。

 それだけで結果が分かってしまう私も、悲しい。



「……結局ね、受け取ってもらえなかったんだ。俺じゃない人に渡したほうがいいとか。美桃くんじゃなきゃダメなのに」


 ……それは、律くんの優しさなのかな。李本さんを思っての……。

 だけど、そんなこと言えるわけはなかった。

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