第6章 ③
「おっ、お願いしますっ!」
人気のない校舎横。
私は山ほどのハチマキを抱えて、それを梅原くんへ差し出した。
「え……いや、なにこれ」
「お、女の子たちのハチマキです」
実はあのとき呼ばれた理由って、自分たちのハチマキを梅原くんに渡してほしいってことだったんだ。
しかも、私を呼びに来た以外にもけっこうたくさん人がいて、両手でギリギリ抱えられるか抱えられないかぐらいのハチマキを預かってしまったのだ。
『お願い! 今の梅原くんにお願いするには桜庭さんしかいないの!』
『受け取ってもらえるだけでいいから! お願いっ!!』
断れたらよかったんだけど、断れなかった……。
「普通に物理的な問題で、全部はつけれないでしょ」
それはそうなんだけど。
なんとかなりませんか。
女の子たちの気持ちが込められたハチマキを私が持っていたらおかしいし……。
「うーんわかった。じゃあもらうね」
「え、ほんとですか!? ごめんなさい、無理言っちゃって……」
「芹菜ちゃん断れない性格だもんねー。いいよ」
そして、梅原くんは全部のハチマキをひとつ残らず受け取ってくれた。
梅原くんの優しさに甘えてしまった……ごめんなさいっ。
だけど私じゃどうすることもできなかったから、正直受け取ってもらえてよかった。
「……でも一つ、芹菜ちゃんにお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うん」
梅原くんは頷きながら、自分のハチマキをとった。
「これ、芹菜ちゃんがつけてよ」
「え……私が?」
「そ。おれ、こんなにいっぱいつけたら自分のつけられなくなっちゃう。一つでも減らしたほうがいいでしょ」
「あ、なるほど」
でも私はすでに、自分の分が……って言おうと思ったら。
「おれの分はポケットにでも入れときなよ」
「うん、わかった」
体操服のズボンのポケットに、するりと入れる。
「よし! これでいいね。おれ飲み物買ってから行くから、先にグラウンド戻ってて」
「うん。あの、ほんとにほんとにありがとう」
「いーから早く」
梅原くんに軽く背中を押され、私はグラウンドに向かった。
そのとき。
「芹菜」
「あっ、律くん」
タオルを持った律くんと会った。
見知った人を見ると、なんだか安心する。
「律くん、お疲れさま」
「うん」
律くんは午前の部で、選択競技である騎馬戦に出ていたんだ。
結果は二位だったけど、みんな速くてすごかったなあ。
「……芹菜って、梅原と仲いいの」
「え?」
会話の流れがありえない方向に飛んで行って、私はびっくりする。
律くんにそんなこと聞かれると思わなかった。
お母さんと似たような質問だ……。
「うーん、仲がいいってわけじゃないよ。って言えば失礼かもしれないけど」
さっき助けてもらっちゃったし。
「たまに話すくらいかな、うん」
「そっか。わかった」
なにがわかったんだろう。
「あっ、そうだ律くん!」
「なに」
「律くんって、もう、誰かとハチマキ交換した?」
「……え」
すると、律くんが珍しく目を見開いた。
「……交換、してない、けど」
「そうなんだ。よかった~」
李本さん、午後に渡すって言ってたから。
まだチャンスは残ってるよ!!
あとで李本さんに会えたら、伝えないと。
「ありがとうっ、このあとも頑張ろうね」
私は律くんに手を振って、その場を離れた。
午後の部は、私が出る綱引きが一番最初だ。
準備しないと。
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