第4章 あたしの好きな人 side咲雪

第4章 ①

「咲雪ー、帰ろ」

「ね、今日どっか寄ってかない?」


 終礼が終わった後、友達の優愛ゆあ梨香りかがスクバを持ってあたしの席へ来た。


「たしかさ、駅前に新しいスイーツショップかなんか出来てなかったっけ? そこ行く?」


 あたしがそう言うと、二人は「いこいこ~!」と盛り上がる。

 あたしは李本咲雪。高一。世間一般で言う花のJK。


 なんていうのはドラマの中だけで、リアルのJKライフなんてそれほどキラキラしていなければ華やかさもない。


 ……いや、それはその人の努力次第ってところかな。


 短く折ったスカートに、長くしたリボンタイ。奇麗にセットした髪。バレない程度の小さなピアス。



「スイーツショップなんてできたんだ。わたし知らなかった~」


 教室を出て、廊下を歩きながらそう呟いたのは優愛。

 耳横の位置で結ばれたツインテールの巻きが、ゆらゆらと揺れている。


「あ、このいちごパフェおいしそうだよ」


 楽しそうにスマホをこっちへ向けてきたのは、梨香だ。

 さらさらのまっすぐな髪をポニーテールにしている、スポーツ女子。

 部活に無所属だけど、地域のバレーボールクラブに入っている。



 二人とも、高校に入ってから仲良くなった子たちだ。


 中学時代なんてきれいさっぱり忘れて、新しい友達作って、高校デビュー。

 正直今のところは完璧。


 ……あとは、彼氏。まあ、欲しいと言えばほしいけど。

 でも、誰でもいいわけじゃない。

 てか、あの人以外は嫌だ。



「あ、慧くんじゃん。やっほー」


 優愛の声で気づく。

 目の前から、慧が来たことに。


「おー」


 いつもと変わらない調子で返事をする慧。

 近くまで来ると、あたしたちは立ち止まった。


「あんたこんなとこでなにしてんの? また女?」


 梨香が聞くと、あいかわらずののらりくらりとした態度で慧は梨香に近づく。


「女じゃヤなの? 梨香ちゃんは」

「……毎回言ってるでしょ。私にそういうノリは通じないから。まじやめて」

「ガチトーンじゃん笑。そんな怒んないでよ~」


 バレーボール一筋の梨香は、男が近寄ってきても全部こんな感じで適当にあしらっている。

 たぶん、本気で嫌なんだろうけど。

 そのせいか他の女子からは妙な信頼を得ていて、かっこいいってよく騒がれている。

 女子からラブレターとかを貰っているのを見るし。


「じゃ、おれ用事あるから。ばいば~い」


 慧は話題を広げるだけ広げて回収せず、去って行った。



「……用事って、どうせまた女のとこでしょ。もしくは合コンとか」


 梨香が呆れたようにぼそっと呟く。

 どっちも一緒じゃない? とツッコもうとすると。


「いや、かっこいいなーとは思うけどね。普通にイケメンだし。だけど彼女とかは絶対ない。あんなのと付き合ったら泣かされて終了だよ。不幸せな未来しか想像できない」


 優愛が髪をいじりながら、そう言った。


「そういえば、慧って彼女作らない主義だとか明言してなかったっけ」


 優愛の話に乗っかると、それを聞いた梨香が苦笑した。

 笑い0.5割みたいな苦笑。


「なんであいつみたいなのがモテるんだろうね~。やっぱ世の中顔なのかな~」

「普通に女の子が喜ぶようなこととかを知ってて、そのまんま実践してるだけだと思うけど」

「それ、ルックスよくなきゃ無理だから。やっぱ顔なんだ。あ~わたしもかわいくなりたいよ~」


 優愛がわりと大きな声で嘆くもんだから、周囲の生徒の視線が一時的に集まる。


「ま、今日はパフェ食べるんだし、そういうのいったん忘れよ?」


 私が慰めると、優愛の顔がぱっと明るくなった。


「忘れる!! 今日はチートディね!! いっぱいトッピングしてもらおー!」

「チートディって、優愛毎日それ言ってるよね? トッピングの追加料金ちゃんと自分で払ってよ」


 梨香の話を完全無視し、優愛はわくわくって感じで軽くスキップする。

 まあ、楽しそうだからいいか。


 あたしはこうやって、誰かと話して、楽しむのが好きだ。



 ……だって、ぼっちはきついもん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る