第3章 ②

 放課後。

 私は買い出しにスーパーへ寄り道をしていた。


 毎週水曜日と金曜日に、ここへ来ているんだ。

 今日は水曜日。


 冷蔵庫を確認して、なさそうなものとか、あとはお母さんに頼まれたものを買うんだ。


 ちなみに律くんは委員会があって今日は一緒じゃないんだけど、水金で買い物に行っているのを知っていて「荷物持ち手伝うから委員会終わるまで待ってて」って言ってくれた。

 だけどそれは申し訳ないから断った。


 いつまでも律くんに甘えてばかりじゃだめだよね。


 それに今日は、買うもの少ないから大丈夫!

 ———と、あのときは思っていたんだけど。


「けっこう重い……」


 お母さんのメモにあった、お米とシャンプー、リンスがだいぶキテる。


 というかあれ、お米!? って改めてメモ確認したときびっくりしちゃったよ。

 しかも小さいのじゃなくて、5キロのやつ。

 品物の数的には少ないから、油断してた。


 右手には食材やシャンプー、リンス。



 寄り道とか楽なことしないで、カバンを家に置いてから来ればよかったってちょっと後悔。

 下校中の春輝くんと会えるといいんだけど。お米じゃないほうを持ってもらいたい。



 スーパーを後にしてすぐ、私はいったん道の端っこに寄る。

 どうやって持って帰ろう……とりあえず、肩に掛けてみようかな。


 食材とかお米以外が入っているほうはなんとかクリア。

 ちょっと痛いけど、なんとかなりそう。


 だけど、 お米のほうを肩にかけた瞬間……。

 ぐっと5キロがのしかかり、私の、私の肩がっ。

 しんじゃう〜!!


 びりっと全身に走った痛みからいち早く解放されるべく、慌てて袋を地面に落とす。

 どん、と音がした。

 まずい、今の衝撃で穴開いてないかな。

 確認のために、屈んだとき。


「あ」


 そのとき、目の前で声がした。

 顔を上げると……。


「……あ」



 そこには、梅原くんがいた。

 まさか、こんなところで会うなんて……。


「ねーえ慧、この子だあれ?」


 あと、隣にもう一人。

 私と同じ制服を着た、ボブカットの女の子。

 梅原くんの腕をぎゅっとつかんで、私を見下ろしている。


 あのときのロングヘアの女子生徒じゃない。

 全く別の女の子だ。



「ただのクラスメイトだよ」

「えーほんとに? なんかうそついてなーい?」


「うそじゃないってば、ね?」

「まあいいけど、なんか今日は冷めたから帰るぅー」

「ん、わかった。ばいばい」


 女の子は梅原くんから離れた後、私をちらりと見てから行ってしまった。


 ……あ、あの、これは……。

 前のロングヘアの人は彼女じゃなかったのかな?

 でも、彼女じゃない人とあんなことはしないよね?


 そしたら、さっきの人は友達……とか?

 にしては距離が近いし、まるで恋人みたいだった。

 しかも、"冷めた"ってなんだろう?


 たった一瞬の出来事に、私の頭はハテナで埋め尽くされる。



「あーごめんね? なんか。ああいうの」


 梅原くんは少し困ったような顔をして、私を見た。

 ああ、いうの? ってなんだろう。

 友達? と仲良く歩いてるようにしか見えなかったけど……。


「てかそれなに? 買い物してたの?」

「あ……はい」


 話題を変えたようなので、私も合わせる。

 梅原くん、あのときしかまともに話してないのに、かなりフレンドリーだ。

 初対面だったとしてもこんなふうに話すんだろう。


 ……初対面?

 もしかして私、初めて話すと思われている!?

 このまえのことも全然触れてこないから……私、とんでもないことしたのに。

 忘れたか、別人だと思われている可能性はある。



「袋パンパンじゃん。二つあるし、一個持ってあげるよ」

「え、そんな、申し訳な……」

「いーのいーの。おれを頼りなさーい」


 と言って、梅原くんはお米の入っているほうを私から取った。


「あ、そっちは」

「おっっっも!! なにが入ってんのこれ!?」

「お、お米です……5キロの……」


「米!? うそでしょ!?」

「……」

「これと、あと一つ抱えて、歩こうとしたの?」

「は、はい……」


 な、なんて思われてるんだろう……。

 自分の力もわからないバカだ、とか。


「家どこ?」

「……え?」

「あ、まだ他に寄るとこあるの?」


 ……もしかして。

 私でもわかる。

 たぶん梅原くんは、家まで持ってくれようとしてるんだ。


「ううん、ない。だけどそれは梅原くんに申し訳ないよ」

「じゃあお詫びってことにしない? さっきのことと、この前のこと」


 ……この前の、こと。

 まるでなかったかのように振る舞うから、忘れてるかと思っていたのに。


「ってことで、どこ行くの?」


 お米の入った袋を軽々と持ち上げた梅原くんが、私を見た。

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