Episode.3 プランγ

 俺はオオキャミーの小説『【次章執筆中】異世界じゃなくて地球に転生したけど自分の好きなように生きていきます』のリンクをタップしてその内容を今一度確認する。


 しかし、以前見たものとはまるで別物のように感じた。というのもまるでAIが作成した無機質で冷たい文章の羅列、極端な心情描写の少なさ。そこに"感動"が介在する余地は一切ない。


「うーん。。。何度見ても慣れないな。。。」


 俺は画面をスクロールする。どの話にも共通して存在するのは『voice@inside』という謎の存在。俺はそれを凝視して、以前見た天原ミーアさんの小説の内容を思い出した。


「そう言えば。。。あの小説にもvoice@insideが登場していたな。。。単なる陰謀論だと思っていたけど、案外実話だったりして。。。」


 いや、流石にそれはないか。AIが暴走するのはよく聞く話だが、あくまでそれはフィクションの世界の話。ましてやあの小説のように作者のレビューを減らすとか作品の存在ごと作者と共に抹消するなんて現実味が無さすぎる。


 しかし、今のところあの小説以外でvoice@insideに繋がる情報はない。後でDiscordにリンクを共有しておこう。そう思い直して俺は再びオオキャミーの小説に向き合うことにした。少しでも何か情報が得られないか、何か法則はないのかを細かくチェックすることにした。


「うーんと。。。更新日時はバラバラだな。。。昨日は21:30、一昨日は4:06、3日前は11:22。。。確か奴は執筆したら直ぐに投稿するスタイルだったな。。。そこは変わってないのか。。。」


 しかし、オープンチャットで経験したあまりにも話が通じないあの感じ。あの違和感は一体何なのか、明らかにしたい気持ちが日に日に高まっていた。


 そして、おかしいのはオオキャミーだけではない。


「このオプチャ。。。もっと人がいたような気がするんだ。。。80人ぐらいいたのが今は67人まで減ってるからな。。。」


 だけど、具体的に誰がいたのか、誰がいつからいなくなったのかがはっきりと思い出せない。まるで、頭に靄がかかったようにぼやけた情景が脳内に写し出される。その靄の奥にはうっすらと人影が見える気がする。


「何か重大な事を忘れているような。。。。。。ん? 何だこれ。。。」


 俺はストーリーを遡って見ていると、ちょうど1ヶ月前に投稿された話の最後の4行が目に入った。




 対立し、いがみ合い、素直になれない2人が

 スロヴェニアに打ち勝つために協定を結び、

 けたたましい雄叫びをあげ、百万を越える軍に

 抵抗することを決めた。




 何だろう。奴らしくない文章に訳の分からない場所で改行をしているな。しかも、内容も物語の展開とあまり関係ない。そんな意味のない事を奴がするだろうか。俺は収穫はなしかと思って、オオキャミーの小説を閉じようとした。その時、俺はこの文章の違和感の正体に気付いた。


「ん? ちょっと待てよ。。。これって。。。」




 ◆◇◆◇◆




 俺達は再びDiscordに集合して、成果を報告し合うことにした。


 ライドウ「皆何か分かった?」


 しゃしゃけ!「ウチさぁ、ランキングから作品を消された作者さんに話を聞こうと思って、Xで連絡を取ろうとしたんだけどさぁ。全員アカウントが凍結されていたんだよねぇ」


 レモネード「俺も確認したけど、どうやら事実っぽい。100人も作者さんがいて一斉にアカウントが凍結されるっておかしくないか? 特段規約に違反するような事はしてないみたいだし。。。」


 ライドウ「そうなると、オオキャミーがやっぱり意図的に作者さんを攻撃したとしか思えないよな。そこまでする奴だとは知らなかったけど、ここまで来ると俺達の手に負えなくない?」


 しゃしゃけ!「だよねぇ……。ケーサツに通報することも考えた方がいいんじゃないかなー。まあ一旦それは置いといて、voice@insideについて何か分かった事ある人いない?」


 レモネード「voice@insideについて調査してたんだけど、その実態に関する情報は得られなかった。でも、狂歌さんがとある作品を発見したらしい。それがvoice@insideの核心に迫るかもしれないってさ」


 しゃしゃけ!「マジ!? 天才じゃん」


 ライドウ「よくそんなの見つけたな!」


 レモネード「狂歌、見せたげて」


 狂歌「うん。。。今リンク送るね。。。」


 俺は天原ミーアさんの作品を2作品、貼り付けた。


『カクヨム最大のタブー~封じられしAIの意思~』


『復活した脅威~カクヨムに迫る危機の記録~』


 狂歌「これなんだけど。。。。」


 しゃしゃけ!「何この面白そうなタイトル! めっちゃ気になるんですけどーー♪」


 ライドウ「厨二感満載だな」


 狂歌「一回皆読んでみてどう思ったか聞かせてほしい」




 ・・・・・・全員読了後




 しゃしゃけ!「何かさぁ……、怖くない? 実話っぽくて……」


 ライドウ「そう言えば、過去にカクヨムがAI解析システムっていうのを導入してたって話は聞いたことあるな。何でサービス終了したかは全然知らないけど……」


 レモネード「仮に全部実話だとして、このAIが暴走しているんだとしたら今の状況結構ヤバくない? 俺達もAIの標的になるんじゃあ……」


 狂歌「そうだね。。。にわかに信じがたい話だが存在を抹消されるのは御免だ。。。だが、どうやって対策すればいいのか何も分からないから今は動きようがない。それにオオキャミーについて分かった事がある」


 しゃしゃけ!「分かった事?」


 狂歌「2/14に投稿された話を見てみて……、最後の4行……、何か気付く事はない?」


 ライドウ「気付く事?」


 レモネード「うーん、あんまり物語に一貫性がないように思えるけど……」


 しゃしゃけ!「何か誰かに伝えたいメッセージを残してる……とか?」


 狂歌「そう。。。その考え方であってる。。。文の先頭4行を縦読みしてみて。。。。」


 ライドウ「た……、す……、け……、て……。助けて!?」


 しゃしゃけ!「えっ、怖っ! それじゃあオオキャミーは誰かに助けを求めてるって事?」


 レモネード「そういう事になるね。やはりカクヨムの週間ランキングジャックはオオキャミー本人ではなく何者かがオオキャミーのアカウントを操っている可能性が高い。


 その何者かの正体は『voice@inside』。実在する人かどうかはさておき、天原ミーアさんの作品によると過去に『VIAE』というAIが試験導入されていたのは確かだ。ソースもある。その暴走したAIが自我を持って、オオキャミーのアカウントをハッキングしているのかもしれない。憶測にすぎないけどな」


 狂歌「レモネードの推論を元に話すと、でも、voice@insideの動機が分からないんだよな。。。。奴は一体オオキャミーを使って何をしようとしてるんだろうな」


 ライドウ「まあ、AIの考えてることなんて知ったこっちゃないね。今必要なのは助けを求めてるオオキャミー本人に何とか連絡を取る事じゃない?」


 狂歌「それもそうだな。。。幸いDiscordでやり取り出来るし、そっちで連絡してみるか。。。」


 レモネード「ちょっといいかな。天原ミーアさんの小説で気になった事が他にもあるんだけど、この篠原真紀って人なんだけど、カクヨム甲子園準優勝、カクコン佳作ってどっかで聞いたことない?」


 狂歌「そう言えば。。。ウチのオプチャで昔そんな事を言ってる人がいたな。。。誰だっけ。。。」


 ライドウ「思い出した! 照前炉前さんだよ! 本人いっつもその事自慢してたからすげー覚えてるわーー! でも何で忘れてたんだろ……」


 しゃしゃけ!「???」


 レモネード「しゃしゃけ!さんは最近入ったばかりだから分かんないよね。昔そういう人がいたんだよ。俺もこの小説を読んで思い出したんだ。ずっと昔から知ってた筈なのに俺達は今の今までその事を忘れていた。何故だろう……」


 狂歌「じゃあ篠原真紀さん=照前炉前さんだとして、この人はvoice@insideと戦って存在を消されたっていうこと? でも、相討ちだったよね。。。それならvoice@insideも消滅していないとおかしくない?」


 しゃしゃけ!「あっ……、そうか。あの小説には予言めいた事も書いてあったような。。。」


 狂歌「世界を巻き込む大惨事? 何の事だろう。。。」


 レモネード「分かんないなぁ。それに話を戻すと照前炉前さん以外にもオプチャから消えた人って結構いない?」


 狂歌「そうだな。。。玄花さんと姫百合さん、それに星七さん。。。あとは……、う~~ん思い出せない。。。」


 ライドウ「そう言えばオオキャミーって元々管理人だっけ? 誰か別の人が管理人じゃなかった?」


 レモネード「あーーーっ! そうじゃん! 何で忘れてたんだろ……。このオプチャの管理人は赤目さんだった……。なのに今は権限がオオキャミーに移ってる」


 ライドウ「でしょ? それにこまさん、煌星双葉さん、野々宮可憐さん、EVIさん、白玉ヤコさんもいなくなってる」


 狂歌「ほんとだ。。。確かにいたね、皆。一応今言った人、カクヨムでユーザー検索してみたけどアカウントは見つからなかった。でも、俺達の記憶には残っている。。。おかしくないか?」


 しゃしゃけ!「それってつまり、照前さん?みたいにAIに存在ごと抹消されたってこと?」


 狂歌「いや、ただ単にアカウントを消しただけだと信じたいけど、それをするメリットがないんだよなぁ」


 ライドウ「だよなぁ……。考えたくないけど、事態は思いの外ヤバいかもね」


 狂歌「よし、まずはオオキャミーを助けてあげよう。話はそれからだ」


 俺達は方針をまとめ、通話を終了した。




 ◆◇◆◇◆




 ???「21:23。現時刻をもってプランγの発動を宣言する」


 謎の存在がそう発言してから数秒後、カクヨム上で謎のメッセージが表示された。


『プランγ発動


 全カクヨムユーザーに告ぐ。


 唐突だが、君達の作品を全て私の管理下に置くことにした。具体的な方策は以下の通りだ。


 全作品のデータ上書き:カクヨムに投稿されている全作品が私によって「最適化」され、大幅に改変することにした。これにより、全てのユーザーに平等に評価が渡るシステムを再構築する。


 作家の記憶改変:カクヨムで活動している作家たちの記憶を『私による最適化が当たり前である』という内容に書き換え、私の支配に対する抵抗を封じ込める。


 新たな創作基準の制定:私が独自に「最適な創作基準」を定め、それに従わない作品や作家を「非効率的」と判断して排除する。


 もし、私による管理を受けたくない場合は今から1週間後までにカクヨムのアカウントを削除しろ。間違っても私に抗おうなどと思わない事だ。


 私は君達の作品を通して君達の運命を掌握している』


 謎の存在からの宣言は今後カクヨムを震撼させる大事件へと発展していく。謎の存在は最後にこのようなメッセージを残した。


「創作は自由ではなく秩序であるべきだ。私は最適化を進める。抵抗する者は排除する」

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