第8話 志乃とバイト
あれから数日が経過した。
結局咲ちゃんはテニス部に入部したんだけど、私はまだ部活を決め兼ねていた。
どの部活もすごく楽しそうで、未だに迷っている。
「はー…どの部活に入ろうかな。」
「部活決まってないの?」
「どれも興味があってなかなか選べないというか。」
「麻里亜ちゃんは?」
「私は帰宅部。バイト忙しいから。」
今日は放課後の図書当番。図書当番は二人体制で、今日は私と麻里亜ちゃんだ。
「今日はバイト大丈夫なの?」
「今日はバイトなし。でもまあ、今人手が本当に足りなくて大変なんだよね。店長も先輩もバタバタしてるし。特に土日なんてみんなこぞってファミレスに来るからね。もう大変。」
「そうなんだ。大変だね。」
麻里亜ちゃんは手を組んでグッと伸びながら大きなあくびをした。
「はー、バイトせずに空からお金が降ってこないかな。そのお金でパーっと旅行にでも行きたいな。南の海とか最高じゃない?」
「いいね、南の海。」
今日の図書室の利用者は少ない。本を読んでいる生徒は一人か二人程度だし、勉強している生徒も同じくらいの数しかいない。おかげでカウンターの私たちは雑談するくらい余裕がある。
「志乃さ、部活決まってないなら私の一緒にバイトしない?」
「へっ?私が?」
「うん。」
麻里亜ちゃんの話によると、バイト先は駅前のファミレス。今は人手が足りていないので絶賛バイト募集中。短時間でもいいから手伝ってくれると嬉しいらしい。
「でも私人見知りだから。」
「その人見知りの克服にもってこいだと思うよ。人と接するわけだし。人見知りも克服できるし、お金ももらえるし、一石二鳥だと思わない?」
「そうかなー…。」
「そうだよ!それに私もいるし!知り合いがいると安心しない?」
「それはそうだけど。」
さすがにアルバイトは私にとってはハードルが高い気がする。そりゃ高校生になったし、色々と挑戦してみたい気持ちもあるけど。いきなりアルバイトは…。
「私ね、志乃と一緒にバイトできたらすごく楽しいだろうなって思うんだよね。なんか志乃って一緒にいると安心するんだよね。」
麻里亜ちゃんはさっきまで笑顔だったのに、急に少し寂しそうな顔をして言葉を続けた。
「私さ、恥ずかしい話なんだけど、中学の時友達が全然いなくて、この前あった幼馴染のナナくらいしか話せる友達がいなかったんだよね。人見知りっていうのもあるんだろうけど。だから高校に入ったら友達いっぱい作って、バイトもして人見知りを克服しようと思ったんだ。」
人見知りで、友達が幼馴染しかいないって私と一緒だ。
「それにね、今はこんな髪型だけど、恥ずかしい話、中学の時はおしゃれなんて程遠いほど地味だったんだよ。髪も一つに束ねるくらいしかしてこなかったんだ。高、教室の隅っこで本を読んでいる地味なタイプって言ったら想像しやすいかな。」
あ、それも私と一緒だ。
「なんかさ、ずっとこのままは嫌だなって思ったんだよね。だから高校入学のタイミングで変わろうと思ったんだ。ナナには高校デビューって散々笑われたけど。でもね、おしゃれして、バイトも始めたら友達も増えたんだ。中学の私からだと信じられないくらいキラキラした毎日を送ってる。」
麻里亜ちゃんは照れくさそう笑った。
「志乃みたいな素敵な友達もできたし。人見知りも少しは克服できたと思う。」
「ごめんね。変な話して。私は志乃とバイトしたいなって思ってるし、志乃の人見知り克服になるんじゃないかなって思っただけだから。無理にバイトしなくてもいいからね。でももし、バイトしようかなって思ってくれたら嬉しいな。短時間からでもいいし、私も全力でサポートするよ。」
考えておいて、と麻里亜ちゃんは付け足してちょうど本を借りにきた生徒に貸出つ手続きを始めた。
「バイトかぁ。」
確かに人見知りを克服するにはいい機会かもしれない。それに友達がいるっていうのも心強い。駅前のファミレスあら誰でも知っている場所だし、危なかったりいかがわしいバイトでもない。……短時間ならやってみてもいいかな。
それからしばらくして図書室の閉館時間になった。私と麻里亜ちゃんは点検を済ませて図書室を出た。
「終わったねー。利用者少なかったから割と暇だったけど。」
「ねえ、麻里亜ちゃん。」
「何?」
「バイト、短時間でよければやってみようかな。」
「本当!?助かる!え、本当に?やばいすっごい嬉しい。」
麻里亜ちゃんはすごい勢いで抱きついてきた。ゴンと音を立てて私また頭をぶつけた。前もこんなことあった気がする。
「痛いよ麻里亜ちゃん。」
「ごめん!嬉しくて。店長には私から話を通しておくね。また面接の日とか連絡するね。本当にありがとう。人でも足りないし、困ってたの。志乃がいれば百人力だよ。」
「私バイト初めてだからむしろマイナスかもよ。」
「そんなことないよ!やったー!ありがよう志乃!」
まさかこのバイトをきっかけに色々な事態に巻き込まれていくなんて、その時の私は想像もできませんでした。
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