第7話 部活動見学

「咲ちゃーん、待ってよー。」

「志乃へとへとじゃん。」

「そりゃそうだよ。私そんなに運動得意じゃないの知ってるでしょ。あー運動部一つ見に行くだけで体力が根こそぎ吸い取られた。」

「志乃はもっと体力つけないとね。じゃあ、次は文芸部観に行こうか。」

「うんっ。ありがとう咲ちゃん。」


念願だった咲ちゃんとの部活動巡り。さすがに一日で全ての部活の見学は無理だから、今日はお互い一つずつ見たい部活を見に行くことにした。まずは咲ちゃんご所望のテニス部を見に行ったのは良いものの、見学と軽く体験させてもらった時点で私の体力はすでに黄色信号だった。


「立てる?」

「うん。」


咲ちゃんに手を引かれて私は文芸部の部室へと足を進めた。

部活動勧誘シーズンの放課後はとても賑わっていて、先輩後輩関係なくいろんな生徒とすれ違う。ちょっとしたお祭りみたいだ。


「咲ちゃん、お祭りみたいで楽しいね。」

「そうだね。あれ?志乃。急に立ち止まってどうしたの?」


ふわりと鼻を掠めたのは、あの花の香りだった。この匂い、嗅いだことがある。

勢いよく振り向くと、二人の上級生が視界にはいる。


後ろ姿だったけれど、はっきりとわかった。昨日図書室で手伝ってくれた先輩だ。

昨日の御礼を言わないと、これって声かけてもいいのかな。でも今のチャンスを逃したら次はいつ会えるかわからない。高校からは人見知りを克服するって誓ったんだ。よし、声をかけるぞ。


「あのっ、先輩。」


上級生は足を止めて振り向く。予想通り、一人は昨日手伝ってくれた先輩。相変わらずお人形みたいに綺麗な先輩だ。そしてその隣にいた先輩も『お嬢様』という言葉がよく似合うエレガントな雰囲気が漂う美人だった。


「ああ、君は昨日の。」

「昨日はありがとうございました。本当に先輩のおかげで助かりました。」

「そんなに頭を下げないで。」

「あらあら、可愛らしい一年生ね。絢、こんな可愛い後輩どこで知り合ったの?」

「ちょっと図書室で運命的な出会いをね。」

「まあ、素敵。」


同じ学校の高校生のはずなのに、とても上流階級なお話ように聞こえるのは私だけでしょうか。


『絢(じゅん)』と呼ばれた先輩は、私に二、三歩歩み寄って、私の顔に手を近づけてきた。


なななっ何事でしょうか。顔近いですし、美形ですし、まつ毛長いし、目が綺麗だし、もう直視できない。心のうるさい声を相手にしながら、私は思わずぎゅっと目を閉じると、思ったよりも冷たい手が私の頬をスッと撫でた。


「泥、ついてるよ。運動部の見学にでも行ってきたのかな?」

「へ、あ、ひゃい。」


変な声が出た。恥ずかしい。先輩はくすくすと笑った。


「また今度本を返しに行くからその時はよろしくね。」


ひらりと手を振って、先輩たちは言ってしまった。ちなみに私の心臓は今バックバックに過活動している。本当に一つ一つの仕草が…


「かっこいい…。」

「うん、あれはかっこいいわ。二人とも顔面偏差値高すぎでしょ。っていうか、志乃、一星先輩の知り合いだったの?」

「いちほし先輩?」

「知らないの?」

「うん。咲ちゃんは知ってるの?」

「知ってるも何も、うちの学校の有名人じゃん。」


咲ちゃんの説明によると、先輩の名前は一星絢。その輝かしい名前、整った顔立ちと紳士的な立ち振る舞いから『空女のシリウス』と呼ばれているらしい。あ、ちなみに空女っていうのは、うちの学校『美空女学院』からとっているそうだ。


一星先輩の隣にいたエレガントな先輩の名前は、雪野都(ゆきの みやこ)噂では旧家の出だとか、華族出身だとか、社長令嬢だとか、色々噂はあるみたいだが、自分のことは多く語らない先輩のようで、詳細不明。


一星先輩と一緒にいることが多いらしく、二人並べばそれはもう絵画のような美しさで有名なんだとか。知らなかった。


「咲ちゃんよく知ってるね。」

「むしろ志乃が知らなかったことがびっくりだよ。志乃美形好きでしょ?」

「人を面食いみたいに言わないでくれないかな。咲ちゃん。」

「まあ、入学してからずっとバタバタしてるもんね。委員会も忙しそうだったから。ほら、文芸部の部室に行くんでしょ?早くしないと部活の時間終わっちゃうよ。」

「あ、うん。」


咲ちゃんに手を引かれて私たちは文芸部の教室へと向かった。

ちなみに文芸部ではさっきの出来事が頭から離れなくて、全然部活の内容が頭に入ってこなかったのは、文芸部の先輩に本当に申し訳ないと思った。


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