第2話 図書委員会と九鬼麻里亜

「良かった、間に合った。」


初図書委員会。時計を見れば委員会開始五分前だった。

図書室をぐるりと見渡すと、どうやら各々好きな席について座っているみたいだ。できれば上級生じゃなくて、同級生の隣に座りたいな。


キョロキョロしていると、同じネクタイの色を発見した。しかも隣が空いている。あ、うちの学校は学年によってネクタイの色が違っていて、一目で学年が分かるようになっている。ちなみに一年生は赤色だ。


「お隣、座ってもいいですか?」

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」


頭の上に大きなお団子ヘアーの隣席の子。おしゃれなヘアゴムが特徴的だ。

彼女は頬杖をついて、上級生が黒板に文字を書いている様子をぼーっと眺めている。


「あの、一年生ですよね。」

「うん。あなたも一年だよね。私は九鬼麻里亜(くきまりあ)。クラスは三組だよ。」

「葉月志乃です。クラスは二組です。」

「クラス隣じゃん。」

「本当だ。よろしくね。」


……会話が終わってしまった。どうしよう。さっき友達もたくさん作るって誓ったばっかりなのに。えーっと、何を話そう。


「と、図書委員会だし、本好きなの…かな?」

「本より、雑誌とか携帯ゲームとか、おしゃれなお店巡りとかの方が好きだなー。葉月さんは?」

「私?」

「そうだよ。葉月さんから聞いておいて、私だけが答えるの?」

「そうだよね。ごめんごめん。私は本好きだよ。あんまり難しい本は得意じゃないけど、小説とか、時代物とか好きかな。特に幕末が好きで。」

「ふーん。そうなんだ。」


あ、この反応はあまり本に興味がないやつだ。

しまった、何か別の話題を振らないと。うーん…何かいい話題。面白そうな話題。何がいいんだろう。……正解がわからない。


よほど私は変な顔をしていたのか、九鬼さんは急に吹き出して笑い始めた。


「え、何?どうしたの。」

「ははっ、ごめんごめん。だって葉月さん表情がコロコロ変わっていくし、面白くてさ。」

「えーっ。そんなに面白かった?」

「うん。あーダメだ。思い出したらまた笑えてきた。」

「もー!九鬼さん!」

「麻里亜でいいよ。私も志乃って呼んでいい?」

「もちろんだよ!麻里亜ちゃん。これから仲良くしてね!」

「こちらこそよろしく。」


私は麻里亜ちゃんと握手をした。

やった。入学して早一週間。初委員会で初友達をゲットしました。

人見知りの私からしたら大きな一歩を踏み出せたと言っても過言じゃない。自画自賛してもいいよね?明日、咲ちゃんにも友達できたよって報告しないと。



そうこうしている間に、図書担当の先生や司書さんから今日の作業の説明が始まった。今日のメインは蔵書点検。新学期が始まると、新入生が入ってくることもあって、本が正しい位置に戻されていないことが多々あるらしい。


あとは本が破れていないか破損チェック。とりあえず本が多いので、手分けして作業を開始することになった。


私と麻里亜ちゃんは歴史書の書庫担当になった。


「すごい量だね。でもいい本がいっぱいあるね。」

「そう?早く終わらせて帰りたいなー。」

「麻里亜ちゃん急いでいるの?」

「まーね。バイトの時間が迫ってきてるんだよ。」

「高校入学してすぐなのに、もうバイト始めてるの?」

「そうだよ。ほしい服とか、行きたいカフェとかいっぱいあるし。志乃はバイトとかしないの?」


すごいなー。キラキラしてる女子高生って感じだ。


「うーん、私はまだ考えてないかな。麻里亜ちゃんはどんなバイトをしてるの?」

「駅前のファミレス。結構人手不足で忙しいんだよね。まあ、時給はそこそこ良いんだけど。今日もこのあとバイトなの。」

「そうなんだ。」


麻里亜ちゃんは作業をしながら、何度も時計を見ている。さっきからよく棚に入れる本を上下逆さまにしたり、違う指定場所に入れたりしている。これじゃ仕事増やしちゃってるよ麻里亜ちゃん!


「麻里亜ちゃん。その本、こっちだよ。」

「え、あーごめん。」

「あの、良かったら私今日時間あるから、残りの分やっておこうか?」

「志乃?」


麻里亜ちゃんは大きな目を見開いて私を見た。

お化粧してるのかな。まつ毛がキュイっと上に上がっている。


「えーっと、バイトの時間迫ってるんじゃないのかなって…思って。」

「あー…まあ、そうなんだけどさ。悪いよ。」

「ううん、そんなことないよ。」


麻里亜ちゃんは眉をハの字にした。


「志乃、本当にいいの?」

「うん。大丈夫だよ。」

「じゃあ、悪いけどお言葉に甘えて。今度うちのファミレスのクーポン券あげるね!」

「ありがとう。」


麻里亜ちゃんは申し訳なさそうに手を合わせると、急いでカバンを持って図書室を後にした。そして私はまだまだ大量にある本を前にして深呼吸をした。


「さあ、片付けちゃいますか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る