第2話 蠢くもの
莉奈ちゃんの事件は、街全体に更なる恐怖をもたらした。
三件目の被害者が出たことで、警察はついに異常事態を認め、本格的な捜査本部を設置した。
五十嵐は、班長に任命され、事件の真相解明に全力を注ぐことになった。
莉奈ちゃんの事件現場に残された血痕の一部が、美咲ちゃんの血液型と一致することが判明した。
これは、美咲ちゃんが何らかの形で事件に関与している証拠なのではないかと五十嵐は考えた。
しかし、美咲ちゃん自身は死者であるため、捜査は難航を極めた。
五十嵐は、美咲ちゃんの両親に改めて話を聞いた。
恵は、美咲ちゃんが事故に遭う以前から、人形遊びに異常な執着を見せていたことを語った。
「美咲は、いつも人形の腕や足を付け替えたり、切り取ったりして遊んでいました……まるで、自分の新しい体を作っているかのように……」
恵の言葉は、五十嵐の胸に重く響いた。
美咲ちゃんの部屋を捜索した五十嵐は、大量の人形のパーツを発見した。腕、足、頭……様々なパーツが、まるで標本のように並べられていた。
その中には、不気味なことに、人間の子供の左腕によく似たパーツもあった。
五十嵐は、そのパーツを手に取り、凝視した。
一方、勇太くんの状態は悪化の一途を辿っていた。
左腕を失ったショックから精神的に不安定になり、幻覚を見るようになった。
「……美咲ちゃん……かえして……」
「……痛いよ……怖いよ……」
勇太くんのうわ言は、美咲ちゃんと事件の関連性を強く示唆していた。
莉奈ちゃんもまた、右足を失った恐怖から立ち直れずにいた。
莉奈ちゃんは、夜になると、
「……暗い……怖い……助けて……!」
と泣き叫び、両親を心配させていた。
五十嵐は、美咲ちゃんが霊となって現れ、子供たちの身体の一部を奪っているという仮説を立てた。
そして、美咲ちゃんの霊を鎮めるためには、美咲ちゃんの切断された左腕を見つけなければならないと考えた。
五十嵐は、美咲ちゃんの事故現場周辺を改めて捜索した。公園の土を掘り起こし、下水道や側溝を調べ尽くしたが、左腕は見つからなかった。
ーーまるで、最初から存在しなかったかのように。
捜査に行き詰まりを感じていた五十嵐は、地元の神社の神主、木村老人に相談を持ちかけた。
木村老人は、この街の歴史に精通しており、地元では霊能者としても知られていた。
五十嵐は、木村老人に事件の経緯を説明し、美咲ちゃんの霊を鎮める方法を尋ねた。木村老人は、静かに話を聞き終えると、「……これは、怨霊の仕業じゃ……」と呟いた。
木村老人は、美咲ちゃんの霊が、自分の身体を取り戻すために、他の子供たちの身体の一部を奪っていると語った。
そして、美咲ちゃんの霊を鎮めるためには、美咲ちゃんの魂を解放する必要があると告げた。
「美咲ちゃんの魂を解放するには……?」
五十嵐は、真剣な眼差しで木村老人に尋ねた。
木村老人は、
「美咲ちゃんが心残りとしているものを探し出し、それを解決する必要がある」
と答えた。
五十嵐は、美咲ちゃんが心残りとしているものについて考え始めた。
美咲ちゃんは、事故で左腕を失った。そして、人形遊びに異常な執着を見せていた。
つまり、美咲ちゃんは、完全な体の人形を欲していたのではないか?
五十嵐は、その考えに至ると、ある仮説を立てた。
美咲ちゃんは、自分の体のパーツを集めて、完全な体の人形を作ろうとしているのではないか?
そして、その人形に自分の魂を移し替えようとしているのではないか?
五十嵐は、その仮説を検証するために、美咲ちゃんの部屋に残されていた人形のパーツを改めて調べた。
すると、左腕のパーツだけが欠けていることに気づいた。そして、その欠けている左腕のパーツこそが、美咲ちゃんが事故で失った左腕ではないかと考えた。
五十嵐は、美咲ちゃんの左腕を探し出すことが、事件解決の鍵になると確信した。
しかし、美咲ちゃんの左腕はどこにあるのか?
五十嵐は、再び捜査を開始した。
近所の子供たちへの聞き込みを続けると、ある有力な情報が得られた。
美咲ちゃんが事故に遭った日、何か白いものが公園の近くの森へ飛んでいったという証言だった。
五十嵐は、直ちに森へと向かった。
森の中は、昼間でも薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
五十嵐は、森の中をくまなく捜索した。すると、森の奥深くで、小さな祠を発見した。祠の中には、歪な人形が置かれていた。
五十嵐が人形に近づき、よく見ると、その人形には左腕と右足がなかった。
そして、人形の傍らには、汚れた木箱が置かれていた。
五十嵐は、箱を開けてみた。
ーー中には、人間の子供の左腕と右足が入っていた。
五十嵐は、息を呑んだ。
この左腕と右足は、勇太くんと莉奈ちゃんのものであることは間違いない。
そして、この人形こそが、美咲ちゃんが作りたかった完全な体の人形だったのだ。
その時、森の中に、冷たい風が吹き抜けた。
そして、子供のような高い声が聞こえてきた。
「……これで……できたぁ……」「……わたしの……か、ら、だ……」
声は、祠の奥から聞こえてきた。
五十嵐は、ゆっくりと祠の奥へと進んでいった。
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