勝利の行方①

「俺らしくないか……」


 戦闘領域バトルエリア中央、奇跡的に無傷のまま残った最も高井ビルの屋上。ノアはそこに陣取っていた。


 HUD——ヘッドアップティスプレイには、ジークと2機のサイバースーツが交戦する様子が映る。


(今までの俺だったら、許せなかっただろうな……)


 同率1位のチームを集団で狙い撃ちする、候補生たちの戦法。


 試合開始直後、ノアは2チーム4機に囲まれる。チームメイトを失いながらも、ただ一人、生き延びた。


(……これはナナの影響か?)


 正面から戦うだけが、勝負じゃない。


 勝利のために工夫を凝らし、全力を尽くす。 候補生たちのやり方に共感できないが、その執念は理解できた。

 

 誰もが魅せられ、賭けている。

 サイバースーツのプロになるために——。


(……俺に足りなかったのは、勝つためのプライドだ)


 だからこそ、ノアはこのビルに陣取り、ひたすらにスキを伺い続けていた。


 視界に映った、ジークが1機を撃墜する。


「俺は、ここで証明してやる」


 サイバーネクストプログラムにおいて、ノアの評価は「」。


 そんな肩書きに、何の価値にもない。


 ここで勝ち、故郷にいる彼女に伝えたい。

 「1番になった」と。


「ジーク、ナナ……。勝つのは、俺だ」


 ターゲット・レティクルが捉えたのは、2機目を撃墜する直前のジーク。


 サイバーキャノンの視界誘導機能が、確実に標的をロックする。


 ノアは戦闘AIに命じた。


発射ファイア



 ******



 七瀬の目の前に、吹き飛ばされたジークが転がってきた。


 散乱していたビルの破片を弾き飛ばしがら、うつ伏せに倒れこむ。


『ジーク!』


 ジークの機械装甲サイバースーツはシールドを失い、左腕の装甲が焦げ付いていた。反射的に身を捻ったのか、胴体への直撃は免れたようだ。


「間に合え……!」


 七瀬は即座にジークの腕を掴み、全力でその場から離脱する。


 一瞬遅れて、サイバーキャノンの砲撃がジークのいた場所を粉砕した。轟音が戦闘領域バトルエリアに響き渡り、衝撃波が周囲の瓦礫を巻き上げる。


 七瀬はジークの体を引き寄せると、わずかに残っている建物の陰に身を隠し、敵の射線を切るように移動した。


『おい、大丈夫だ。離せ』


 ジークが掠れた声で言った。七瀬は、ジークの腕を離す。そして、HUDに浮かぶ数値を確認した。


『カエデ・ナナセ:アーマー損傷率23% フォトン残量10%』


『ジーク・フェスター:アーマー損傷率27% フォトン残量23%』


 ジークは、戦闘不能条件である30%をギリギリ超えていない。まだ運には見放されてないようだ。


『……あいつ、完全に狙ってたな』


 ジークが忌々しげに呟く。


『ああ、ずっとチャンス伺ってたと思う……』


 ジークの意識が目の前の敵だけに集中した、その一瞬をノアは逃さなかった。


 サイバーキャノンの有効射程ギリギリからの精密射撃。

 

 「ジークに次ぐ実力者」と言われるノアの技量と執念が、伝わってくる。


『ジーク、今生き残ってるのは、俺たちとノアだけみたいだ』


 七瀬がHUDを確認しながら言った。


 生存機数は残り3機。七瀬とジークが関与していない撃墜は5機あった。


『他の連中をやったのは、あいつだな』


『そうだと思う。同率1位だし、俺たちと同じく集団で襲われたんだ』


 そして、ノアだけが生き残ったということだろう。チームメイトが撃墜されていたのは、今の七瀬たちにとっては幸運だった。


『あいつは、あそこで待ち構えるだろうな』


『そうだね。サイバーキャノンを最大限に活かせるポジション。ノアも本気でプロを獲りにきてる……』


 最も見晴しのいい場所から、射程の強みを押し付ける。周囲のビルは軒並み崩壊し、遮蔽物はほとんど残っていない。


 戦闘領域バトルエリア中央に陣取るノアを倒すのは、至難の技だった。


『でも、俺たちは二人いる』


 七瀬は確信を込めて言った。


『ジーク。俺たちの決着、まだついてないよな』


 VRバトルロワイヤルでは七瀬が勝ち、トーナメント戦ではジークが勝った。

 

 直接対決の戦績は、1勝1敗——


『ノアを倒した方が、勝ちっていうのはどう?』


 ジークの動きが一瞬止まる。


 サイバースーツ越しにも驚きが伝わってきた。


『……戦闘前のお前に聞かせてやりたい台詞だな』


 ジークが呆れたように言った。


『悪くない。だが、勝つのは俺だ』


『いいね。決まりだ』


 二人は付近に落ちているサイバーウェポンを拾い上げる。


 七瀬はフォトンライフル、ジークはサイバーアックス。今、使える状態の武器はそれだけだった。


 全身にまとわりつく疲労は消えない。視界はかすみ、頭もぼんやりする。


 とっくに限界のはずだった。それでも——


 体は、まだ動く。

 心は、最高潮に燃えている。


『行こう。決着をつけに』


『ああ』


 二人の視線は、戦闘領域バトルエリア中央の高層ビルを捉えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る