覚醒②

(許せない……)


 ジークの胸の奥で、激しい怒りが渦巻いていた。


 戦闘領域バトルエリアは戦火に包まれ、ビルの破片が散乱している。視界の端に、中央にそびえ立つ高層ビルが映った。


 ジークは、七瀬を庇うように立ちはだかっている。目の前にはフォトンブレードを構える敵機。


 敵が再びジークに斬りかかる。


 ジークは攻撃の軌道を見切り、シールドをブレードの下に滑りこませた。剣撃の勢いを利用し、流れるように受け流す。


「消えろ」


 流れるように右手のサイバーアックスを叩き込む。そのありあまる破壊力は、一撃で敵機を沈黙させた。


『生存機数:5機』


 HUD——ヘッドアップディスプレイのカウントが、一瞬で一つ減る。


 敵を倒してもなお、ジークの怒りは収まらなかった。


 燃え上がる憤怒が全身を駆け巡り、自らを燃え尽くさんとする。


 それは——過去と、今の、自分への怒り。


(許せない……)


 妹・リリアの幸せを願い、突き放してまで金持ちの親戚の元へ行かせた自分。


 リリアの意志を無視した一人よがりの選択だと、心の底では気づいていたのに。


(許せない……)


 手段がなかったとはいえにすがった自分。


 うす汚れた自分には、リリアと再び一緒に暮らす資格などないかもしれないのに。


(許せない……)


「次はない」と言い放ちながら、カエデに庇われた自分。


 その事実を受け入れられず、思考を止め、カエデの奮戦をただ眺めていた自分。


 カエデの全力に行動に対して、いつも受け身だった自分。


(本気じゃなかったのは、俺の方だ……)


 このまま何もしないで終わるなど、絶対にありえない。


 今だけは——全てを忘れてでも、自分の存在を示さなくてはならない。


(……プロになるのは、俺だ)


 ジークは、全身を焼き尽くすような怒りを、自らを動かすエネルギーへと昇華させた。



『カエデ、動けるか』


 ジークは無線越しに問いかけながら、前方から新たに現れた2体の敵を見据える。


 両機ともサイバーアックスを腰部にマウントし、手にはフォトンライフルを構えていた。


『はあっ、はっ……ジーク、何で……?』


 七瀬の荒い息が聞こえる。


 体力の回復には時間がかかる。そう判断したジークは、即座に行動に移った。


 敵の発砲をサイバーシールドで防ぎつつ、振り向きざまに七瀬の腕を掴む。そのまま後退し、崩れた建物の陰に押し込んだ。


『はあっ……ダメだ。ほっといてくれ。今の状態じゃ……足手まといだから……』


 七瀬がかすれた声で言った。そのまま壁にもたれるように崩れ落ちる。


「借りを返すだけだ」


『え?』


 七瀬に構うことなく、ジークは躊躇なく敵の前に姿を現す。


 HUDに映る敵機の識別アイコンには、チャールズとアレクシスと名前が表示されていた。


「4機じゃないのが残念だな」


 ジークは舌舐めずりをするようにつぶやいた。

 

 二体の敵は後退しながら、フォトンライフルを連射する。


 ジークは驚異的な反射神経で弾道を見切り、シールドと遮蔽物を巧みに利用しながら接近した。


「スラスター全力開放フルブースト!」


 スラスターが唸りを上げ、爆発的な加速を生む。シールドで粒子弾を弾きながら、一気に敵の正面へと踏み込んだ。


 サイバーアックスを振りかぶり、敵が構えたシールドごとき吹き飛ばす。


 吹き飛んだ敵をカバーするように、もう1機が即座に接近してくる。敵のサイバーアックスとジークの刃が交わり、虹色の火花が散った。


 フォトンをまとった刃がぶつかりあい、地面にヒビが入るほどの衝撃が発生した。互いの刃が何度も交錯する。


(……甘い!)


 ジークは素早く足払いを仕掛けた。バランスを崩した敵に、渾身の一撃を振り下ろす。


 構えたシールドごと叩き割り、敵の胸部装甲を粉砕する。敵機は目から光を失い、力なく崩れ落ちた。


「!」


 先ほど吹き飛ばした敵機が、潰れたシールドを投げ捨て、すぐそこまで迫ってきていた。


 敵はサイバーアックスを横薙ぎに振り抜く。


 ジークは反射的に後方に反り、きわどく回避。


 しかし、完全には避け切れず、アックスの柄の部分が断ち切られた。斧頭が、鈍い音を立てて地面に転がる。


「ちっ!」


 武器を失った。残るのは左手のシールド、腰部のライフルのみ。


 ジークは柄を投げ捨て、バックステップで距離を取ろうとする。

 

 しかし、敵は間髪入れずに肉薄した。


「終わりだぁぁ!」


 叫び声と同時にジーク目掛けて、サイバーアックスが振り下ろされる。


 ジークはシールドを構えつつ、凄まじい反応速度で身をかがめた。瞬間、シールドが斜めに裂かれ、フォトンの粒子が弾け飛ぶ。


 しかし、ジークは怯むことなく敵の右側面へ滑りこみ、懐へ入り込んだ。


 流れるように腰部からライフルを引き抜き、銃口を脇腹に突きつける。


「なっ……!?」


 敵が反応するより早く、ジークは引き金を引いた。


 圧縮されたフォトン粒子がゼロ距離で炸裂し、敵機を吹き飛ばす。


 そのまま連射を浴びせると、敵機は沈黙した。


(……思ったより手こずった)


 目の前の敵を撃破し、一瞬気を緩めた瞬間だった。



『ジーク!右後方!!』


 七瀬の叫びに、ジークの体が反射的に動く。


 斜めに裂かれたシールドを構え、回避動作を試みるも——


 次の瞬間、強烈な衝撃が全身を襲った。


 視界が揺らぎ、HUDにノイズが走る。ジークの体は、無惨に吹き飛ばされた。



 七瀬は、その一部始終を目の当たりにする。


 700メートル先——戦闘領域バトルエリア中央に位置する最も高いビル。砲撃はそこから放たれた。


 HUDが、そこにいるサイバースーツを捉え、識別アイコンを表示する。


 その名前に、思わず息を呑んだ。


「ノア・グリーンフィールド……」


 サイバーネクストプログラム、最後の戦いが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る