第8話 月神信仰



 夜のギルドは昼とは別の顔になる。

 闇ギルド。

 ギンが言うには、これは悪いものでなく、月神を信仰する者達が秩序を保つ為に、人を間引くことなのだそう。

 昼の冒険者ギルドは魔物を間引き、夜の闇ギルドは人を間引く。

 神視点から見れば、そのように見えるため、何も問題はないそうだ。



「にゃーん?(ギンの主は悪役?)」



「……本当に聞いていなかったんだな。まあいい。月神は悪役とも言えるし、そうでないとも言える。見方の違いだな。我……いや、俺も聖獣ではなく邪竜としては討伐対象になっている」



 ギンが討伐対象……凄い世界だなあ。

 聖獣が邪竜として討伐対象になるなんて、聞いた事ない。

 ただ生きてるだけで討伐対象になるなんて、主のつくった世界は残酷だ。



「とは言え、冒険者ギルドの方は、勿論分かっている。月神の眷属が討伐対象になり得ない事をな。ただ、人々を束ねるには共通の敵というものは、あった方が群れは纏まるものだ。月神もまた邪神などと呼ばれているが、それも闇ギルドがつくったもので、月神自体が悪だと決めつける者はいないな。月神と邪神は別物だと考えられている」



「にゃ、にゃーん?(じゃあ、月神信仰は隠して、邪神信仰だと勘違いさせてるの?)」



「そういう事になる。これも面倒な事が絡んだ結果だ」



 なるほど、なるほど。

 聖獣討伐なんて無理があると思ったけど、邪神の眷属の邪竜討伐なら納得。

 ギンを討伐なんて無理だと思うけど。

 なんと言っても、ギンは格好良いドラゴンなんだから!これを知ってるのは僕だけ。

 ふふん!なんて良い気分なんだ!



「ユト、ご機嫌なところ悪いが、冒険者ギルドのギルマスと闇ギルドのギルマスが、ユトからの言葉を待ってるぞ」



 実は現在、昼と夜のギルマス二人に跪かれている。

 というのも、闇ギルドの人達全員が、ギンと僕の正体に気づいてしまったのだ。

 それにより、このギルドマスターの部屋に通されたのだが、ギンに挨拶した後に僕にも挨拶をしてきたのだ。

 僕は既に「にゃー(こんばんは)」と、挨拶済みである。

 にも関わらず、二人は僕の言葉を待っているらしい。



「ニッ(僕は挨拶した)」



「そうだな。なら、早くギルドを出るか」



 そう言って、ギンが立ちあがろうとした瞬間、ギルマス二人が焦った様子でギンを引き留める。



「お待ちください!御猫様の安全の為に、どうか屋敷を準備させていただきたいのです!」



「御猫様がお望みなら、神殿への対策をいたします!神殿へ行かれないのでしたら、どうかギルドにお任せください」



 そう、僕は神殿に行く事を強くお勧めされている。

 だが、家出中だとギンが説明した後は、僕が神殿を避けていると思ったのか、屋敷の準備を勧められた。

 とにかく、僕を守るという事に関して必死なのだ。

 ギンがいるにも関わらず、それでも僕を守りたいというのは、僕が主の飼い猫だからなのだろうと、ギンが念話で説明してくれる。



「ニー(僕はただの飼い猫だもん)」



「ユトは自由を好むからな」



「ニーッ(僕を好きにできるのは主だけ)」



「そうだな。という訳で、ユトが望まない事はするな。ユトに関わりたいのなら、ユトが望んだ時だけ協力するように」



 ギルマス二人は、「かしこまりました」と口を揃えるが、目は僕に釘付けだ。

 猫というのは、それだけ魅力的に見えるのだろう。

 二人からは、良からぬ事を企む様子はなく、本心から僕の為に何かしたいと考えているようだ。

 それくらいは僕にも分かる。

 しかし、期待の目を向けられては、僕も無視したくなってしまうのだ。

 他人の目は、それだけ僕にとって不快でしかない。



 僕はギンの肩に乗り、顔に擦り寄ってギンの瞳を覗く。

 ギンの目は、主と同じように見えて少し違う。

 主は僕に期待の目を向けるが、ギンは期待の目を向けてこない。

 かと言って、主からの期待が嫌というわけではないのだ。

 主が僕に求めるのは、僕が主を好きかどうか。

 それだけだからだ。

 そして、主とギンが似ているところと言えば、二人とも僕を見て面白がっているところだ。

 だから、僕は自分が楽しむ事を優先する。



「にゃーん(ギン、行こう)」



「ああ、そうだな。次はどこに行く?」



 そんな事を喋りながら、僕達は夜の街を歩く。

 他人の目が少ない夜は、僕が活動するにはちょうど良い。

 しかし、そんな僕達を遠くから見ている人物が複数いるのだと、ギンが言う。

 闇ギルドが勝手に護衛してるのだろうとの事で、僕が不快になっていないか確認してくる。

 僕としては、僕が感じない視線であれば不快になりようがないため、遠くから見守られている分には問題はない。



「にゃんにゃんにゃーん!(どこに行こうかなあ!)」



 テッテッテッと、ご機嫌で歩いているため、ギンは闇ギルドに何もせずについて来る。

 僕が無視しているからだろう。

 もしくは、念話をしているかもしれないが、そのあたりは僕には関係のない事だ。

 だが、僕に関係のある事だったと、すぐに気づかされる。



「ユト、隣街にユトの好きそうな花畑があるらしい。行ってみるか?」



「にゃー!(行く!)」



 こういった観光案内なら大歓迎だ。

 是非とも、いろんな場所を紹介してもらいたいものだ。

 そう思いながら、僕はギンに言われるままに先頭を切って進んだ。



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