第4話 異世界の街



 自分で冒険がしたいと言っておきながら、ベストポジションで眠りにつく。

 そんな我儘な僕を、ギンはジッと見ていたらしい。

 目が覚めるとすぐにギンと目が合い、僕の周りにはたくさんの動物や魔物達が集まっていた。

 おそらく、ついて来ていた者達だろう。

 全員が僕を見ていて、野生的ではない様子に、僕は戸惑いながらもギンに助けを求めた。



「ニャッ!(助けて!)」



「大丈夫だ。そいつらは何もしない。ユトがあまりにも無防備だったから心配していたぞ。自分達が守るのだと言って、そうしてユトを囲っている」



 無防備……それは否定できない。

 飼い猫だった僕は、ずっと主がいてくれたから、それに慣れすぎてたんだ。

 でも、どうしたら無防備じゃない眠りになるんだろう。

 眠ればみんな無防備だよね?



 そんな事を考えながら毛繕いをすると、ゴワゴワした毛にびっくりする。

 なんと、ブラッシングをしないだけで、毛が絡まって舌に引っかかるのだ。



「ニッニャー!(僕の毛が!)」



「あぁ、ブラッシングか。街に着いたらブラシを買ってやる……が、下手でも怒るなよ?」



「にゃー!(ありがとう!)」



 僕は機嫌良くギンの元まで行き、足に擦り寄る。

 ギンが撫でてくれるまで、何度もスリスリすると、ギンは漸く僕の顔を撫でてくれた。

 目を細めてゴロゴロと喉を鳴らせば、ギンは驚いた様子ではあったが、それでも口の周りや頭を撫でてくれる。



 ふう、満足満足!これでまた移動でき――



「ふむ、これは癖になるな」



「シャー!(もうやめて!)」



 触りすぎであったため、猫パンチをして牙を剥くと毛が逆立つ。

 しかし、そんな僕を面白そうに観察するギンは、僕が怒っても撫でてくる。

 さすがにしつこいと思い、もう一度牙を剥いた……が、次の瞬間、口の中にギンの指が入ってきた。

 主もしない事に驚き、僕の威嚇が消えてしまったため、最終手段でギンから逃げた。



 な、なんなんだ。

 主なら僕が威嚇したら土下座してくるのに、ギンは違う。 

 ギンには僕の威嚇がきかないんだ。

 こいつは強い……主なんてチョロかったのに。



「ユト、行くのか?」



「ニッ(先に行って)」



「本当に自由だな。だが、これもこれで面白いか」



 そうしてギンは新しい玩具を見つけたように笑み、街に向かって歩きだした。

 周りにいた動物や魔物達は、また隠れながらついてくるらしい。



 異世界での森の移動。

 想像するのは、危険な魔物との戦いや、仲間となる強い魔物、それから冒険者との遭遇だ。

 しかし、僕の森での移動はものすごくおかしい。

 それだけは分かる。

 白猫が蝶々や花と戯れ、日光浴をして眠り、人形のドラゴンに抱えてもらう。

 とても平和である。



 それから数日後、ギンが僕の扱いに慣れ始めた頃、山の上から街が見えてきた。

 この世界がどのくらい発展しているかは知らないが、ガルガンティシアは発展しているように見える。



 ここがガルガンティシア……国として見たら小さいのかな?でも、前世みたいな都道府県として見たら普通かな。

 盆地とは思えない。

 向こうの山がうっすらとしか見えないから、相当広いと思う。



「ユト、山を下りて入国するぞ」



 そう言ったギンに抱えられた僕は、動物や魔物達とお別れし、ギンは少し急いだ様子で急な坂を下りていく。

 本当なら安全な道があり、森を抜けた所にあるトンネルを通れば、もっと早く着いたようだ。

 しかし、ギンが人目につかないように山を選んだため、どう足掻いてもこの急な坂を下りるしかないらしい。



 そうして、ズザザザッと音を立てて下りた先に、国の門が見えてくる。

 冒険者や馬車などが並んでいるところを見ると、入国審査があるのだろう。

 そこで、入国審査がどのようなものなのかと訊いてみたが、ギンも分からないらしい。

 そのため、僕達はドキドキで列に並び、順番が来るまで待つ事になった。



「――可愛い。飼い猫かな?」



「飼い猫との旅なんて羨ましい。俺も欲しい」



「あんなに綺麗な猫がいたら、商人に目をつけられそうだよな」



 などと、聞こえてくる。

 不安になる内容ばかりで、ギンの足元に張り付けば、ギンは僕を踏まないように避けてしまう。 

 そこで僕がとった行動は、ギンの両足の間に挟まり、ギンの足に合わせて動く事だ。



「ユト、踏んでしまうぞ」

 


「ニッ(だって、みんな怖い)」



「仕方ないだろう。ユトは綺麗だからな」



「ニャー?(僕が人になったら怖くない?)」



 僕が人になるという事は、貞操を狙われる可能性があるという事だ。

 しかし商人に捕まり、ペットとして主以外の者に飼われるよりはいいと思った。

 だが、ギンは首を横に振り、僕を抱える。



「駄目だ。更に価値が上がって目をつけられる。下手したら貴族の奴隷だ」



「ニッ!」



 奴隷なんて無理!怖いよ、この世界。

 どうなってるんだ。

 


《もしくは神の血をひく者を産むために、王族に囲われる可能性がある。見る者が見れば、神獣だとひと目で分かるだろうからな》



 周囲に聞かれないよう、わざわざ念話をしてくるギン。

 そこから分かる通り、僕はかなり危険な立場なのだろう。

 主から貰った魔力があっても、まだ魔法は使えない。

 戦う手段が猫パンチと咬みつきだけでは、非常に心許ないのだ。





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