第2話 主公認
なんとかして冒険に出たいと思っていた僕は、誰かがいるのなら家出してもいいのだと思い込み、下界にいる眷属は駄目なのかと訊いてみた。
実は神々には眷属という聖獣がいる。
創造神でる主の眷属が他の神々であり、神々には下界を監視する為の眷属である聖獣がいるのだ。
幸い、主の眷属である神々には会ったことがないため、ただの猫である僕を創造神が可愛がっているなどとは誰も知らない。
ただの猫にデレデレで、私的欲求を満たす為に僕を異世界から連れてきたなどと知られれば、創造神の残念な部分が露わになる。
それは創造神の威厳に関わることなのだろう。
しかし、聖獣にちょろっとお願いしたらどうだろうか。
きっと、聖獣達は主の主……創造神の残念な部分を、自分の主の為に隠してくれるだろう。
そうなれば、主も家出を許してくれるはずなのだ。
「にゃーん(主、家出したい)」
「待って。可愛く家出したいなんて言われても、内容が全然可愛くない」
「シャー!(家出したい!)」
「怒っても内容が変わらない事に驚きだよ!」
急な大きい声にびっくりした僕は、咄嗟に主から離れて庭にある木の上まで避難した。
すると、主はまずいといった様子で口を手で塞ぎ、ゆっくりと庭まで出てきて口を開く。
「ユト、そんなに下界に行きたいのかい?」
「ニャ(うん)」
「そう……なら、私に口づけて」
主……そこまでして僕を行かせたくないの?でも、キスするだけで行けるなら僕はするよ。
僕が地面に下りると、主が手を広げてしゃがんだため、少し警戒しながらも、主の肩に乗って唇を重ねた。
すると突然、僕の体が人の姿になり、主は僕を抱きしめながら深い口づけをしてきたのだ。
「可愛い!私の可愛いユト。白髪も赤い瞳も似合ってる。耳と尻尾のついたユトが……これは可愛すぎるね」
「ニッ!主離して」
「喋るユトも可愛いね。でも、これはユトにとって大切な事だよ。魔力がなければ、下界では生きていけないからね。私の魔力を与えるにも、口づけか交わりが一番早い」
うっ……それなら仕方ない。
主とのキスなんて、ペットと飼い主が仲良くしてるにすぎないし、早く行きたい。
「……抱いていい?」
「駄目」
「だよね……まあ、仕方ないか。魔力がある限りは、この姿と猫の姿を自由に切り替えられるからね」
「ありがとう!でも、猫の方が恋愛対象にならないから、僕は猫の姿でいる。それに、主は猫の僕が好きでしょ?」
家出を許可してくれるなら、主が望んだ猫の姿になるよ。
僕は冒険がしたいだけだし、顔も前世と変わらないなら猫の方がいい。
「どちらのユトも好きだよ。ただ、ユトは可愛くて狙われるだろうから、猫の姿でいてくれた方が助かるかな」
主は僕を好きすぎるため、その意見は信用できないが、狙われる可能性が少しでもあるのなら、猫の姿でいようと思った。
なにより、猫の姿での日光浴は心地良く、昼寝にもぴったりなのだ。
そこで、僕はすぐに猫の姿に戻り、主の顔を踏みつけて家の中へと入った。
家の中に入れば、念入りに爪研ぎをする。
これからの冒険に向けての準備だ。
僕が準備をしている間、主は聖獣選びをしている。
僕を任せる聖獣は慎重に選びたいようで、珍しく僕の爪研ぎを眺めていない。
それから暫くして、僕が昼寝から目を覚ますと、僕のお腹をスーハーしている主の姿があった。
いつもの猫吸いだが、今日の主はいつにも増して変態的だ。
「ユト、ユト……行かないで」
主は寂しいのかな。
僕も寂しいけど、それ以上に主のつくった世界を見てみたいんだ。
だから許してほしい。
それに、僕はずっと主と離れるわけじゃなくて、あくまで家出だ。
「あー……このまま無理やり抱いて逃げられなくしようか。いや、首輪をつけて閉じ込めてもいいな。ユトが可愛すぎるのがいけない。ユトが私から離れるのがいけない。ユトが他に目を向けるのが――」
また始まった。
そう思いながら、僕は寝たふりをする。
主は僕が寝ている間に、病んでしまう事が多い。
僕には隠しているようだが、主の愛は激重だ。
僕を抱きたいというのも本心なのだろう。
しかし、主は一度も僕の気持ちを確認してこないのだ。
それどころか、愛を囁かれた事もない。
可愛いと愛でたり、軽く好きだとは言われても、僕にヤンデレを見せてくれるわけでもなければ、重い愛を伝えようともしない。
僕自身、実際に面と向かって告白されれば、おそらく逃げてしまうだろう。
だから、不満はあってもこれでいいのだ。
「――……ふう、大丈夫。ユトを見てればいいだけだ」
監視発言されたけど……うん、まあそれでいいよ。
今日はヤンデレモードが長かったね。
大丈夫だよ、主。
主が落ち着いたところで僕は目を開け、大きな欠伸と伸びをする。
「おはよう、ユト。気持ち良さそうに寝てたね」
この切り替えの早さである。
まるで別人のように、主は綺麗な笑顔を僕に向けてくる。
「にゃー(たくさん寝た)」
「そうだね。ユトが寝ている間に、聖獣には伝えておいたよ。神獣を送るから、くれぐれもよろしくとね」
「にゃーん!(ありがとう!)」
「ユトに危険はないと思うけど、それでも気をつけてね。それと、行くからには楽しんでくる事」
この流れは今すぐに行く流れではないかと思い、夜でも大丈夫なのかと訊いてみれば、夜の方が都合が良いのだと言う。
まず、僕が夜行性である事。
それから、夜の神である
夜は寝静まっているため、行動を起こしやすい事。
などなど、さまざまな条件があるため、今行っても大丈夫なようだ。
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