第16話 馬小屋での調べ物

ルールグアの森から街へと戻るともう少しで陽が落ちそうな時間になっていた。

露店で軽くご飯を食べて馬小屋に戻る。

すると貸主がいたので丁度良いと思い、また十五日分の賃料の支払いを済ませた。

そうして賃貸する日にちを延長してから挨拶をして別れる。

屋根と壁だけの寝心地が良いとは言えない馬小屋へと入り夜の定位置である藁のベッドに身を任せた。


住めば都とはよくいったものだ。

こんな所でも落ち着けてしまうのだから人間はすごい。僕は意外と順応能力高かったのかもしれないね。


鞄は重かったので直ぐ下ろした。

魔獣二十匹分の貨幣は重過ぎる。

肩がおかしくなるよ。

明日からはセキュリティーなんてないこの場所に銅貨だけ置いていくことになるかもしれない。

本当にどこかで両替できないものだろうか?


貨幣を数えるとあと少しで千枚超えそうだった。たぶん五キロぐらいある。

重いはずた。特に銅貨の数は八百枚近くあった。これを持っての移動は厳しいかも。


これはまた後から考えよう。

貨幣を鞄に戻して僕は手に入れた卵と仮面について調べることにした。


【玩具召喚】


そこで卵と仮面の名前を決めてないことを思い出した。名前を決めなければ一つに絞って召喚はできない。スキルを止めることは出来ず、僕の手のひらの上には五つの小さなオモチャが召喚された。


「しまった」


受け取るのに失敗してそのうちの一つが地面に落ちてしまう。

それは召喚しようとは思っていなかったゆで卵だった。


「あっ」


ゆで卵が入れ物ごと落ちる。

すると玩具は大きくなり実物化した。

ここが馬小屋で良かったのかもしれない。

大きな卵は藁の上に落下した。


「・・・なんで殻が割れてないんだ?」


僕は卵を注視して奇妙な事実に気がついた。


大きくなった卵を見てみると新品のようになっていたのだ。

なんで?

昼過ぎに僕は卵の殻を割って白身を食べたはずなのにその痕がない。


もしかして【玩具修理】のスキル?


僕は新品となった卵を見てそれを思い浮かべた。ロウィンの破れた服などが直ったのでもしかしたらと思ったのだ。


これも【玩具修理】で直ったのか?

なら全て食べても復元される?

食べ物の玩具も修理の対象なのか?

次々に疑問が浮かんだ。


僕は卵の玩具をハズレだと思ったが、修理が出来るのならば話が変わってくる。

食べても食べてもなくならない食べ物。

これは単純に考えても凄いものだ。

ゆで卵だけでは生きてはいけないが他にも食べ物の玩具があるなら食事には困らないことになる。これは生きていく上でかなり大きい。


衣食住。

この中の一つが玩具によって埋められるという意味を持つ。もしそうならゆで卵はハズレではないことになる。

なにせ無限に食べられるゆで卵だ。


これは確証を得るための実験が必要だね。


念のためにもう一度、卵を割って確かめてみよう。これで明日の朝に直っていたら僕の仮説が正しいことを証明できる。

ゆで卵以外にもこういう玩具があるのならばこちらの世界でも元の世界の食べ物が楽しめるかもしれない。

僕は期待で胸を膨らませた。


この卵は無限卵と名付けよう。

まだ、そうかもしれない。と注釈が付くことになるけどね。


「【玩具送還】無限卵」


僕が言葉にするとゆで卵は姿を消した。

明日の楽しみが増えたな。


「で、本命はっと」


僕は調べようとしていた仮面を地面に置く。

仮面は大きくなり実体化した。

他のものは送還だな。


【玩具送還】


三つのオモチャを送還して馬小屋にあるのは仮面一つになった。

僕はこれがどんなものなのか知りたかったんだ。ルールグアの森の近くで使用した時には体が女の子に変わった。

この仮面は本当に僕を男の性別から女の子に変えるものなのだろうか?


僕は仮面についての知識を得るためにもう一度被ることにした。


「うわっと」


仮面を被ると顔から喉、胸へと白い膜が体を伝ってそれが瞬く間に全身を覆った。

僕の姿が変わる。

やはり体は女の子のものに変化した。

身長に変化はない、目線の高さが変わっていないからわかる。

顔の美醜はわからない。

ここには鏡がないからね。

体の動きはどうだろうか?

手を上げたり体を捻ったりする。

腕を回して足を上げる。

うん、問題なく動ける。

いや問題はある。

体が女の子になったという大きな問題があった。


「なにこれ?」


視界に邪魔なものが入ったので触るとそれは髪だった。

髪まで長くなっているみたいだ。

触り心地はよい。

自分の髪なのに数秒じっくりと触ってしまった。自分が少し気持ち悪い。


本当なら大きな鏡でも用意して細かく見てみたいが、ここにはない。

だから僕は次に体を直接触ってみることにした。


手、腕、脇、腹、太もも、ふくらはぎ、足の先。


「一応触るか」


そして胸に手を置いた。

うん、柔らかい。


「・・・僕は一体何をやっているんだろう」


少し罪悪感を覚え、そのあと呆れを混ぜた感情に僕は襲われた

股の部分も軽く触ると、何もなかった。

最初からそこには何もないようだった。

うん、ついてない。


やはりこの仮面は僕の体を女の子に変えるもので間違いないようだ。


変身できる仮面か、これは色々な部分で役に立ちそうだ。

別人になれるということだからね。

TS仮面とでも名付けるか。


「・・・そうだ」


僕は鞄を見て大量の銅貨について思い出し、この姿なら両替できるかもしれないと考えた。


僕が両替するのは問題だけど、知らない女の子なら大丈夫だ。

もしも怪しまれても本来の僕の姿に戻れば見つかることもない。


鞄が重過ぎて銅貨を馬小屋に置いて行こうかとも思ったが、それだと流石に不用心過ぎるもんね。解決法が見つかって良かった。


あとはこの姿でいられる時間がどのくらいなのかって話になるけど・・・。


今日はこのまま寝てみようかな。

武蔵と同じなら数日はこの状態を保てるはずだ。僕はそれを確かめるために女の子の姿のままで眠りにつくことにした。

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