第15話 機能追加
身支度を済ませて馬小屋を出る。
顔馴染みになった露店で朝食を買ってからそのまま町の外に出た。
依頼は受けなかった。
いつもの繰り返しをまず一つだけやめてみた。ほんの少しの日常への反抗だ。
僕は街道を使い森へと向かった。
「【玩具召喚】武蔵」
スキルを使い武蔵を召喚しておく。
街道は安全だけど一応ね。
依頼を受けていないので今日はやらなくてはいけないことがない・・・それだけで若干解放された気持ちになり、気分が高揚していた。
やっぱりたまの休息が平穏な心を保つには必須なのかもしれない。難しいことを何も考えずに空を眺めたりしながらのんびりと歩いた。
ルールグアの森に着くとおそらく冒険者の二人組のパーティーがこちらに向かって歩いてきた。
「おはようございます」
こちらの顔を知っている可能性もあるので無視することは出来なかった。
僕は緊張しながら挨拶してみた。
「お前もここで狩りか?」
「はい、お二人もですか?」
「おう、そうだが・・・お前、何の装備もしてないけど大丈夫か?森を舐めると魔獣にやられるぞ?」
「僕にはこの子がいるので、大丈夫だとは思うんですが、そうですね、お金が貯まったら検討してみます」
武蔵を前面に出して誤魔化した。
それにしても装備か、普段そんなものをつけるという発想がないから気が付かなかった。
確かに冒険者ギルドではみんな革鎧みたいなものを着ていたな。
目立たないためにはそういうものも必要なのか・・・。
「それが護衛か?少し変わった牛だな。でもそいつで魔獣を何とか出来るのか?」
「ええ、森の奥まで入るわけではないので
「お前がそう言うなら俺も無理にとは言わないが、魔獣が出たら逃げるんだぞ。森じゃ助けも呼べないだろうしな。冒険者は自己責任だとは言われているが、だからと言って見捨ていいってことにはならないと思って声をかけさせてもらったんだ。余計なお世話かもしれないが・・・」
「いいえ、忠告感謝します」
「ああ、じゃあ気をつけてくれよ」
「はい、ありがとうございました」
初めての冒険者との会話は上手くいった。
武器を持ち鎧を装備していているので威圧感があるが話してみるといい人達だった。
しかし装備か・・・。
購入したらまた出費が嵩むな。
どこかで安く手に入らないものだろうか?
違う違う、今日はそういうことを考えない日だった。さっさと魔獣を狩っていこう。
【玩具召喚】
僕は冒険者が去って他に誰もいないのを確認してからロウィンとレッドシザーを同時に出して地面に置いた。
「じゃあ魔獣討伐を始めますか、頼むよ。武蔵、ロウィン」
僕は玩具達に囲まれながらレベルを上げるために森へと入っていった。
それからは緊張感がある魔獣との戦いが続いた。探索して魔獣を発見し、武蔵とロウィンに任せて魔獣を討伐する。魔獣から変化した貨幣を拾って鞄に入れている間は守ってもらう。それからまた探索に戻る。
これを何度もお昼まで行った。
「これで何匹目だろう・・・二十は超えたかな?」
昼を過ぎた後に頭の中で数えてみる。
全部で二十三匹。多いな。
今回は採取がメインではなく魔獣討伐に主軸をおいているので静かに隠れて見つからない様にではなく、こちらから積極的に魔獣を探したので多くの敵と遭遇した。
十匹をなんとなくの目安にしていたのでそれから考えると大幅に目標を達成している。
他の冒険者には会わなかった。
運が良かったのかもな。
町の冒険者はここにはあまり来ないのだろうか?もしかしたらもっと良い狩場があるのかもしれない。冒険者ギルドで冒険者のススメを見て確認してみるか。
それにしても背中が重くなってきた。
肩に食い込んだ紐の部分が痛い。
これは今日手に入れた貨幣のせいだ。
流石に二十匹超えとなると変換される貨幣の量も多い。本来は嬉しいことなのだが、今はこの背嚢を置いて行きたいぐらいの気持ちだった。
僕は森から出て少し休憩をすることにした。
魔獣は二十三匹討伐した。
さぁ、果たしてレベルは上がっているだろうか?
武蔵とロウィンに見張りをお願いして僕はステータス画面を開いた。
《 名 前 》 シュウ・ユヅメ
《 年 齢 》 19
《 種 族 》 人間種
《 レベル 》 5
《 スキル 》 言語
玩具購入2
玩具修理0
玩具召喚3
(機能追加1)
ステータスをチェックする。
上から順番に目を通して行く。
レベルは3から5に上がっていた。
良し。僕はガッツポーズをとり喜んだ。
二十匹以上の魔獣を討伐したんだから当たり前だよね。
思った通り【玩具購入】も0から2に変わっているが、画面上ではもう一つ気になることが起きていた。
それはステータス画面の一番下部に機能追加1という表示が増えていたことだ。
「これなにかな?」
僕はそれが気になって画面をタップしてみた。すると画面が切り替わる。
【玩具購入】【玩具修理】【玩具召喚】
どれか一つを選んで下さい。
機能追加が可能です。
そう表示された。
今日はガチャを引くために頑張ったのだが、別のサプライズが用意されていたようだった。
機能追加ということはおそらく玩具購入、玩具修理、玩具召喚の一つをアップグレードしてくれるということなのだろう。
きっかけは十中八九、魔獣を倒し僕自身がレベルアップを果たしたことだ。
これしか変化がないのだからそうとしか考えられない。
「で、どれを選べばいいのかな?」
これが問題だった。
説明がないのでどれを選んだらいいのかわからない。
どうにか調べる方法はないのだろうか?と考えていると、それにステータス画面が反応した。
【玩具購入】十連ガチャ機能の導入。
【玩具修理】玩具改造機能の導入。
【玩具召喚】接触不要機能の導入。
僕の意思を反映して、どんな機能が追加されるのかを見せてくれるとは優秀な能力である。
さらに詳細を見てみた。
【玩具購入】を選べばガチャを十回連続で回した後にもう一つガチャが増えて十一個のカプセルが出てくる機能が追加されるようだ。
【玩具修理】を選べば玩具を改造できるようになるようだ。改造内容は表面的なものではなく、僕が求めていた魔獣を貨幣に変換する能力のオンオフの切り替えが可能になるというものだった。
これを選択すれば魔獣を討伐した際にそのまま魔獣の体を残せるということだろう。
【玩具召喚】は送還する際に体に触れずとも魔獣を返すことが出来るようになるというものだった。これがあればいざという時に玩具を送還して魔獣の攻撃を避けることが可能になるはずだ。
この三つからなら今は一択だ。
僕は真ん中の【玩具修理】の玩具改造機能を導入した。
これは僕が以前から欲しかったもので、これにより僕は表立ってお金を稼ぐことができるようになる。
何処からか現れた貨幣ではなく冒険者ギルドで討伐依頼を受けより高い報酬をもらえるのだ。
レベル上げをして良かった。
僕は心の底からそう思った。
まさかこんなサプライズされているとはね。
もしかしたらこの機能追加はこちらの意思を反映したものが機能として用意してくれるのかもしれない。と僕は思った。
なぜなら玩具改造機能だけ現在の僕の都合を
他の十連ガチャ機能や接触不要機能はアップグレードに近いものが用意されていたが、玩具改造機能だけは種類が違うように思えた。
次に機能追加出来るようになるまでに色々と増えてほしい機能を考えたらまたそれに沿ったものを用意してくれるかもしれない。
心の隅でサンタに願うように欲しいものを考えておこう。
僕はテンションを上げて玩具改造機能を使ってみた。
貨幣変換をオフにするにはオモチャに接触する必要があったので武蔵とロウィンに触れて使用した。
表面的な変わりはない、でも変わった気はする。
これで魔獣を討伐すればわかるだろう。
討伐依頼を受けてないから今日はやらないけどね。
僕はまた貨幣変換オン状態にしておいた。
今はこの方が良いだろう。
検証はまた明日か明後日にすればよい。
ここからは本来の目的【玩具購入】の出番である。機能追加で薄れた感はあるがメインはあくまでこっちだ。
【玩具購入】
僕のスキルを使用し、ガチャの筐体を出した。ハンドルを動かし回す。
「何が出るかな?」
ハンドルは抵抗なくスムーズに回転した。
出口から吐き出されたカプセルを捻って開封する。
「?」
中身はゆで卵だった。
器にゆで卵が一個乗っていた。
食べ物も出てくるの?
まさか動き出すのだろうか?
僕は地面にゆで卵をそっと置く。
するとそこには片手でぎりぎり持てるぐらいのゆで卵が大きな器に乗って召喚された。
「ダチョウの卵かな?」
鶏の卵には見えない。
昔、映像で見たダチョウの卵を僕は思い出した。
僕は殻をツンツンと指で突いてみる。
触れる熱かった、しかし反応はない。
「動いてみて」
指示を出してみるが、何も起こらなかった。それは大きすぎる以外はただの茹でられた卵にしか見えなかった。
食べてみるか?
元々玩具なのに食べることは出来るのだろうか?
好奇心は止まらない
【玩具修理】もあるし壊しても大丈夫だろうと考え、僕は殻を叩いてみた。
「痛い・・・」
涙が出るぐらい痛かった。
拳じゃ無理そうだ。
「ロウィン、鋏貸して」
「グシィィ」
「ありがと」
ロウィンからレッドシザーを貸してもらって僕は卵を割ってみた。
殻は割れて中の白身が見えた。
お昼時なので涎が出た。
本当に食べて大丈夫かな?
「いくぞ」
僕は大きな卵の白身の部分に噛み付いた。
うん、普通の卵だ。
必要以上不味くもなく美味しくもない。
普通の茹で卵の味がした。
これは食べられるやつだな。
水も塩もないので上の白身の部分だけを頂いた。黄身の部分は後から頂こう。
ガチャはこういう食べ物も入っているのか・・・これはたぶんハズレだ。
まさか使い切りの卵を引き当ててしまうとはな。大きな卵が一個。
僕は卵を送還してあと一回のガチャを引くことにした。
【玩具購入】
僕は今日二度目のガチャを回した。
再びカプセルを開く。
出てきたのは白一色の何も描かれていない仮面だった。
地面に置くと仮面は大きくなり僕の顔にピッタリつけられそうなサイズになった。
これは付けてみるしかないでしょ。
僕は仮面を手に取り、顔にはめてみる。
すると仮面に変化が起きた。
仮面が頭全体を囲むように伸びていってそのまま首、胸、そして足先まで到達して僕の体をすっぽり覆ってしまった。
視界は見えたままなのが不思議だった。
一瞬のことだったので呆気に取られて抵抗もできなかった。
体の上に薄皮一枚でピッタリと吸着した伸びた仮面が張り付いているようだった。
動いてみると問題なく動ける。
見えない全身タイツを着ているようなものかもしれない。
「え?嘘?」
僕は体を触ってみると変化が起きているのに気がついた。
胸の部分に柔らかいものがあった。
これは女性特有のものだった。
目線を下に向ける。
「なんで女の子になってるの?」
付いてる筈のものも付いてなかった。
しかも裸だった。
ここ外だよっ!?
仮面は僕を女の子にした。
自分でも何を言っているのかわからなかった。
これはいけない。
僕は取り乱し、右往左往しながらなんとか仮面を取り外した。これは危険なものだ。
取り扱いには注意しないといけない。
外で調べられるようなものではなさそうなので一先ず送還した。
ガチャは引き終わった。
動く仲間は増えてない。
ゆで卵と女の子に変身する仮面が手に入った。
あまりいい結果ではなかったが機能追加と合わせたら上々とも言える。
少なくともマンネリとした日々ではなかった。今日は楽しかった。
僕はそう感じて満足しながら町へと戻った。
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