第14話 色褪せた

「飽きたなぁ」


馬小屋、早朝。

目覚める時間だ。

しかし僕は起きるのも億劫になっていた。

あれから十日間、最底辺ではあるが衣食住が整い、僕は毎日同じ場所を歩いて毎日同じ食事を食べる。

そんな生活をして、それに飽いていた。


朝に起きて露店でお馴染みの一番安い肉パンを購入する。それから冒険者ギルドに行き依頼を受注し村へと荷運びをする。

帰ってきてからツヅネから水を購入して体を洗う。洗濯物が溜まったら外で洗濯をする。

陽が落ちる前に夕食を食べて馬小屋で寝る。

これを十日繰り返した。


娯楽があればそれも楽しめたがこちらにはそれがない。

いや、あるのだろうがお金を使わず簡単に楽しめる娯楽がない。

特に陽が沈めば何も出来なくなる。

友達でも作れればとも思ったが僕が接触しているのは、冒険者に受付嬢、町兵に露店の店主などだ。

冒険者は怖いし、他の人達はあくまで仕事人と客の立場なので挨拶程度で長々は話せない。


邪魔になるからね。


唯一ツヅネとはそれなりに話すが、常に忙しそうなので遊びに誘ったりは出来そうにもなかった。


僕も依頼を毎日こなして疲れているという事情もある。五時間ほど歩いているだけでそこまで疲労しそうにもないが、そこが魔獣の出る場所だと考えると理解してもらえるかもしれない。


武蔵やロウィンが守ってくれてはいるが、完全に安全というわけではないので、常に警戒をしている状態でいないといけない。

熊の出る山中で案内人に付いて行きながら歩いているのを想像してほしい。

安全だとは思ってはいるが、完全な心の平穏とは程遠いのがわかると思う。


あれから魔獣とは遭遇していない。

荷運びの依頼は街道を行くので採取依頼と違い、ほとんど魔獣が出現しない。


魔獣と出会って討伐した方が実質的な利益は多いが、お金を表立って使えないのなら意味はない。使えない貨幣が溜まっていくだけになってしまう。

だから採取依頼よりも報酬が高い荷運びの依頼を優先して受けた。

おかげで依頼報酬で銀貨二枚は確保できた。


依頼も同じ。

お金が使えないので食べるものも同じ。

友人もいない。

海外旅行に行って言葉もわからずお金がなくて観光地にも行けない。

テレビでは何を話しているのかもわからないので娯楽もなく一人でホテルで引きこもっているようだ。

それにここにはネットもないからね。


そういう様々な事情が重なって僕は色褪せた日常を過ごしていた。


「このままじゃ精神的に病みそう」


何かを変えないといけないと僕は思った。


目を瞑って少し考えてみた。


僕が同じ毎日を送っているのは、長期的な計画にのっとって生活しているからだ。

目立たないように借金を返して、この町を出てからお金を使う。

それに準じて過ごしてきたが、これにはあと最低五日以上掛かる。

このままだと精神的におかしくなりそうなので、娯楽が欲しい。


それがあれば生活のリズムもかわり、少しは違ったものが見えてくるはずだ。

あくまで計画を崩さずに娯楽を楽しむ。

その娯楽が今の僕にとって利益のあるもので息抜きを兼ねていたら最高だ。


やっぱりレベル上げかな。と僕は思った。

お金を使えないし、遊び相手もいないので町では楽しめそうにもなかった。

なら他で楽しみを見つけるしかない。

魔獣討伐は怖いし楽しくはないが、レベルが上がるのもお金が稼げるのは良い。

それになんといってもレベルが上がるとガチャを引ける。これは娯楽といっていいだろう。


これからは採取依頼を受けて、時々森で魔獣を狩る。そしてガチャを引いて楽しむ。

玩具が増えれば生活に変化も起こるよね?

これからはレベルアップの目標を立てて行動し、達成できれば充実感も得られるだろう。


よし、そうしよう。


病は気からともいう。


色褪せた日常に少しは色が戻って体に力が戻った気がした。


今日からレベル上げを頑張っていこう。

そんな目標を立てて僕は馬小屋で起床した。

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