第12話 綺麗にしよう

町に到着するまであと一時間ぐらいの地点。

戻ったら水を買わないとな、と考えながら僕は武蔵やロウィンに何の気なしに見た。


そして自分達が水売りを探して大通りを歩いているところを想像して、この一行にどういう目が向けられるか考えてみた。


「これは流石に目立ちすぎるかも」


出した答えは、このまま町に入るのは否というものだった。


目立ちたがり屋ならば大手を振ってこのまま帰ればいいが、僕はそうじゃない。


魔獣を玩具達が倒して得られたお金を使えば宿にだって泊まれるのに、注目されるのをを嫌ってこれから一ヶ月もの間馬小屋で暮らすつもりなのだ。


それがこんな風に視線を集める集団で行動していたら意味をなさなくなってしまう。


武蔵はまだ良い。

もう冒険者ギルドで見せてしまっているし、どうしようもない。

でもロウィンはちょっと派手だし不気味だ。

赤い燕尾服に赤い鋏。

どう考えても注目の的である。

僕は見慣れてしまったが、初対面ならギョッとするだろう。小さい子なら泣いちゃうかもしれない。

・・・どうにかしないと。


僕は一度立ち止まって考え始めた。


「武蔵やロウィンを透明にするとか?」


いやそんな方法は知らない。


「町の外に待機させておく?」


それはそれで不安だし、僕が近くにいない時に攻撃でもされて壊されても嫌だ。

反撃して誰かを傷つけることになるかもしれない・・・うーん。


「流石に出しっ放しを想定しているわけないよな」


これは超存在に与えられた【玩具召喚】というスキル。

召喚というなら玩具を送り返す方法があるかもしれない。


「それをどうやるのか?っていうのが知りたいんだけど」


武蔵は召喚してから外に居続けているからね。そんなこと試してなかったから方法がわからない。


色々やってみようか。


「ロウィン、ちょっと鋏貸してくれる?」

「グシィイ」


僕はロウィンに頼んで鋏を渡してもらい、レッドシザーを送り返せないか試してみる。


「元に戻れ!」

「姿を消せ!」

「あるべき場所に帰れ!」


レッドシザーを掲げて僕は玩具召喚する時と同じように叫んだ。しかし鋏はまだ手元にある。


「モォー」

「グシィィ」


僕を見て武蔵が鳴きロウィンが唸った。

これは応援してくれているのかな?

「ありがとう、がんばるよ」

武蔵とロウィンのそれを応援だと思い込んで、僕はそれから何度も鋏を元の場所に戻そうと試行錯誤した。


そうして送り返すには玩具に触れた状態で「玩具送還」と唱えるのが正解だとわかった。正解を導き出すまでの時間は一時間以上経過していたと思う。


レッドシザーに続いてロウィンを送った後にステータス画面を確認したら【玩具召喚】ではなく【玩具修理】の横に数字の1と書かれていた。

その数字をタップすると修理するのに必要な時間が確認することが出来た。修理には時間が掛かるようで、修理完了までは三時間と書かれていた。


やっぱり白尾猪ボホアに腹を貫かれて傷を負っていたんだなぁと僕は思った。




ロウィンと鋏を送還して武蔵に守ってもらいながら町へと近づいた。

武蔵も町に着く寸前に誰にも見られていない場所で送還した。


「じゃあ、まず冒険者ギルドに報告に行ってそれから水を入れるものを買って、ツヅネに会いに行こう」


僕は途中でいつものお店に寄り食事を済ます。

何も食べていなかったので、一気に胃に詰め込むように食べた。


今日も相当歩いた。

この世界に来るまでのことを考えたらかなりの運動量だったので、一個の肉を挟んだパン、通称肉パン(僕がそう呼んでいるだけ)だけでは足りなかった。


報告を終えた後でもう一つ買って食べながら冒険者ギルドに到着し、採取物を提出するカウンターへと移動しカツポンの根を鞄から出した。


「カッポンの根、五本だね」

「お願いします」


提出カウンターで依頼書に受領印を押してもらい、受付カウンターに並んで依頼完了と受付嬢のお姉さんに伝え報酬をもらった。


ついでに水を入れるものが売ってる場所を聞こう。対応してくれたお姉さんは朝に僕が臭いと注意してくれた人だった。


・・・気まずい。


「すみません。水売りの子に水を売ってもらおうとしたんですけど、容器が必要みたいでこの辺りでそういうものを購入出来る場所ってありますか?」

「冒険者ギルドでご購入いただけます」

え?じゃああの時に言ってくれたら良かったのに、と僕は思いながら見ていると、それを感じ取ったのか受付嬢は言葉を続ける。

「それを伝えようと思ったのですが、先程は突然出て行かれて、戻ってきた時もお急ぎのご様子だったので」

と言ってきた。

確かにあの時は恥ずかしさのあまり逃げ出して、依頼だけを受けて逃げるように街を出たな。

僕のせいか。

「じゃあ、買います。一つ下さい」

「タオルや服や下着はどうなさいますか?」ここでそんなのも買えるの?

それも最初に教えて欲しかった。


「お願いします」

「承りました。ではご用意します」


僕は冒険者ギルドで水を入れる容器と着替えのセットを購入した。

街を巡り探し回らなくて済んだのは良かった。これで体が洗えるぞ。

次はツヅネに会いに行こう。

僕は冒険者ギルドを後にした。

 



「水、いかがっすか〜?」


冒険者ギルドを出て大通りに出る。

もう一つ肉パンを買って飲み込むように食べてから朝にツヅネがいた場所に着くとちゃんとそこに彼女がいた。


「ツヅネ、水を売ってもらえる?」

「遅かったすね、冷やかしかと思ってたっす」

「冒険者ギルドの依頼を終えてから来たんだよ」

「それはお疲れ様っす。シュウは冒険者だったんすね」

「なりたてだけどね」

「私もそうっすよ、一応五級っす」


ツヅネは僕に見せつけるように冒険者登録証を取り出した。

確認できるのは名前だけだったので、情報を見られないようにちゃんと隠しているみたいだった。


「先輩なんだ」

「敬うがいいっす」

「ははぁ」

「冒険者ならなんで水売りをやってるの?」

「簡単っすよ。こっちの方が楽だしお金になるからっす」

「なるほど」

「そもそも冒険者になったのはレベルを上げてスキルを使いやすくするためだったっす」


僕の玩具購入の回数が増えるように、水を出す回数や量が増えるのかもしれない。


「じゃあこっちが本業ってことか」

「そうっす。今は依頼を受けなくても食べていけるようになったっす」


依頼は危険なこともある。

町にずっといてお金が稼げるならそちらの方が良いのかもしれない。

僕には武蔵やロウィンがいるから今のところはそんなに危険な目にあっていないし大丈夫だけどね。


「じゃあもう依頼は受けないんだ」

「たまには受けるっすよ」

「なんで?稼げてるんでしょ?」

「もっとレベルを上げるためと、後はしばらく依頼をしないと冒険者登録証の有効期限が切れるっすから」

「これって有効期限があるの?」

「たしか六級は100日だったすよ」

そんな事は聞いてない。

まぁ、借金を返すためにどちらにせよ冒険者ギルドに行かないなんて事はないから、借金を返し終わったら教えてくれたのかもしれないけど、説明不足じゃないかな?


「五級だと日にちはどうなるの?同じ?」

「級が上がるごとに100日ずつ増えていくって聞いたっすよ」


なるほど。

五級は200日、四級なら300日という感じで増えていくのか。


「勉強になったよ、ありがとう」

「いいっすよ、後輩くん。それで水を買うっすか?」


話し込んで忘れていた。

そうだ、ここには水を買いに来たんだ。


「うん、お願い」

「銅貨2枚になるっす」

「はい」


僕はツヅネに銅貨を渡して水を購入した。


ツヅネと別れて、馬小屋に戻った。

この場所も臭いが僕の身体よりはマシだ。


僕は近くに水を浴びられる場所がないか?と馬小屋の主人に尋ねたら、見えない場所で適当にやれと言われてしまったので、隠れて水を浴びた。


水にタオルを浸けて絞り体を拭いていく。

完璧とは程遠いがそれなりに汚れは落ちて、生まれ変わったような気分になった。

容器の中の少し汚れた水に頭をつけて濯ぐ、直ぐに水は色を変えて汚くなった。


僕はその汚水を人がいない場所に流してタオルで頭をしっかり拭いてから、水浴びを終えた。

そのあとちゃんと着替えて身も心も綺麗にした。

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