第11話 藁人形、戦う

採取依頼を達成したら直ぐに水浴びに行こう。町からルールグアの森へと向かっていた時はそう考えていたが【玩具購入】で新しい玩具達を手に入れてしまったからには試さないわけにはいかない。


好奇心が止まらないのだよ。


陽が沈むまではまだ時間的にも余裕がある。

是非とも人形と鋏の力を僕に見せてもらいたいものだ。


「武蔵は僕を守って、人形。うーん、その前に名前が必要か・・・」


呼ぶ時や指示を出すときにどうしても名前があった方が便利だ。

牛のことは武蔵と呼んでいるし、人形にも名前をつけた方が色々やりやすい。

魔獣と一戦を交える前に名前を付けるか。

ついでに鋏にもね。

そっちの方が愛着が湧くし、これからも新しい玩具を手に入れたら名付けをしていこう。


「人形の方は、藁、ワラ人形、これは呪われそうなので却下。ハロウィンの仮装っぽい見た目・・・よし、ロウィンにしよう。鋏は赤いからレッドシザーで」

まんまだけど名前は分かり易さも重要だよね。


「じゃあ、改めて!武蔵は僕のガード。ロウィンは魔獣の索敵!見つけ次第レッドシザーで殲滅だ。ロウィンが無理そうなら武蔵が助けてあげてね」


いくぞ!と言うと、ロウィンは指示に従い僕らの前方に出て魔獣を探し始めた。


お手並み拝見。


僕はロウィンがどういう戦いをするのか楽しみになってきた。


ルールグアの森の入り口で僕らは魔獣を探す。

こういう時はいざ探すと目的のモノが見つからなかったりするのがお決まりなのだが、魔獣に関してはそれは当てはまらなかった。


「グシィィィ」


ロウィンは何かを見つけて戦闘体勢に入った。レッドシザーの柄部分を広げて刃を開く。いつでも敵を切り裂けるようにだ。


ロウィンが鋏を大きく開く姿は自分の玩具でなければ冷や汗もの光景だった。

身長が僕より三十センチ以上高い藁の人形が仕立ての良さそうな燕尾服を身に纏い子供より大きな鋏を構えている姿を想像して欲しい。


ね?怖いでしょ?


敵を切り裂く準備を完了したロウィンの前に現れたのは僕よりも大きな魔獣だった。

牙は二つ、体長は推定1.8メートル。

僕よりも大きい。

黒い体毛の体に特徴的な白い尻尾を生やした猪の化け物だ。


「ひぇ」


僕の口から情けない声が出る。

これまで出会った中で一番大きな魔獣。

体が自然と震えてきた。


「モォー」


そんな僕の様子に気にしてくれたのかはわからないが武蔵が隣で防御体勢をとりながら鳴き声を上げた。

僕には守ってくれる武蔵がいる。

今はロウィンの初戦をしっかり見ないと。


武蔵の体に隠れながら冒険者のススメの情報を思い出す。


あの魔獣の名前は白尾猪ボホア

推奨ランクは五級だ。

その大きな体で体当たりしてきて、鋭い二本の牙で太ももや腹を刺してとどめを刺してくる獰猛な魔獣だ。


「ロウィン、その魔獣は突っ込んでくるよ。牙に気をつけて、貫かれないように」

「グシィィィ」


ロウィンは僕の忠告を受け取ったのか、声を上げながら鋏を更に広げて白尾猪ボホアに向かって走り出した。


待つんじゃなくて自分から行くの?!


剣のように振り回すのではなく、大きな鋏なら槍のように待ち構えて敵を屠るのかと僕は思ったが、ロウィンはあんな大きな白尾猪に自ら突っ込んだいった。


白尾猪ボホアも一瞬、よくわからないものが自分の方へ走ってきたのでたじろいだようにも見えたが、そこは魔獣。

思考が戦いへとシフトするのに時間は掛からない。能動的に考えるのではなく、反射的に体を動かし白尾猪ボホアもロウィンへと駆け出した。


ロウィンと白尾猪ボホアがぶつかるまでの時間は瞬く間だった。

その一瞬でロウィンは白尾猪の牙に体を貫かれた。


「ロウィン!武蔵、ロウィンを助け・・・」


僕は大きな声を上げた。

そして武蔵にロウィンを助けるように素早く指示を出そうとした。


「グシィィィ?」


しかし体を貫かれたはずのお洒落な藁人形はそのことを気にした様子もなく、白尾猪ボホアを抱きしめて自分の体を寄せて牙から自分の体を外れないようにしているように見えた。


そうして体を固定したロウィンは白尾猪ボホアに引き摺られながら手に持ったレッドシザーを大きく広げ、魔獣の胴体に刃を当ててその体を切り裂いた。


容赦ない二刃で白尾猪ボホアの体は綺麗に真っ二つになり、ポリゴン化して体を貨幣に換金させられた。


「グシィィィ!!」


ロウィンが初勝利の雄叫びを上げる。


「体張りすぎじゃないかな?」


僕はその姿に若干引いていた。


「グシィィィ?」

ロウィンは褒めて欲しそうにこちらに戻ってきた。


「初勝利おめでとう、頑張ったね」

「グシィィィ!!」


僕が褒めるとロウィンは喜んでいた。

レッドシザーを持ちながら不気味な踊りを披露してくれた。

でもちょっと可愛い。

武蔵と違い、ロウィンは感情表現が豊かだった。


武蔵はどっしりと構えていて、ロウィンはお調子者タイプなのかもしれない。

玩具にそんな性格の違いがあるのは面白い。


「でもお腹に穴が開いちゃってるから、次は気をつけてね」

「グシィィィ?」


ロウィンは自分の穴が開いているお腹に手を突っ込みグリグリする。

何してんの?


ロウィンが体から手を出すと一束よ藁が掴まれていた。


「中が藁だから大丈夫ってこと?」

「グシィィ」

「それならまぁ、いいけど」

「グシィグシィ」


うんうん、と頷くロウィン。

服にも穴は空いてるんだけどなぁ。と僕は思った。


「そうだ、お金お金」


僕は白尾猪ボホアが倒れた場所まで貨幣を拾いに行く。


「そうだ、ロウィンも手伝ってくれる?」

「グシィィィ」

「武蔵は引き続き見張りをお願い」


僕は武蔵に守りを頼み、ロウィンに手伝ってもらって銀貨と銅貨を集めていった。




それから二度、ロウィンは魔獣退治をした。

この森は猪が一杯だ。

ロウィンの防御無視の戦い方は心に来るもののあるが、注意しても動きが変わらなかったのであれがこの子の戦い方なんだろうと納得することにした。


魔獣は全て貨幣に換金された。


魔獣の貨幣化は武蔵の専売特許じゃなくて、僕のおもちゃ全てに付属される能力ってことなんだろう。


魔獣の素材が集められないというのは、これはこれでいつか困ったことになるかもしれない。と思ったがその場合は手に入れた金で買えばよいのだと頭を切り替えることにした。


「じゃあ、そろそろ戻りますか」


時間にはまだ余裕がある。

でも今日は水浴びをする日だ。

ツヅネが水を売っている時間に町に戻らないといけないし、その前に水を入れるための容器も買わないといけない。

そしてその水を使って体を洗う場所も確保しないと。大通りで行水してたら町兵に通報されるかもしれないしね。


武蔵とレッドシザーを装備したロウィンと共に、僕は早めに町に戻ることにした。

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