第7話 目立たず僕は生きていく
「その姿どうしたんだ?」
僕が上裸状態で門に辿り着くと町兵が
「色々あって着られる状態じゃなくなってしまいました。本当に参りましたよ」
「そうか大変だな」
僕は予め用意しておいた答えを口にして、困ったように見せる為に苦笑いを浮かべた。
「このままじゃアレなんで服を売っている場所を教えてもらえませんか?」
「それなら大通りを真っ直ぐ行って二つ目の通りを右に曲がれ、そこに安い服が売ってるぞ」
町兵は半裸の僕を門で停めず、服が売っている場所も案内してくれた。
なんて、優しい人なんだ。
ありがとう。
その後に僕は案内された通りに歩みを進め、まずは服を、それから背負える革製の鞄を買い、貨幣ごと服をその中に入れ、新しい服を着て依頼完了の報告をしようと冒険者ギルドを訪れた。
僕はカウンターへと一直線に進み、受付嬢にサインされた依頼書を渡す。
「依頼完了しました」
「お疲れ様でした」
「依頼報酬は銅貨三十枚です」
村人のサインの入った依頼書を受け取ると受付嬢は報酬を渡してくれた。
「ども」
銅貨三十枚か、武蔵のことがなければもっと喜べただろうに・・・やはりというか、当たり前ではあるが武蔵に頼んで魔獣を狩った方が遥かに効率が良い。
これは依頼をこなすのが億劫になりそうだ。
でも、いきなり金回りが良くなると目をつけられるのはわかっている。
金の出所が不明なやつが疑われないはずもない。
少なくとも借金を返せるだけの額はこの冒険者ギルドの依頼の報酬でなんとか達成しなければならない・・・。
別にお金を集めちゃいけないわけではないので、依頼をこなすついでに魔獣を倒して貨幣に変えていけばいいだろう。
僕は受付嬢に怪しまれない為の算段をつけながら冒険者ギルドを出た。
本当は食堂でご飯を食べたいが我慢だ。
僕はここに来て二日目の人間。
しかも冒険者ギルドに借金もある。
贅沢なご飯など食べられない身の上なのだ。
お金はあるのに使えない。
なんと厄介なことか。
僕は露店に寄り、朝と同じメニューを頼んで腹を満たし、すぐに馬小屋へと帰った。
う〜ん、芳しきこの馬小屋、実に臭いね。
僕は干草をベッドにして寝転んだ。
鞄から服を出し、広げて銀貨と銅貨の枚数を数えた。合計数は銀貨四枚と銅貨百十一枚だった。
仰向けになりお金のことを考える。
なんと一日で借金を返せてしまう額が貯まった。しかしこれは使えない。
受付嬢は僕が昨日この町に到着したことを知っている。何せ無一文でここにきたのだ。それから依頼を一つしか受けていない。
依頼報酬は銅貨三十枚。
これでは計算がおかしいと誰もが思うに決まっている。
早く借金は返したいが怪しまれるのも不味い、何せ僕は異世界人なのだ。
目立つ事。
それは身寄りもないこの世界で一番避けるべきものだ。
傍目から見た時に僕は真面目な新人の冒険者に見えなければならない。
だから当分は贅沢せずにこの馬小屋でせっせとお金を貯める。
そして依頼をこなし普通の依頼報酬のみで借金を完済する。
そして来るべき時が来たら町を移ってもいいかもしれない。
今はまだ全てが早すぎる。
何せまだ異世界に来て二日目だ。
心を落ち着かせてゆっくり着実に地盤を固めて行こう。
今日の依頼報酬は銅貨三十枚。
だから武蔵による収入がなかったとしたら、馬小屋賃料が銅貨五枚、食事が五枚。
計算すると銅貨二十枚がプラスということになる。
新しく購入した服と鞄の代金は計算に入れない。こうなったのは武蔵が原因の一つなので居なかったらという前提が崩れるからだ。
銀貨三枚なら約二十日前後で完済できる計算だ。休みを入れて一ヶ月で冒険者ギルドに銀貨三枚を返済するという予定は現実的に実行可能なことが今日の依頼を受けてわかった。
予定は変わらずこれで進めよう。
あとはその依頼報酬以外のお金のことだった。
一日で魔獣を倒して得た収入は約銀貨四枚。
依頼報酬の十倍以上。
同じような依頼をこなすなら、これが毎日期待できるということになる。
そういえばガチャを回すのには金貨が一枚必要だった。
金貨一枚は銀貨に換算すると何枚なのだろうか?それも調べないとな。
銅貨と同じように百枚なのか?
だとしたら僕の感覚だと金貨は百万円ということになる。
百万円の牛、
この武蔵にその価値があるか?と問われたならば僕はあると答えるので妥当な値段かもしれない。
でもこれは最初に一回ボーナスがなかったらいつまで経っても金貨は貯められなかったかもな。あの時無理やりガチャを回そうとしてよかった。
そうしなければ武蔵とも会えずに魔獣にやられていたのは間違いない。
あの時の僕、グッジョブだ。
是非ともまたガチャを引きたい。
ガチャなのでまた都合良く武蔵のような玩具が引けるかはわからないがおそらくは有用なものが出る。
どうせお金を使えないのならガチャを引いても良いかな?と思えてきた。
だがそうするとまた問題が一つ増える。
両替だ。
ガチャを引くなら金貨がいる。
銅貨や銀貨を大量に持っていないはずの僕が百枚も銀貨を持って両替してくれと頼んだら、明らかにおかしいことがバレて僕が清貧な生活を送る意味がなくなってしまう。
そこらで気軽に両替は出来ない。
こんな事で悩むなんてまるでマネーロンダリングを企む悪人みたいだ。
特に悪いことをしているわけでもないのに。
現在の銅貨の枚数は百枚を超えている。
これを十日も続けたら千枚に軽く届く。
こういっては罰が当たりそうだが、これはどう考えても銅貨が邪魔である。
なんとか両替の方法も考えないとな、と僕は思った。
明日も依頼を受けないといけない。
こっちにはネットも何もない。
それどころか電灯もない。
暗くなったら寝るしかないのだ。
せめて楽しい夢が見れますように。
僕は体力を回復する為に早く寝ることにした。
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