第6話 魔獣と貨幣

僕はガチャ牛改め、武蔵ムサシ歪塊ルダダンを踏み潰し貨幣に変えたのを目撃した。


あまりにも信じられない光景を見て、しばらく呆けてしまった。


「モォー」


武蔵が鳴いたのをきっかけに時は動き出す。

僕はゆっくりと武蔵に近づき、さっきまで足元にいた筈の歪塊ルダダンが居ないか確かめてみた。


「やっぱり見間違えじゃなかった」


そこに魔獣はおらず、代わりに沢山の貨幣が散らばっていた。


「じゅうきゅう、にじゅう、にじゅういち・・・全部で銀貨一枚と銅貨二十一枚」


数えてみると依頼報酬よりも遥かに高額な貨幣が集まっていた。

これって貰ってもいいよね?


「ちょっと待ってでもこれが偽物の可能性もあるかも・・・」


僕は冒険者ギルドで借りた銀貨と朝食を購入した際に渡された銅貨を出して見比べみる。


「うーん、違いはわからないな」


見た目は全くの一緒だった。

この世界には貨幣を識別するようなコインカウンターなどの機械はあるのだろうか?

無いとしたらこれもお金として使えるのではないだろうか?

そもそも材質と見た目が同じなら本物と言って良い筈だ。

よし、拾うぞ。拾うぞ、僕は。 

これはおそらく超存在に認められた力。

ならばこの世界での使用も認められるに違いない。


なんとかこの貨幣を持って帰りたい僕は自分を納得させる為の言い訳を作り上げた。

もしも通貨偽造で捕まったら素直に罪を償おう。


「それまでは僕はこのお金を貯めるぞぉー」


僕は大声で空に叫んで固く決意した。



そうとなったら次は再現性だ。

どうやったら魔獣を貨幣にかえられるのかを知らないといけない。

さっきの現象はどうして起きた?


この場所が原因か?

それとも武蔵が歪塊ルダダンを倒した場合のみ?

または武蔵が魔獣を倒せば必ずそうなるのか。

もしくは魔獣は元々こういうものなのか。


これは試してみなければわからない問題だった。


もう一度早く試してみたいが魔獣が襲ってくるまではどうしようもない。


僕は魔獣が来るまで大人しく荷運びの依頼をこなすことにした。




「きたきたきた」


歪塊ルダダンに襲われてから体感で一時間以上。もうすぐトット村に着く、そんな場所で魔獣が現れた。


「あんまり強そうな魔獣じゃなくてよかった」


僕は武蔵の背後に隠れ、こちらに向かってくる魔獣と相対した。


二匹目の魔獣は泥人形ピリダス


泥が固まって形を成している魔獣だった。

ずんぐりむっくりの一頭身の体躯。

動きも遅く、力も弱い。

しかし中に核があり、それを壊さないと命を絶てない。

敵対時の冒険者等級の推奨ランクは六級。

僕でもなんとか単独で戦える魔獣だった。


まぁ、やりませんけど。


今回の僕の役目は武蔵と泥人形ピリダスの戦闘をただ観察すること。

そして魔獣が貨幣に変わる原因を探ることだった。


「武蔵さん、やっちゃって下さい」

「モォー」

僕の言葉に反応したのか、武蔵は叫んで泥人形へと走っていった。

え〜迎え撃つんじゃないの?


「待って、置いていかないで」


僕は慌てて武蔵を追いかけた。


「・・・はやい」


牛は遅いイメージだったが、走ると僕より断然に速かった。

運動不足だからかもしれないけど。


武蔵は地面を蹴り加速していき、そのまま泥人形ピリダスを踏み抜いた。

そして武蔵は足を止めた。


「もう終わり?」


走っていたので確認が出来なかった。

どうなった?

魔獣は貨幣に変わったのか?

僕は急いで泥人形ピリダスがいた場所まで走り地面を貨幣が落ちていないか見てみた。


「・・・あった」


こんな街道のど真ん中に銅貨が積まれているわけはない、

間違いなくまた武蔵が倒した魔獣が銅貨に変化したのだろう。

これで確信を得た。

場所も相手も関係なく武蔵が魔獣を倒した場合、その魔獣は貨幣へと変換されるのだ。

レートは個体によって違う。

今回は銀貨はない。

銅貨が百枚を超えているようには見えないので、泥人形ピリダスよりも歪塊ルダダンの方が貨幣をより多く得られることがわかった。

これもまた検証が必要となる。

体感では歪塊ルダダンの方が強い魔獣に思えた。

あくまで等級は冒険者ギルドが決めたものなのでそれが全てに当てはまるとも思えない。

同じ等級でも強さに違いがあるのは当たり前だ。

だが強い魔獣にはより高いランクが与えられる筈なので、それ程のズレはないだろうと思われる。


あれこれ考えてしまったが、大切なものは一つのみ。

僕は武蔵と共に大金を稼ぐ事が出来そうだということだ。


「やるぞ、やるぞ、やるぞぉ〜」


借金を返済して馬小屋を卒業する。

僕はそう心に決めて落ちている銅貨を集めるのだった。




トット村に着いて荷を下ろし、依頼書にサインを貰ってすぐに村を出た。


僕は荷の中身を何に使うのかも聞かなかった。知る必要もないので気にもしなかった。

頭の中はどうやったら魔獣をもっと倒せるのかの考えで支配されていた。

荷を受け取った村人が確認してサインを貰ったら仕事は終わり。


あとは町に戻るだけ。


依頼が完了してやらなければならないタスクは終わり、後はほぼ自由時間だ。

帰るまでが遠足です。

心の中でそんな声がした気がした。


一応、もう一度気を引き締めよう。


まだ依頼は終わってないのだし、また魔獣が出てくるかもしれない。

弱い魔獣ならまた武蔵さんにお任せしよう。


たしかこの街道周辺に出る魔獣の種類は十五種類ぐらい。二種は見たのであとは十三種類か。


次が来るならどんな魔獣だろうか?

そんな事を考えながら僕は街道を歩いて行った。


次に現れたのは鳥のような魔獣だった。

名前は彩羽鳥ウチュルリ

この魔獣の羽の部分は飛ぶ為のものではないので飛行は出来ないと冒険者のススメには書かれていた。

この魔獣と戦う時に注意することは一つ。

それは色が変化している羽の部分には毒に気を付けること。

彩羽鳥ウチュルリはその毒によって敵の動きを止めて獲物を捕食するようなのだ。

丸っこく可愛い見た目に騙されてはいけない。推奨ランクは五級。

僕の冒険者等級よりも一つ上。


「武蔵さん、やってしまって下さい」


僕がお願いすると、武蔵はモォーと鳴いて走り出した。タッタッタッと地面を駆けた。


飛ばしてくる羽は体に刺さるどころか触っただけでアウトなので普通なら近づかずに弓矢か何かで戦えと書いてあったのだが、武蔵は突っ込んでいった。


僕が囮になって彩羽鳥ウチュルリの攻撃を避けながら、武蔵に攻撃してもらった方が良かったかもしれないとこの時思ったが、時はすでに遅かった。


彩羽鳥ウチュルリから毒羽が射出される。

それは武蔵に向かって飛んでいき、体に刺さった。


・・・しまった。僕が調子に乗ったから。

後悔は先にはこない。

僕は武蔵が倒れる事を想像したが、いつまで経ってもその歩みを止めることはせずに飛翔する羽をその身に受けながらまた簡単に魔獣の体を踏み抜いた。


彩羽鳥ウチュルリは肉弾戦が得意な魔獣ではなかったようで抵抗する術はなく体を貨幣に変えて消えた。


「やったぁ」


一瞬、もうダメかもしれないと思ったが、終わりよければ全て良しだ。

反省はしなければならないが今はこの勝利を喜ぼう。


「武蔵さん怪我ない?」

「モォー」


彩羽鳥ウチュルリの毒羽はまだ武蔵に刺さっている、なぜかこれは貨幣へと変化しなかった。

あと何故毒が武蔵に効いていないのかわからない。


羽が刺さっている部分をよく見てみる。

そこからは血のようなものが出ていなかった。やっぱり元々が玩具だから生き物に見えても武蔵は生物ではないのかもしれない。

だから毒は効かないのかも?


僕はこのままでは見た目が可哀想だと思い羽を抜こうと手を近づける。

そして触れた時にそれをなんて馬鹿なんだ僕はと思った。色々考えていた所為で自分には毒が効くのを失念していた。

僕は麻痺毒に侵されて地面に倒れ込んだ。


「良かった、生きてる」


起きると、まだ暗くはなっていなかった。

彩羽鳥ウチュルリの毒に侵された僕は気を失った。

倒れていた時間はおそらく一時間〜二時間程度。もしも武蔵がいなくて彩羽鳥ウチュルリと戦うことになっていたらこの二時間くらいの間に僕は美味しく頂かれていたということだろう。


やっぱり異世界って怖い。

自分が間抜けな行動で死にかけた僕だったが、倒れていた間もそんな馬鹿な人間を護ってくれていた頼りになる相棒ムサシが側に居てくれた。


「ありがとう、武蔵さん」


一体僕はこれから何度この子に助けられるのだろうか?


移動はしていないので武蔵の足元には貨幣が散らばったままだった。

さっさと拾わないと。

まだ少し痺れる体に力を込めて立ち上がり、僕は銀貨と銅貨を拾った。


「でも入れる場所がないな」


ポケットにはもう貨幣は入り切らないくらいパンパンだった。


仕方ない。

僕は上半身の服を脱いだ。

次にポケットから貨幣を全て取り出して服で貨幣を包み、簡単な袋のような形にしてから適当に袖を縛り簡易的な鞄とした。


「寒いけどお金の方が今は大事だ」


まだお昼だしそんなに寒くはない。


町に帰ったら鞄を購入する。と予定を立ててから僕は武蔵と共に町へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る