第3話 町に到着

「お尻が痛い、でもこれで助かるかもしれない」


何時間か牛の上に乗り赤い草原を進み、それが見覚えのある緑の雑草に変わってしばらく経った頃に僕はようやく人の痕跡が残る街道へと辿り着いた。


「ありがとうガチャ牛くん。君のお陰かはわからないけど変な怪鳥みたいな生き物にも会わなかったし、足とかを傷めることなくここまで来られたよ」


僕は一旦、ガチャ牛から降りて感謝を述べながら体を撫でた。


「モォー」


気持ちが伝わったからはわからないが、鳴き声を上げて返事をしてくれた。


「それで後はどっちに行くのかって話になるけど・・・」


街道に着いたのは良いが、次は右か左。

どちらか選ばなければならないかった。

もしもこれで間違った方角へ進めば当分の間、人に会えなくなってしまうかもしれなかった。

少しでも情報を得ようと僕は街道に近づき、地面を観察した。

残っている跡はおそらく車輪の轍と人の足跡だ。その痕跡は双方向に向かっていた。

うん、全くわからないな。

こういう事のプロでもないのだからこれだけでどちらに向かえばいいかなんて分かるはずもない。


「よぉし、後はカンだ」


僕は適当に右へと進むと決め、歩き出した。

お尻が痛かったのでそれが治るまではガチャ牛には乗らずに自分の足を使うことにした。


「あ〜しんどい」


ガチャ牛から降りて歩き始めて時計の針がまた何周かしたと思う。

思うというのは時計を持っていないからだ。


運動不足が祟ってか、既に節々が痛い。

筋肉は熱を溜めているが、体の表面は大量の汗で冷えて冷たくなっていた。

水が飲みたい、喉が渇いた。

超存在によって落とされてから何も食べてないし飲んでもいない。

あと少しで陽が落ち始めそうだ。

そうしたら一気に辺りは闇に包まれる。

今日は野宿かもな。

初めての野宿は異世界で、かと思い始めた時に木の壁に囲まれた町を見つけた。

「・・・助かったぁ」

僕はガチャ牛に抱きついて涙を流していた。


それは道具がなければ人が乗り越えられないぐらいの高い市壁だった。

街に入る為に人が並んでいたので僕も行列の最後尾へとつけた。


町に着いて安堵から呆けていたが僕は列に並びながらあることに気がついた。


これってもしかして通行料がいるんじゃない?と。


僕はまだ最後尾だったので少し列から離れて今、町の中に入ろうとしている人を凝視した。


やっぱりその人は何か貨幣のようなものをを門にいる町兵に渡していた。


・・・これは不味いかも。


今は何も持っていない。

ここまできて街に入れず野宿かもしれない。

というか町に入ったとしても宿屋にはお金がないと泊まれない。


いきなりあんな場所に落とされてしかも散々歩かされた所為で、頭が働かなくなっていてこれからのことを考えられていなかった。


どうしよう、お金って担保なしで借りられるのだろうか?


無理だよな。

でも駄目で元々か、

僕は今日、外で寝る覚悟を決めて自分の順番が来るまで待つことにした。


「次」


自分の番が来るまでにそう時間は掛からなかった。

町兵は端的に言った。

愛想なんてものはなかった。

腰に帯びた剣が怖かったので素直に従った。


「身分を示すものを提出しろ」


そうか、身分証がいるのか。

原付の免許くらいなら持ってたけど、それが入っていた財布もない。

そもそもここで原付の免許を出しても意味はない。


「持ってないんです。気がついたら知らない場所にいてままでここまで来たので」

僕は焦りながらなんとか自分の状況を伝えた。


「そうか、では服を脱いでくれ」

「服ですか?」

「あぁ」


え〜服を盗られるの?

でもここで断って剣に手を掛けられても困るので町兵の言う通りにした。


「よし、犯罪者の刻印は入っていないな。それで通行料は払えるのか?」

刻印って何?と思ったが口には出さなかった。

「何も持っていないので・・・無理です」

「その牛は?」

牛がいた。でもこれは玩具だからな。

売った後で元に戻ったら詐欺などで訴えられるかもしれない。

「ーーーこの子は家族なので」

適当な言い訳をして手放すことを拒否した。

「そうか、ならば仕方ないな。立て替えてやろう」

「いいんですか?」

「あぁ、冒険者ギルドで身分証を発行してもらって金を貸してもらえ。払えなければ強制的に働かされるが、期間内に金を返せばそんな事もされない。金を貰ったらここまで支払いに来い。来なければ犯罪者として捕まえることになるが良いか?」

「じゃあそれでお願いします」

「では通れ、冒険者ギルドはこの通りをずっとまっすぐ進めばわかるだろう」

「ありがとうございました」

「そうだ。エンリへようこそ」

「はい、すぐに戻ってきます」

親切な町兵に助けられて僕はなんとか町に入ることができた。

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