第4話 冒険者ギルド
はぁ〜町兵さんが良い人で助かった。
この世界は捨てたものではないらしい。
人の善意に助けられて僕は多くの人とすれ違いながら大通りを進む。
人が大勢いる。それのなんと頼もしいことか。安全な場所にいる時には感じもしなかったが、怪鳥が現れたあの場所で恐怖を味わってからというものの、人が居ない草原をひたすら歩くのは正直心細かった。
疲労が蓄積していたおかげでそれを忘れられていたのかもしれない。
ここで多くの人に囲まれていると安心感が違った。
町に入れて余裕も出てきた。
あとは冒険者ギルドで身分証を発行してもらってお金を門の町兵まで持っていけば今日のやるべきことは終わりになる。
「もうちょっとだけ頑張るぞ」
僕は冒険者ギルドを目指してさらに町の奥へと向かった。
冒険者ギルドの場所を詳しく聞かなかったがその必要はなかった。
理由は建物が派手だったからだ。
真っ赤という印象を初めに受けて、次に目に入るのは何か大きな獣の骨。
それがどどんと正面に飾ってあった。
間違いなくここだな。
「お邪魔しまーす」
僕が小さな声で挨拶をしながら中に入ると顔の怖い大きなおっさんが目の前にいた。
「すいませんっ」
何か言われる前に謝ってそそくさとその場から離れる。
奥には二つのカウンターがあった。
そこには受付をしている人がいた。
両方とも女性で、一人は黒髪の綺麗な人。
もう一方の女性にはなんと獣耳がついていた。この世界って獣人がいるのか。
ファンタジー本の中にしかいない筈の存在が目の前にいた。
僕は導かれるように獣耳が生えている女性のいるカウンターの行列に並んだ。
早く順番が来ないかな?
「次の方、どうぞ」
「はい」
僕の順番が来たので席に座った。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
近づくと獣耳が目に入り注目してしまう。
本物だ。微妙に動いている。
獣人だ。凄い。
初めての存在に僕は浮かれそうになる。
・・・ダメだ話をちゃんと聞かないと。
だがなんとか僕は頭の中を振って平静を取り戻した。
「ここで身分証が貰えると聞いたのですが・・・」
町兵に言われたことを思い出しながら僕は尋ねた。
「冒険者登録をお望みですか?」
「登録をすると身分証が貰えるのですか?」
「はい、そうですよ」
「じゃあ、お願いします」
やった。あの町兵の人が教えてくれた通りに身分証を貰えるようだった。
「ではこの鑑定器に触れてください。登録料は銀貨一枚です」
「あの、お金持ってないんですけど、それも貸してもらえると聞いたのですが・・・」
「お金の貸付をお望みですか?無担保ですと銀貨三枚まで貸付可能ですが、どうなさいますか?」
「お願いします」
「返済期限は四十日です。もしも返済をなされない場合は強制的な労働を対価として体で支払って頂くことになりますが宜しいですか?」
「はい、必ずお返します」
強制的な労働と聞いて二の足を踏みそうになったが、ここで引き返してもどうにもならないのは確かだったので僕はその提案を受け入れた。
「銀貨三枚は毎日依頼をこなせば必ず返せる程度の金額なので必要以上に警戒することはありませんよ」
この人にわかるくらいには僕は怯えていたらしい。基本ビビりだからね、仕方ない。
「では貸付は銀貨三枚、登録料で一枚支払って頂くのでお渡しする銀貨は二枚となります」
「はい」
僕は受け取った銀貨を大事にポケットに入れた。
「では鑑定器に手を置いてください」
言われるままに鑑定器に触れる。
すると下にあったカードに鑑定器で読み取った僕の情報が刻まれていき、身分証に変わった。
「これが冒険者登録証となります。再発行にはまた銀貨一枚が必要になるのでお気をつけ下さい。お客様は初めてのご登録となりますので冒険者等級は一番下の六級です。この等級は依頼達成など冒険者ギルドの仕事をこなしていけば上げることが出来ます。評価基準などをお知りになりたい場合は冒険者ギルドに置いてある【冒険者のススメ】をご一読ください」
説明が終わり身分証を受け取る。
冒険者登録証にはステータスと同じものが書かれていた。
《 名 前 》 ユヅメ シュウ
《 年 齢 》 19
《 種 族 》 人間種
《 レベル 》 1
《 職 業 》 玩具屋
《 スキル 》 言語
玩具購入
玩具修理
玩具召喚
この身分証は不思議なもので、僕が触れていない状態では名前と年齢、種族、レベル。そして隅に書かれている謎の番号しか記載されない仕様になっていた。
つまり職業とスキルは表示されないわけだ。
一部を隠せる仕様にしているのは盗難による成り代わりの防止対策かもしれない。
「どうなっているんだろう?」
冒険者登録証を更に詳しく調べてみると名前だけは消せないが、それ以外は表示させたりさせなかったりと記された情報を他人に隠す事が出来るものだった。
あれ?でもどこかちょっとだけステータス画面の表示と違うような気がするんだけど、何だったかな?
「他にご用件はありますか?」
僕が冒険者登録証をじっくり見ていると受付のお姉さんがが尋ねてきた。
そうだ、後ろには僕の他にも待ってる人がいるんだ。疑問を頭の隅に追いやって僕は最後に尋ねる。
「ええっと、そうだ。この辺りに安い宿屋はありますか?」
「そちらの牛も一緒なら宿屋は無理かもしれません」
ーーーそれはそうだよね。
「・・・そうですか」
「空いている馬小屋なら借りられるかもしれませんが」
僕が落ち込んでいるのを見て獣耳の女性は良いことを教えてくれた。
馬小屋か、でも外にいたら雨に降られるかもしれないし野宿よりはマシだね。
「そこを教えてください」
僕は馬小屋に泊まることにした。
「ギルドが管理している馬小屋ならすぐに紹介出来ますが・・・」
「ならそこで」
「承りました」
「以上でよろしいですか」
「はい」
僕は冒険者ギルドでの用事を済ませたので席を立った。
「本日はご利用ありがとうございました」
獣耳の美人さんに見送られて僕は冒険者ギルドを後にした。
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