第5話

 よもや体力のなくなり、思考するという作用にすら全くの余力も無くなった頃、ランタンは燃料をとうに失って、足先すらも暗影につつまれているのに、脚はかろうじて前進運動を続けており、しかし足先の感覚はもはやない。それどころか、五感を受容するまでの神経は、働くことすらを放棄したように萎びて、もう脳天までその信号群は届かず、身体の末端かどこかで鬱結しているのであろうか。


 しかしどれほど歩いてきたかすら、まともに把握などできる訳もなく、後ろを向いても前と変わらぬ景色が広がるだけなので、私は憂鬱さに全身の黒胆汁が勢いよく流れるのを思い浮かべる。


 すると、喉元までその黒い体液が込み上げてきたので、唾を呑み込んでおし返そうとするが、あまりにも唾が重く感じて、上手く呑み込めない。気分が悪い…体感では数日かそこらも経った気がするのに、根源から私を支配する力に理性すらも抑え込まれて、ずっと敵わないのだ…。


 身にまとっていた革靴も靴底の擦れ切って削れ、凹凸を失った単なる革ベラのようなものにまでなってしまっている。


 そんな情報も、視界があまりにもボヤけてはっきりとしないために捉えきれず、ついにほんのわずかな段差に足を取られて、瞼のひらいたまま、私はその場で転倒して、気を失ってしまった。最後に少しだけ、ランタンの落ちて転がるのが、洞窟の先までこだまして聴こえたが、これ以上私の記憶は断絶した。

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