第2話

 ある日、男は自宅にて見ず知らずのうちにシンクに落ちて転がっていたナマコの胎児をひろい、これを育てることを決める。


 日々成長とともに肥大化して、その体積がついに初めのバケツの容量を超えると、次に男は大きな水槽を用意し、餌などもより以前より豪勢なものを仕立てた。


 ナマコはねば々と粘性をしてイボのように凹凸のはっきりした体表面を纏って、奇妙にうねりくねり穏やかに伸縮運動を繰り返すのみであった。然し男はそんな生態に魅了されてゆき、いつの日にかナマコの夢、幻想に取り憑かれるようになり、そのナマコの住まう神妙不可侵の領域となった水槽内にて、悠然と広がる海底の波波となった地形と見えるほどに錯綜するまでとなる。


 その症状はナマコの成長と共に悪化する一方であり、ついには仕事も外出もできぬほどに精神を衰弱させ、家族を含めたあらゆる人間関係を絶ちきるほどまでになってしまった。心配に男を訪ねる者も、男が玄関より先に踏み入ることを大袈裟に拒むために敵わず退く他なかった。

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