第四夜
私は何時も通りに美少年に手錠と目隠しをされ、ナユの温室に続くエレベーターに乗った。
エレベーターから降りて扉を開けると、ナユは美少年とはまた違う、側仕えの美男子と熱い口付けを交わしていました。
ナユは私を流し目で見て、見せつけるように何度も舌と舌をくっつけて、唾液を移していました。
私はそれを、飯を与えられるまで待つ犬のようにしてジイッとしている他ありませんでした。
ですがそれと裏腹に、心の底で燃え盛るような嫉妬心が湧き上がっているのです。
終ぞ私はカッとなって二人に近付き、カウチの横に置かれたサイドテーブルの上にあったワインボトルを掴み、美男子の頭にガツンとぶつけてやりました。
美男子が倒れると共に、血とワインが床に広がり、緑と白で調和された床に赤が彩られました。
私は酷く冷静に、ナユに向かい合いました。
「私に意地悪をしたいのですか」
そう言う私を知らん振りするように、ナユはカウチに座り、ワインをあおりました。
「その子、処刑するつもりだったの。もう使えないから」
最後に甘い毒を与えようと思って。とナユは続け、まだピクピクと死にかけの虫みたいに動いている美男子の手を踏みました。
「……貴方がアタシの共犯になってくれたら、どんなに幸せなのかしら」
と、ナユは甘く蕩けた瞳を私に向ける。私はそれに一歩退いたが、目線を逸らすことは出来なかった。
ナユは腰掛けたカウチから立ち上がり、温室の奥の扉、私が入った事の無い【特別な】部屋に入り、役二十センチくらいあるであろう牛刀を手に取って出てきました。
「ねえ、できるわよね」
殺人の畏怖。
「アタシの為に、してくれるのよね」
自分が人でなくなる恐怖。
もしここで私が人を殺したとして、今与えられる幸福がその後の不幸を凌いでくれるのか?
今後の人生は、拠り所が無く不安に思いながら過ごす日々が待ち受けているのではないか?
「生臭い貴方に抱かれるの、楽しみなの」
その言葉を聞いた私は、遂に意を決して美男子に向き合い、牛刀を突き立て、顔やら首やら胸を滅多刺しにしました。
時々ナユはきゃあきゃあと声を上げてはしゃいでいました。
美男子は二度と動く事はありませんでした。
「素敵だったわ、お疲れ様。血が飛び散っちゃって顔についてるわ。一緒にお風呂に入りましょうね。……どうしたの?気分でも悪いの?……大丈夫よ。どんなに汚れたとしても、洗えば全てが元通りになるんだから」
ナユは私の頬に手を添え、血を拭い取ってそれを舐めました。
「そういえば聞いてなかったわね、今日は何したいの?」
「……今日は、心臓の音が聞きたい」
「そんなことでいいの?」
「それがいい」
人ならざる行為をしてしまった私の、心の穴を埋めるのに最適なのは、人の温もりただ一つだけなのである。
ドクドクと聞こえる鼓動は、確かにナユが生きている証明だ。これを毎日聞けたなら、私はどれほどの果報者だろう。
私は、艶花ナユを手に入れたくてしょうが無いのだ。
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