第五話 幼気
舞台場と化した中央の大広間の奥、高級そうなカーペットが敷かれた向こうにはこれまた大きな中央階段が二階へと聳え立ち、左右へ手摺りに沿って多くの装飾品で着飾った者たちが上から舞い踊るエラを見下ろしている。
その階段の中腹、踊り場にはこの舞踏会の主催者であり、そしてこの場の全ての女性が狙い定めている主役と言っていい男性が、多くの家臣を左右に従いつつも目を見開きながら、喋りかける者の声も耳に入らぬほどに目下を注視し続けていた。
エラの足はそろそろ限界が近づいてくる。
掻く汗には冷や汗が混じり、笑顔に余裕がなくなりそうなその時、誰も寄せ付けないはずの演技に一人の男性がエラの傍へとやってきた。
「・・・ご一緒に、よろしいですかな?」
玉のような汗を流しながら、息切れで抑えきれない吐息は視覚だけでなく嗅覚ですら男性を魅了する。
「・・・申し訳ございません、これ以上は舞えませぬ故、どこかで休ませては頂けませんでしょうか」
幼気に、健気そうに、そしてか弱く振舞うその所作も、この国の女性には無い特徴でありこの男性は、今までに味わうことの無い気分へとさせられるのです。それは自尊心や虚栄心、そこから湧き出て来る思いとは「この女性を守ってあげなくては」という男性の本能とも言える部分を刺激させ、母性本能ならぬ『父性本能』から無下には出来なくなってしまう。
「・・・ああっ・・・・・・」
エラは疲労と足の痛みから、蓮の花びらが舞い落ちるかの如く男性へと倒れ込む。
「おおっと、大丈夫ですか??私が休憩できる所までお連れしよう」
エラは男性に軽々と横抱きにされ、その場全ての者が驚きにまた
西洋の者よりも東洋の者は比較的に小柄で幼く見えるために、その体格差も親子ほどに差が開き一見するとその二人の姿も如何わしくは見えず、逆に健全な光景にまで見えてしまう。
「そなたは東国の者か。話には聞いたことがあるが、こうやってお会いできるとは、私は幸せ者だな」
「そんな、勿体ないお言葉・・・わたくしの方こそ、このようなお心遣い、まるで夢のようですわ」
二人は中央階段を上がり、皆を尻目に消えて行く。
その道中、エラは目端に義母と姉たちをチラリと確認する。その顔は驚きと悔しさに満ち溢れていて、義母は怒りの形相にて酷く醜くなっていた。
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