4話

当時の世界は大慌てだった。


突然『月が落下します、どうにもなりません』なんて言われたらそうだ。


それでも生き残ろうと必死になるか、嘘だと笑うか。


何の根拠もなく自分だけは生き残れるとタカをくくるか。


でも結局はみんな同じ、最終的にはパニックになった。


パニックになって、それで――


「止まって、望」


「え?」


繋いでた手を引っ張って建物に隠れた。


今から渡ろうと思っていた道の先。


人影が見えた。


一、二、三……五人。


護身用、とは思えない持ち方をした金属バット。


話し声もわずかにだけど聞こえる。


聞く感じ、軽くて薄い声と内容。


体格、声からして男だ。それも若い。


人を見かけや印象で判断しちゃいけないけれど。


判断するなら確実に関わっちゃいけない部類。


――ちっ。


望に聞こえないよう、心の中で舌打ち。


「どんな人? いい人そう?」


「……いや」


僕の袖の端を掴む望。


確かめるまでもなくその声は震えていて、手も震えていて。


怯えているのがわかる。


聞いてきた望自信もわかっているんだろう。


そもそも今の世界では『いい人』は少ない。


今まで見てきた人達は大抵、悪人か狂人か、病人のどれかだった。


「ふぅ……」


4つ数える、息を吐く。4つ数える。息を吸う。


冷静に、冷静に。


考える。


ここで待つべきか。戻るべきか。行くべきか。話すべきか。


考えた結果。


「戻ろう」


「わかった」


すぐさま頷く望。


手を繋いだまま、今来た道を戻ろうとする。


――ただ、そういう時に限って。


カランカランと小さく大きな音が鳴る。


「「!」」


足元に捨ててあった空き缶を望が蹴ってしまったから。


「あぁ? 誰かいんのか?」


「おい。あっち探して来い」


「ちっ」


今度は無意識に言葉にしてしまった。


それをかき消すように走ってる音が聞こえて来る。近づいてくる。


迷ってる暇はない。


ここで僕達が見つかったら、それこそおもちゃにされる。


「行くよ」


「う、うん」


僕達は二人、手を繋ぎながら闇の中へ。


急いで逃げ出した。

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