第43話 報告書
屈辱的敗北から数日、病院での生活にも慣れてきた頃。
「ダレク、これ見ろよ」
また、当たり前のようにいるランディが声をかけてくる。
「…何さ、また新作のチョコでも出たか?」
からかい半分に言い返してやった。こいつは毎日毎日新聞に挟まってる広告を引き抜いて持ってくる。全く、食事指定されてるこっちの身にもなって欲しいんだが…。
「いや、少し真面目な話だよ」
ランディが差し出してきたのは一枚の書類。ぎっしりと文章が書かれていて、とても読む気にならない。
「ランディ…これ読んだの?」
「少しは、ね」
即答するとともに、文章の一番下にある写真を指差した。
「要約すると、これ」
真面目な雰囲気のランディに、こちらも真面目にならざるを得ない。載っていた写真はどこかの偵察衛星か、それともスパイが盗撮したのか、画質はあまりよくなかった。でも、長年戦場にいればわかるものだった。
「ミサイル?」
「ご名答、新型のHe-12。カルンツァミア内部に入ってたスパイが報告した文書と一致するらしくて。弾道ミサイルってやつだよ」
弾道ミサイル、ねぇ…。一年前の5月、ヘレヴェールの都市に落とされて話題になったことがあった。文章を少し読んでみようとした時、ある文字が目に飛び込んできた。
「ランディ、<機密情報>って書いてあるぞ。…どこで手に入れた?」
「全く怪しいことはない、カスピオス司令から情報共有だってよ」
そうか、ならいい…のか?特殊部隊とはいえ、ただの兵士にこんな情報渡して。
「問題は、これが撮られたのがヘレヴェールの立ち入り禁止区域ってこと。あっちがやろうと思えばラァーク川前線に撃ち込むことができるんだ」
ランディが続ける。
「あとここ見ろ」
文章の真ん中くらいを指差すランディ。そこにはこう書かれていた。
「『核弾頭を搭載可能』か。核の開発は進めるもんじゃないよ。アレは人が扱っていいもんじゃない」
「相手がどう考えてるかは俺たちじゃどうにもならない」
ランディが普段の数倍真面目な話し方をするので、俺はつい聞いてしまった。
「お前どうした?やけに頭良さそうな話するけど」
ランディは無言でポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
「うちの軍が手に入れた敵の戦力情報。見てくれ、「ルタードの口」の情報が一切ないんだ」
「それが?」
「…俺は何かあると思うんだよ。南部戦線の情報はこんなにあるのに。ほら、手練れの顔まで割れてる」
ランディの話を聞きつつ、手練れの顔を確認した。目つきが鋭く、いかにもなエリート感を漂わせている。当時の兄みたいだ、気持ち悪い。
「それなのに、こっちの前線の情報は何にもない。アンラーン・エンツァイすら載っていなかった。おかしいと思わないか?」
「まあ確かにな…」
そう言われればそうだが、記載しない意味がわからない。こちらが不利になるだけなのに、一体なぜだろうな。
「真面目な話はこれで終わり」
ランディが紙をポケットにしまい、窓の外を見た。外は快晴で、心地よい日差しが優しく照っている。
「カールたち、また外行くってよ」
「寒くないのかよ…」
また窓から入ってきて欲しくないんだが…まあいいか。
「そいえばオーロンは?最近会ってないけど」
「俺も全然会ってない。俺たちが泊まってるホテルにもあいつ帰ってこないし」
「…それいつから?」
「…1月2日」
「今日は?」
「…1月4日」
「連絡とかは?」
「…全くない」
ランディの顔がみるみる青ざめていく。んなことよりオーロンを探さないと。
「おい、いなくなる前になんか言ってたこととかあるか?」
真っ青になったランディが言った。
「なんにも…気づいたらいなくなってた」
「カールとクレイを呼んできてくれ」
あいつ…なんにもなければいいんだけど。
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