第42話 窓の外から

机の上に置いてあった銃を素早く手に取る。その間にも窓からはゴンゴン音が鳴っていた。俺は銃を構え、恐る恐るカーテンをめくった。

「…何してんの?」

俺の目に映ったのは見知った顔だった。

「ダレクー!開けろー!」

間違いなくクレイだ。ここ2階なんだけど…。

「待ってくれ、状況が理解できない。お前ここ2階だぞ?あとお前部屋で絶対安静じゃなかったっけ?」

クレイは笑って答えた。

「抜け出した!」

思わずため息が出てくる。何の為に…。

「ダレク、頼む、開けてくれ」

下から出てきたカールにギョッとした。しょうがない、開けるか。

「今開けるから少し待ってろ」

窓の鍵を開け、窓を両手で開けた。途端に室内に大量の雪が入ってくる。猛吹雪だから当たり前なんだが。

「サーンキュ」

全身雪まみれの二人が転がるように俺の病室に入ってくる。床やらベッドやらに雪が落ちていく。ああ俺のベッドが…。

「助かったぜ…マジサンキューな、ダレク」

「じゃあこれで」

と、足早に去ろうとする二人を後ろから呼び止めた。

「待て、お前らなんで外にいた?カールはまだしも、クレイ、お前極度の寒がりだからこの天気で外なんて出たくないはずだろ?」

クレイが何か言おうとするのを制し、カールが言った。

「俺がこいつに無理言っただけだ、詮索しないでくれると助かる」

そうか。でもな、ここですんなり行かせないのがタランチュラメンバーなんだよ。

「…いいぜ。それで、俺に対する見返りは?」

カールが目を閉じて少し考え、言った。

「いつものチョコレートを隠し持っている。それでどうだ?」

前の俺ならここで引き下がるだろうが、俺はずる賢くなった。

「それでいいぜ。…ただし、2個な!」

「ッ!?」

明らかに動揺したカールとクレイ。なんでお前まで動揺してんだよ。

「俺がする口封じは二人分だ。なら、報酬も二人分くれるよな?な?」

「クソ…セコいぞ」

「そんなこと知ったことか」

交渉が難航してきた時、クレイが口を挟んだ。ヒョロヒョロとやり合った時の表情だ。何してくるかわからない、そんな表情。俺は少し身構えた。

「ダレク、いいのか?アレを暴露するぞ?」

「クレイ、交渉材料に何かあるのか!」

カールが目を輝かせてクレイを見るので、クレイは表情を崩さずに言った。

「すこーし俺に任せな」

「暴露?何を暴露するってのさ?」

口ではこう言えるが、思い当たる節が指に収まりきらないほどある。こういう隠し事はクレイほど上手くない。表情が固い気がするな…。

「さて、チョコレートの個数を一個に減らせ。さもなければアレを暴露する。要求は以上だ」

「アレ?アレってなんだよ」

「あれれー?言っちゃっていいのー?」

「クッソ…」

うぜぇ…。でも乗ればこっちの負けだ。どうにかしないと。ちらっとクレイの表情を見てみる。こっちがあたふたするのを楽しんでる表情だな!?わかるぞ、口角が若干上がってんの。

「う…一個でいいよ」

「よーし!二言はないからな?」

クレイはさっきと打って変わってニコニコになっていた。

「じゃあ、これで!」

「これチョコレートな!じゃあな!」

そそくさと部屋を出る二人。あーあ、また負けた。多少ずる賢くなったと思ったのに、やっぱクレイが一枚上手か…。そう思いつつ、チョコレートを口に放り込んだ。

「うーん…苦い。カールの奴、甘党なのに…。まさか、こうなることまで予測して用意したのか?考えすぎか?」

真偽はわからない。でも、敗北とビターが重なってめちゃくちゃに苦かった。

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