第41話 豪雪とナイフ
新年を迎えた次の日。
「ダレク、外を見てよ」
当たり前のように部屋にいるランディが声をかけてきた。言われた通り外を見ると、吹雪で真っ白だった。こんな中戦場に戻るのは地獄以外の何物でもないだろう。
「…クレイが見たらなんて言うと思う?」
「今から骨折っていい?、だと思うよ」
ランディの即答には失笑するしかなかった。
「オーロンたちは?」
「オーロンは今食堂、カールは外」
外…外!?アホなのか?凍死するぞ。
「え…今外って言った?」
「うん、さっきフロントでカールを見かけてね。そのまま外に行ったよ」
マジかよ…この天候で外に行くなんて自殺行為と同じようなもんだぞ。一体何しに…。
◻︎ ◻︎ ◻︎
首を狙ってくるナイフをギリギリのところで避ける。ヒュンッと風を切る音が吹雪にかき消され聞こえないが、相当な速度だ。当たったら死ねる。
「ッ…!あぶね…」
そう考えた一瞬にもう一本のナイフが首に迫った。これもギリギリでかわす。が、俺は詰んでいたことを知った。
「あ…」
軽く肩をトンッと押されただけで俺の体は後ろに倒れていった。周りの雪が顔に跳ね返ってくる。その状態の俺を上から覗き込むやつがいた。
「カール、ちょっと油断しただろ?」
「うっせ…」
実際その通りだけど…何も言い返せないのが腹立つな。
「全く…寒くて死にそうだぜ…」
あー、それはごめん…。
「でもさ、意外だったぜ?お前が俺に協力を申し込むなんてさ」
俺は火事にあってから自分の弱さを知った。ナイフ捌きが全てではないと。銃の腕前が全てではないと。俺には精神が足りてなかったんだ、と。現に目の前のクレイの野郎は火事場であんだけの勇気を見せてくれたからな。
「さて、もう一戦やるだろ?やるなら早くしてくれ。動かないと寒くてさぁ…」
倒れたままの俺に手を差し伸べてくるクレイ。俺はその手を握り、起こしてもらう。
「つーかさ、言うの忘れてたんだけど」
雪を払っているところにクレイが声をかけてきた。
「これ、医者に見つかったらダメだよな?」
「あー…」
俺は頭を抱えた。ダメだ…。そうだ、俺たちは普通にまだ患者なのだ。大目玉くらう可能性が高い。いや、それしか考えられない!
「…なぁ、ダレクの部屋って2階に移されたんだよな」
俺は考えを察した。クレイもそれに気がついたようだ。そして、ニヤッとして言ってきた。
「決まりだな?」
⚫︎ ⚫︎ ⚫︎
ランディが帰ったあと、銃にこびりついた黒サビを擦っていたが、全く落ちる気配がなかった。なんか薬品かければ一発だろうな…。その後、俺は隠していた小説を引っ張り出した。入院したその日、前線から俺の私物が入った小さな箱が送られてきた。これは入隊したその時からずっと使っているものだ。私服や写真など色々入っている。
「ふふふ、しっかり入っている。過去の俺、よくやったな」
一年前、ちょうどこの時期、一週間ほど前線から帰還することができた。ほとんどの兵士たちは家族に会いに行くだろうが、タランチュラメンバーは家族がいないのだ。一応孤児院には「親」と呼ばされたやつがいるが、誰一人として戻りたくなかった。そのため、カスピオス司令が厚意でホテルをとってくれた。本当にありがたい限りだ。帰還して2日目、街を歩きに行った。見るもの全てが明るく見えていた気がする。
「なんか買おうぜ。ぶらぶら歩くだけじゃ勿体無い」
というクレイの提案でショッピングモールに入った。その時に買ったのがこの小説。もちろん恋愛小説だ。他のメンバーにすら言ってない。これは俺史上最大の秘密だろうな、うん。
「さて、読むか…」
と、表紙をめくった瞬間、
ゴン
という音が外からした。俺は銃を取る前に、素早く小説を元の位置に隠した。
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