第36話 泣きっ面に蹴り

ベッドに入る。普段寝ているベッドの10倍くらい寝心地がいい。普段している睡眠法もする必要が無さそうだ。さて、明日は…早くないのか。じゃあ早起きをする必要もないけど、だからといって夜更かしする理由もないな。寝るか…。


「お前のせいで大量の死傷者が出たんだぞ!」

「ダレ…ク…。恨むぞ…」

「返せよ!俺の仲間を!」

「家族に見捨てられた可哀想な子…」

「まともに育ってないからさ、考えてること理解できねーよ」

「君には失望したよ」

「君は悪くないけど、僕は君のことを許さない。絶交だ」


…なんでこういう時にこんな夢見るんだろうな。目を開けたくない、けど、太陽の光と熱は俺の瞼を容赦なくこじ開けにくる。…待てよ、冬の太陽ってそんなに強かったっけ。嫌な予感がして、俺は目を開けた。そして、俺の嫌な予感はよく的中するのだ。

(熱い…!)

部屋が燃えていた。理由はすぐに分かった。衝撃とともに轟音が響く。空襲だ。サイレンが鳴っているのにも気づいた。前線基地には対空設備があったはずなんだがな。

「クソ、どうにかして外へ出ないと…!」

立ち上がり、ドアの方を見ると、言葉を失ってしまった。炎がごうごうと燃えていた。となると、ドアが変形していて開かないことも想像できた。窓から飛び降りることも考えたが、ここは五階だった。飛び降りれば間違いなく死ぬ。万事急須、といったところか。


◻︎ ◻︎ ◻︎


この先にダレクとクレイの部屋があるはずだ…。俺たちが寝ていた部屋は三階だから、そのまま下に行った方が生き残る確率が上がるだろうに。なんで俺は今四階と五階を繋ぐ階段を駆け上がってるんだろうな。しかも、さっきダレクにまあまあ敵意を向けたはずなんだけどな。

「矛盾まみれだな…」

自嘲の笑いが漏れる。笑ってる場合じゃねぇよ。急がないと。

「ダレク!生きてるなら返事しろ!」

真っ赤に燃える廊下に向かって叫ぶ。返事が帰ってこないことはわかっていた。昨日の記憶を頼りにダレクの部屋を目指す。


俺の記憶は間違っていなかったようだな。ダレクの部屋のはずだ。が、扉が燃えている。ドアノブは触れないな。じゃあ、蹴破るしかないな。ガンッと金属音が響くが、ドアはびくともしなかった。さらに、蹴ったところに靴底のゴムが溶けたであろうものが付着していた。

「チェーンソーか斧かあればな…」

そんなもんないのは知ってる…。けど、このままだとダレクもクレイも死ぬ!

「あああああああああああ!!!!!」

思い切り体当たりをかましたが、無情にもドアは開かなかった。

「病院のドア硬すぎだろ…いや、違う、熱の歪みと俺自身の力が入ってねぇのか」

じゃあ、ドア開けるのは無理じゃねぇかよ。窓から入るのはリスクが大きすぎるし、この部屋の中はもうすぐ電子レンジだし、神ってこんな無情だったかな…?

「…カール、蝶番だ、ドアの端の方を叩け」

後ろからこの声が聞こえてきたので振り返ると、クレイが腹這いで廊下の奥から現れた。

「クレイ、動けるか?」

「知るかよ…体が思うように動かないけど、動かないと死ぬんだよ。んなことより、早く扉破れドアホ!」

「ドアなだけにか?」

「黙れ!!」

ふざけてる場合じゃねぇ…。ドアの端側を思い切り蹴る。でもびくともしない。これは俺の力が弱いからか…酸素が足りねぇんだ。

「肩貸せ!」

クレイが叫ぶので肩を貸し、なんとか立つと、バコンと一発蹴りを正確で強く入れた。ドアが簡単に外れた。

「なんだその馬鹿力」

「知らね、早くダレクを」

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