第35話 生誕
「とりあえず、生還しただけでもラッキーだぜ」
ニヤリと笑うクレイに、メンバー全員がやれやれと思っただろう。でも実際、こいつは生きるか死ぬかの場面を必ず生還していた。その度にひどい怪我を負っていたが。
「で、戦況はどうなった?エンツァイって幹部だろ、前線の幹部一人殺せたなら、ちょっとは良くなったか?」
これに関しては俺は全く知らなかった。オーロンが説明した。
「こっちの軍もひどい損傷が出てるし、建物の修復とかも考えたら戦況は平行線だな」
クレイが唸った。
「冬に入ったから死者増えるぞ…ヘレヴェールの奪還を夏のうちにやらなかったツケが回ってきたな」
クレイがタウナーのことを嫌っている理由で、一番に挙がるのはこれだろう。戦争を手っ取り早く終わらせるため、クレイが考えていたのはヘレヴェールの奪還だった。ヘレヴェール国内には抵抗軍やゲリラが蔓延っていて、内政に手こずっているという情報が入っている。そこで、ペルニヒ軍と手を組み、奪還を手伝うと同時にカルンツァミアの戦力を削ることができると考えていた。その頃、カスピオス司令からタウナー司令に変わった。これが間違いだったのだろう。この有様である。
「明日も来るよ、お大事に」
カールが言い、クレイの部屋を後にした。扉を閉める時、クレイがブンブン手を振っているのが見えた。能天気だな…。
「ダレクも自室に戻るだろ?じゃあここで」
みんなに別れを告げ、自分の病室に戻る。扉を閉め、電気をつけた。無機質な部屋だが、一個だけ違う部分があった。ベットの上に何か置いてある。プレゼント…なのか?無骨な木箱を、リボンなどで無理矢理明るくしたような印象を受ける。
「…何これ?」
慎重にリボンを外し、木箱を開けた。中には金属製の箱がさらに入っていた。
「過剰包装が過ぎるな…」
ぽつりと独り言が漏れる。この鉄の箱を開けるべきか、少し考えた。この中に信管が抜かれた手榴弾とか入っていたら俺は即死だ。少し考えたあと、開けることにした。中身は、手榴弾ではなかった。おそらくハンドガン用のドットサイトだ。そして一緒に紙が一枚入っていた。拙い字で「ハッピーバースデー」と書かれていた。そうだ、俺の誕生日は今日じゃないか…忘れていた。
「ふふ…差出人が書かれてないけど、誰からか簡単にわかるな」
誕生日にこんなものを送ってくるのは、どう考えてもあいつしかいない。クレイ、だろうな。机に置かれた銃に早速取り付けてみる。うん、ぴったりだ。少し眺めたあと、ベッドの近くの机に置いた。
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