第34話 被弾の末

午後一時、ランディが部屋に飛び込んできた。

「おい、クレイが起きたぞ!」

「本当か!?よかった…」

後ろから入ってきたカールが付け足した。

「ただし、鉛中毒の症状が見られる。今までの被弾の分も含めると相当ひどいらしい」

鉛中毒…症状はなんだったかな。

「今出てる症状は?」

カールは深刻な表情をして言った。

「高血圧、だけだといいんだけど」

ランディが続いて聞いた。

「他にどんな症状があるの?」

カールが声を低くして言った。

「人格の変化、頭痛、感覚の消失、歩行協調障害、腎臓などの損傷とか。これらの症状が出るなら前線復帰は無理だろう」

人格の変化だと…?まさか、今のクレイの性格は今までの被弾の結果か?

「ダレク、なんか思い当たる節あるか?」

カールに声をかけられたので俺は言った。

「孤児院にいた頃、クレイはまともだった。多少陽気なところはあったけど、勉強は真面目にやるし、理性はまだしっかりあった」

カールが目を瞑って言った。

「今の頭がトチ狂ったクレイは、生い立ちなどの理由から心の奥底にできた人格が、鉛中毒で表に出てきたってことか?」

「おそらくな」

そう考えれば辻褄が合う。クレイの生い立ちはひどいものだ。2歳で孤児院に入れられ、親の愛を一切受けずに育った。俺とクレイのいた孤児院はろくなとこじゃない。牢屋みたいな部屋に大勢で押し込まれ、食事もまともなものが渡されなかった。おかげでみんな痩せて骨っぽかったな…。脱走した者に送られる仕打ちを見ていたから、全く脱走を考えたことはなかったが。そんな場所で育ったなら性格が捻じ曲がってもおかしくないだろう。

「クレイに面会できるけど、ダレク行けるか?」

オーロンが言う。俺は一言。

「もちろん」


「Cley N. Wilson」と名札がかけられた部屋の前まで、ゆっくり歩いてきた。さて、クレイとご対面といこうか。

「…俺は生きたぞ!!」

クレイがこっちに手を振ってくる。ハイテンションは健在のようだった。

「クレイ、気分は?」

オーロンが聞くと、クレイが笑って答えた。

「最高さ!エンツァイの野郎にナイフブッ刺したし、俺の計画通りになったてとこだな!」

自分が死にかける計画を簡単に立てないでくれ、と全員が思っただろう。カールが続けて聞いた。

「体の方の調子は?」

クレイがしかめっつらになる。

「全く。身体中が痛いわ、頭が痛いわ、口の中が鉄の味するわ、まあひどいな」

「…体動く?」

ランディが控えめに聞いた。

「んー…全然言うこと聞かねぇな」

カールの表情が暗くなった気がする。

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