第33話 過ぎ去った日

「…何この状況?」

この騒動で流石のオーロンも目が覚めたようだ。もちろんベッドからは落ちていない。ベッドに倒れたはずのクレイがものすごい勢いで起き上がり、ガッツポーズする。

「俺たちの勝ちだ!!」

その光景を見てさらに困惑するオーロン。当たり前だろう、目の前には鼻血を流して倒れているカール、顎を抑えてうずくまるランディ、毛布を片手にガッツポーズするクレイ、そして、枕を持って仁王立ちしてる俺がいるのだから。

「お前がベッドから落ちるかどうか賭けてたんだよ」

ランディが状況を説明した。


朝食のソーセージが一本増えていることに大喜びしているクレイとランディを目の前に、明らかな殺意を向けているカールが隣にいる。フォークを握る手がワナワナ震えながら、折れそうなほど力を入れていた。

「ふふふ、勝った後の飯は美味いな〜」

クレイが地雷をさらに踏み抜いた。カールの顔の血管が二、三本浮き出たようだ。

「そうだね〜」

ランディの同調により、さらに血管が浮き出た。

「諸君、今日はクリスマスだが油断しないように。敵はいついかなる時でも攻めてくると考えたまえ」

カスピオス司令のいつもの演説が始まった。司令はいっつも朝食の時、こんなふうに演説する。兵士の士気を高めるとかいう理由があるらしいが、ほとんどの兵士からは「朝の雑音」だとか「飯が不味くなる」とか言われてるけどな。飯は元からそんな美味くない、うん。

「クリスマス休戦とかないのか?過去起こったことあるだろ…」

クレイが2本目のソーセージを口に入れながら言った。こいつはどうせ訓練のサボり方しか考えてない。でもこの軍の中ではトップレベルで強かった。才能っていいな…。

「…それでは諸君の健闘を祈る」

カスピオス司令の雑音が終わった。でもこの司令はなかなかに頭がよい。作戦家で、状況をよく見ている。でもちょっとズレてる人なのが残念なとこだ。


「寒い!寒い!クリスマスとかクソだろ!」

クレイが叫びながら走っていた。今日の天気はもちろん大雪。外での訓練が中止なんてことはなく、普通に走っていた。

「黙ってろ、寒い時に寒いって言ってもどうにもなんねぇよ」

ランディが隣から正論を飛ばすと、クレイがしかめっつらで返した。

「暑いって言ってもどうにもなんねぇのは一緒だろ」

カールは無反応だ。朝食のことを相当根に持っているんだろう。


疲れた…。やはり冬は戦争すべきじゃない。資源も乏しいし、凍死も増えるし。

「消灯だ…今日クリスマスだからちょっとくらい夜起きさせてくれよ」

クレイがブツブツ言うと、すでにベッドに入っていたカールが言い返した。

「起きる体力が残ってない…寝かせろ」

フン、とクレイが鼻を鳴らすと諦めて自分もベッドに入る。俺も横になる。硬くて寝心地は最悪だ。疲れもそんなに取れない。明日もまたこの生活か…いつまでこの地獄にいればいいんだろうな?そうして目を閉じた。


「…去年のクリスマス、ろくなもんじゃねぇな」

病室の静寂を自ら破る。去年は戦地にいたが、今年は戦地じゃ無さそうだ。何して過ごそうかな…。

「クリスマスまでにクレイが起きればいいけどな」

ギョッとして声の方を見ると、ソファで寝ていたはずのカールが起きていた。

「ダレク、てめぇのはクレイに生かしてもらった命だ。大事にしろよ」

言い捨てると、そのまま扉を強めに閉めて出ていってしまった。俺はふふ、と笑って呟いた。

「言われるまでもねぇよ」

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