第37話 暴炎と集中治療室

「ダレク!」

俺たちは部屋の中を見た。部屋が真っ赤に燃えている。先が炎と煙で揺れ、中の様子がわからなかった。

「…クソ、こんなん焼け死んで終わりじゃねぇか」

そう呟いた時、隣がこっちを睨みつけて言った。

「生きてても助けに行かなけりゃ終わりって知ってっか?」

「クレイ?」

瞬間、クレイが炎の中に飛び込んだ。怪我してるとは思えない速度で、だ。

「おい!今動いたら本当に死ぬぞ!」

クレイからの返事はなかった。俺は待つことしかできなくなった。


すぐクレイがダレクを背負って帰ってきた。時間にして数十秒だが、俺はものすごく長い時間に感じていた。部屋の外に出た瞬間、クレイが倒れ込んだ。

「クレイ、ゴールはここじゃねぇ。早く降りるぞ!」

相変わらずクレイからの返事はなかった。

「おい!しっかりしろ…?」

まさか、と思い、クレイの首に手を当てる。

「失神…酸素欠乏症か?」

幸い脈はあるが、それでも危険な状況なのは変わりがない。俺はすぐに二人を担ぎ、階段に向かう。総重量80kg以上くらい…俺なら余裕だ。


足の力が抜ける…。酸素が足りねぇ…。でも俺が倒れたらこいつらも死ぬ。なんとか踏ん張れよ、俺。

「矛盾ばっかだなぁ…ダレクに弱いって言いながら、俺も勇気なんてなかったんだな…」

独り言が心に刺さる。片足がふらっと崩れた時、確かにその足を支える力を感じた。暗い視界をその方向に向けると、クレイが見える。幻覚か?何も言えずに目を閉じそうになった瞬間、脳に声が響いた。

「おい!てめぇはそんなもんか!?」

ハッと目を開けた。息が苦しいのは変わらない。無二の親友は言ったさ。

「俺から見えてたお前はもっと強かったぞ!俺が何しても届かないくらいにはな!」

クレイがはっきりと言った。失神してたはずじゃ…。

「ゴールここじゃねぇんだろ?早く行くぞ!」

あ…あぁ。


それからのことは全く覚えてない。クレイに手を引かれるように5階から入り口まで駆け降りていった。通路や階段が崩れていてもおかしくないのに、ここまでどうしてスムーズに降りれたのか、全くわからない。

「お前ら!」

というオーロンの声が聞こえたところで俺の意識は途切れた。


⚫︎ ⚫︎ ⚫︎


あー…。

「…ってください」


「手を握ってください」

手?手を握る…。

「痛いところありますか?」

あー…あ!そうだ。俺は火事の部屋で倒れた。つまり、今は病院…のはず。いや、天国か?目の前の光景がだんだん鮮明になってくる。たくさんの医者と、ピッピッと規則正しく音を鳴らす機械。これが集中治療室ってやつか?

「先生、ダイヤモンド君が目覚めたようです」

「人工呼吸器を取り外そうか」

大人の声が聞こえる、多分医者だろう。まもなく俺の喉から器具が取り外される。喉が渇いた感覚だ。

「気分はどう?」

目の前にいた医者が聞いてきた。

「上々」

掠れる声をなんとか絞り出して答えた。

「ふむ、君の容体について説明するね。君は、ひどいやけどとひどい一酸化炭素中毒の状態で運ばれてきた。手術と治療の末、一命をとりとめた」

医者は言葉を続けた。

「落ち着いて聞いてくれ。次に、仲間の容体だ」

深呼吸をする。

「君を運んできたカール君はもうすでに目を覚ました。すでに通常の病室に戻り、リハビリをしている。が、ウィルソン君は、危篤状態にある」

「つまり、どういう…?」

医者は重い口を開いた。

「いつ死んでもおかしくない、回復の見込みがない、という状態のことだ。最悪の事態を覚悟してくれ」

マジかよ…。嘘だと言ってくれよ。いや、まだクレイは死んでない。希望を捨てるのはやめよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る