第29話 救出
俺たちが現場に着いた時、ひどい有様だった。
「うわ…」
思わず声が漏れる。ダレクとクレイが血まみれで倒れていた。見たところクレイの方が外傷がひどいし、エンツァイの姿も見えなかった。何があった…。
「おい、何ぼーっとしてんだ?早く応急措置するぞ。オーロンは救護班を呼んできてくれ」
カールが俺の肩を叩いて言った。
「…ああ、そうだな」
「…クソ…出血が酷すぎる…呼吸も浅いし…多分無理して動いたな…」
カールがブツブツ呟きながらクレイの処置をしていた。ダレクの方は左の脇腹に刺し傷があった。おそらく痛みによる気絶だろうとカールが言っていた。一方クレイの方は出血が酷いようで、体内に残留している弾もあるようだった。
「…細菌感染してなければいいんだけど」
カールがクレイの方を見ながら呟く。こればかりは救護班を待つしかないのが辛いとこだ。俺は一つ、疑問に思ったことを口に出した。
「オカリナ、暴風と仲間討ちした後なのに気まずくないのか?」
カールは少し驚いた顔をしたが、にやっと笑い言った。
「そういうのは考えたことがなかったな…喧嘩するほど仲がいいってことだろ」
すぐに救護班は到着したが、クレイの容体を見るなり表情が曇った。そして言うには、
「…この怪我はここでは処置できない」
だとさ。
「そんな…」
膝から崩れるオーロンを見ているとこっちの心も痛くなる。不意にヘルテル司令が現れた。
「…処置ができる病院まで送れ、今すぐにだ。そしてタランチュラの者たちも同行を許そう。すぐに準備しろ」
そんなこといいのか、と理由を聞きたかったが、理由より先に準備をしないといけなかった。血まみれの戦闘服を早く着替えなければ。
数分後、揺れる狭い車の中にいた。目の前ではまだ血まみれのクレイとダレクが輸血しながら寝ている。というよりは起きていない、と言った方がいいだろう。車はかなりの速度を出しているし、道も整備されているものの、といった状態なので揺れが激しかった。隣に座っているオーロンはずっと俯いていた。不安と酔いでまともに話せる状況じゃないのだろう。オーロンの隣に座っているカールは余裕そうな表情だった。
「あと何時間で着くんだ…クレイ…頑張れよ」
カールが頭を掻きむしって呟いた。
「ダレクが起きないのはなんでだ…普通ならもう起きてるだろ…」
カールの呟きは止まらなかった。誰もそれを止めることなく暗い時間が続いた。
⚫︎ ⚫︎ ⚫︎
なんだ…ここ…眩しいけど、瞼が重い。俺何やってたっけ…確かエンツァイのナイフがもろに刺さって…。俺、死んだのか?じゃあこの腹の痛みは?そして重い瞼をやっと開いた。ものすごく眩しい光、久しぶりの光を浴びた。そしてだんだんと周りが見えてくる。いつもの病室じゃねぇな…どこかの病院の一室かな…。
「おい!ダレクが起きたぞ!」
近くからそんな声が聞こえてきた。この声は…多分オーロンだ。その声がした瞬間、視界に入ってくる見知った顔。
「…ダレク」
「ひとまずはよかった…な」
仲間の顔は安堵と不安が入り混じったような複雑な表情だった。
「どうした?何があった?」
俺が聞くと、カールが表情を変えずに説明してくれた。
「クレイの手術さ。今7時間経った」
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